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けんいちブログ

経済産業省への挑戦状(中)

2002.03.31

「経済産業省への挑戦状(中)」
~温暖化対策日記(3月末まで)~どうなる情報公開請求の行方。そして京都議定書をめぐる自民党内の攻防は・・・

◆02年1月22日
自民党の温暖化対策特命委員会が開かれる。この委員会は昨年12月に自民党政調会長の下に設立され、その名の通り地球温暖化問題についての党内論議の場になっている。亀井久興衆議院議員が委員長、鴨下一郎衆議院議員が事務局長をつとめている。その他20数名の委員がおり私もその一員である。もっとも委員以外の議員が参加することも可能である。出入り自由という点は自民党の他の部会と同じである。

この特命委員会は昨年中に2回開かれたが、今年になってからは初の開催となる。本日はまず温暖化問題に取り組んできたNPOから意見の聞き取りをして、そのあと質疑・意見交換に入った。3人のNPO関係者が招かれており浅岡美恵氏(気候ネットワーク代表)、江尻京子氏(多摩リサイクル市民連邦事務局代表)、米本昌平氏(三菱化学生命科学研究所)の順に意見を述べる。私は質疑応答の中で浅岡氏に対し次のような質問をした。「日本の産業界は十分な省エネ努力をしており、もうこれ以上二酸化炭素削減の余地がないという声がありますが、私は必ずしもそうは言えないのではないかと思っています。浅岡さんの示された資料でも日本のエネルギー効率が他の先進国に比べて良いのは、運輸・民生部門が良いからで、こと産業部門に限って言えばそれほど良いとはいえないとありますが、この点についてもう少し詳しくご説明ください」。

だが私以外の議員の発言で大勢を占めたのは「産業界は十分な努力をしている」「現状では京都議定書批准には慎重であるべきだ」という声だった。ちなみに私の名前も、後で発言した3人の議員から否定的な形で引用された。「さきほど水野さんは~と言ったが、それは間違った認識だ」というような具合である。3人とは伊藤達也・党経済産業部会長、近藤剛参議院議員、甘利明・党筆頭副幹事長だがいずれも経産族・商工族と目される人たちである。ちなみに伊藤議員とはこの数日前に一緒に北京に行っている。環境問題への造詣も深い方だと思うが、どうもこの問題では微妙に意見が違うようだ。

終了後、浅岡氏と電話で話す。「小泉首相の施政方針演説にはぜひとも議定書の早期批准が盛り込まれるようにしてほしい」という趣旨のことを言っておられた。

◆1月23日
環境省・中川雅治事務次官が就任の挨拶として議員会館に来る。中川次官や竹内恒夫・地球温暖化対策課長と温暖化の国内対策などについて話す。

◆1月24日
某省幹部と温暖化問題について話す。地球温暖化対策推進法の改正案に各企業にCO2の排出量の公表を義務づけることが盛り込まれなさそうな現状について話す。さらに話が省エネ法に及んだ時、この某幹部が「情報公開法を使うという手があるんじゃないですか」と言う。なかなか面白い考えだと思った。だがこれまでに情報公開法を利用したことはもちろんない。また私自身も1月8日に外務大臣政務官を拝命し、政府の一員という立場にもいる。政府の一員が政府に対して公開を請求をするのが適当かという思いもある。いずれにせよ情報公開法を利用するということを考え出したのはこの時からである。三人寄れば文殊の知恵というが、多くの人と議論しながらその知恵を活用することの大切さを改めて痛感した。

温暖化対策特命委員会の鴨下一郎事務局長を議員会館の部屋に訪ねる。 昨年秋に私が行なった企業アンケートの資料を渡し、各企業にCO2 排出量の公表を義務づけることが必要だという私の持論を説いた。またこれは決して極端な意見ではなく、産業界にとってもマイナスではないとも話す。

◆1月25日
午前10時から党本部704で開かれた温暖化対策特命委員会に出席。ここで亀井久興委員長が出席者に「地球温暖化対策について」と題した文書案を示す。これを叩き台として正式な文書を作り、委員会として小泉総理宛に申し入れたいという。この案は6項目から成るが、見れば見るほど産業界への配慮がにじみ出ている。もっともこれは亀井委員長の責任ではなく、この委員会の出席議員の発言の多数がそうだったのだからそれを受けて取りまとめればこうならざるを得ないとも言えよう。

例えば第3項目で民生・運輸部門については「対策を強力に進めること」としながら、第5項目で産業部門については「これまでの産業界の努力にかんがみ、引き続き産業界の創意工夫と自主的な取組を尊重し、かつ促進するような対策を図ること」という具合である。産業部門に対してだけはこれまでの取組みを褒め上げたうえ、強力な対策については触れないのである。そもそも議定書の批准が今国会に上程されようとしている時に、批准についてひとことも触れていないのも気になる。

そうした中で、第4項目に排出状況の把握・評価という文言が入っている。昨日、鴨下事務局長に話したことが直接影響したのかどうかは分からないが、私の主張の一端が入っていることはありがたい。それにしてもその同じ項目の後段に「安直に規制などを課す手法を採らないこと」とこれまた産業界が喜びそうな一節が入っているのはどういうことだろうか。

結局、この文案の取り扱いは亀井委員長に一任されることになる。文言について一つ一つ言い出せばきりがなくなるので私も一任に賛成する。もはやこの時点では特命委員会の議論よりも情報公開請求を自分の主戦場にしようと考えていたこともある。
この特命委員会からの帰り際に省庁側からの出席者として参加していた経済産業省の澤昭裕・環境政策課長に、情報公開請求を考えていることをチラッと言った。

ちなみに特命委員会から小泉首相への申し入れは、1月31日に行なわれた。この時点では先の6項目は8項目に増えていたが、上述した部分については文言の変更はなかった。

◆1月29日
議員会館の私の部屋に経済産業省の関総一郎・地球環境対策室長、資源エネルギー庁の平野正樹・省エネルギー対策課長らが来る。私の方からは、経済産業省が保管している全国主要工場のエネルギー使用量の報告書について情報公開法に基づいて開示請求しようと考えていることを伝える。さらに地球温暖化対策推進法改正についての経済産業省の姿勢を改めるように求めた。 つまり経済産業省としても企業のCO2 排出量公開義務づけに協力するように要望したわけである。さらにこの問題で前向きな姿勢が見られなければ、あくまでも情報公開を請求すると言明しておいた。こういう言い方は些か取り引きみたいな感じがして、あまり好むところではないが、この際そういう物言いになった。

ただ相手側は企業への排出量報告の義務づけなどはとても飲める話ではないという雰囲気だった。恐らく各省との水面下の交渉の中で今国会の温暖化対策推進法の改正にはそういう事項は盛り込まないことが合意されているのだろう。 このあたりは役所同士で折衝しているため我々にも全貌は明らかになっていない。

だがそれならばせめてもの抵抗として情報公開請求に踏み切らなければならないと思う。もっとも資料を入手する方法としては質問主意書を使うということも考えた。質問主意書とは書面による国会質問のようなものである。当然、政府側には回答義務がある。国会議員には質問主意書を出す権利があるが、私を含めほとんどの自民党議員はその権利を行使したことがない。そういう制度の存在さえ知らない人もいるかもしれない。これの利用も一案だとは思ったが、まずは情報公開法を使ってみることにする。普通の国民が政府の情報にアクセスしようとした場合、どういう手続きを踏むかを体験するのも悪くないと考えたからである。

夕方、経済産業省別館の1階109の行政情報センターに行く。情報公開の手続きについて聞くためである。もちろんここに来たのは初めて。吉田泰彦・情報公開推進室長が出てきて手続きについて丁寧に説明してくれた。気になる費用の方は請求に300円、あとは資料を紙で貰うならばコピー代は1枚20円の実費請求になるという。もっともこれも馬鹿にならない。燃料・電気の使用量を経済産業省に報告している工場は全国で約4100。しかも燃料と電気の報告用紙は別なので報告書はその倍(実際には倍まではいかないのだが)になる。そうすると8000枚×20円=16万円。これはあくまでも1年分の情報である。エネルギーの使用量で重要なのはその推移である。燃料を大量に使っているから悪いというわけではない。産業によってエネルギー多消費型の産業があるのは仕方がない。 肝腎なのは削減の努力をしているかどうかなのである。そうすると数年分の資料を請求しなければならない。例えば10年ならば160万円になってしまう。かなり高いなあと思いながら、経済産業省をあとにした。

この日、深夜遅くに衆議院本会議が開かれ平成13年度第二次補正予算が可決された。そして散会後、30日午前0時すぎに田中外相更迭のニュースが流れる。私は小沼士郎秘書官(大臣政務官には役所の方から一人の秘書官と一人の外務事務官がついている)からの電話連絡で知った。「すぐにNHKをつけてください」というのでテレビをつけたら外相更迭について報じていた。

◆1月31日
午後5時半から首相官邸で小泉首相の出席のもと第9回IT戦略本部の会議が開かれる。私も外務大臣政務官として外務省を代表して出席した。ちなみに田中外相は昨日更迭され、この時点では外相は事実上空席だった(形式上は小泉首相が兼務)。約1時間の会議が終了したあと、車に乗り込もうとする平沼赳夫経済産業大臣に「情報公開法に基づいて経済産業省に情報開示の請求をしようと思っています」と告げた。大臣も「?」という顔をしていた。これまでの経緯を言わずにいきなり「情報開示の請求をしようと思っています」と言っても何のことだか分からないのは当然だろう。説明不足な言い方を反省する。

平沼大臣は私の中学・高校の大先輩(27歳も違う!)で、選挙の時は応援に駆け付けてくれるなど日頃たいへんお世話になっている。また人品骨柄からいっても総理大臣にふさわしい人だと思ってもいる。その平沼先生が大臣を務める経済産業省に情報公開請求をするというのは、なにやら挑戦状を突き付けているようで心苦しい思いもしていた。それだけに大臣にまったく断りなく請求するのも申し訳なく思い、顔を見たら前置きないまま、咄嗟に情報開示請求のことを言ってしまった。この場を借りて「いきなり変なことを言ってすみませんでした」とお詫び申し上げたい。

◆2月1日
午前10時前、奥谷通・環境大臣政務官を訪問。奥谷政務官は自民党内の数少ない環境派の一人である。また衆議院本会議場でもずっと席が隣ということもあり親しくしている。そこで情報開示請求について事前にひとこと言っておいた方がいいと思い、議員会館の彼の部屋を訪問し趣旨を伝えた。

午前10時、経済産業省の澤昭裕・環境政策課長、関総一郎・地球環境対策室長が議員会館の私の部屋に来る。経済産業省としては各企業にCO2 排出量公開を求める方向に踏み出すつもりはないという。予想通りなので驚くことはないが、これで情報開示請求を行なうことを最終的に決断した。ちなみに新外務大臣に川口順子環境大臣が内定したとの報はこの会談の最中に知った。

11時に日本工業新聞の松田宗弘記者が議員会館に来る。昨年秋に温暖化について企業アンケートを実施した時、結果を環境省の記者クラブで発表したが、その時に会っている。温暖化についての取材の一環だという。特命委員会での議論の様子などについて知っている範囲のことを話す。情報公開請求をするつもりだということも別に隠し立てする必要もないので話した。

3時半頃、経済産業省別館の行政情報センターに行く。再び吉田室長が出てくる。省エネ法の担当者としては資源エネルギー庁省エネルギー対策課の富永潤一課長補佐も来ていた。この場で情報公開請求の書類に記入する。最終的に請求した行政文書は「最新年度の省エネ法第11条に基づく定期報告書(燃料等・電気共に第2票以下を除く)」である。

省エネ法第11条によって一定以上のエネルギーを使用する工場は原油、揮発油、ナフサ、灯油、軽油、A重油、B重油、C重油、原料炭、一般炭などの燃料別使用量や電気の使用量を定期報告している。これを請求したわけである。そして請求したのはこの個別のエネルギーの使用量に関する部分だけとした。これが「第2票以下を除く」の意味である。実は定期報告は燃料の場合が第9票まで、電気の方は第7票まであるのだが、すべてを請求するといかんせん膨大な量になってしまう。また出費もかさむ。もちろんこれらもすべて省エネには関係する情報ではあるのだが、本来求めていた個別のエネルギーの使用量は第1票だけで分かるので、あとはこのさい諦めた。ちなみにここで試算してみると、第1票のコピー代だけでも約48万円くらいになりそうである。1月29日の試算はちょっと甘かったようだ。これでもし5年分請求したら240万円になってしまう。とりあえず請求は1年分ということで「最新年度」と限定した。現在だと最新年度は平成12年度になるという。とりあえずこれで請求する。さらに必要ならばそれこそ質問主意書などを利用することも含め、追々考えていこうと思う。

ところで経済産業省に情報公開を請求したといったが、厳密にいうと全国8か所の地方支分部局に請求したのである。情報公開の請求はどうやらその文書が存在しているところに出すものらしい。今回の場合、定期報告書は地方支分部局ごとに集計されているらしい。地方支分部局とは聞き慣れない言葉だが、関東経済産業局、近畿経済産業局などというものを指す。経済産業省の場合、これが8つあるので請求はそれぞれの局長に対して行なった。請求先は平沼大臣ではなく、関東経済産業局長たちであった。少しはホッとした気もする。ただ細かいことを言えば請求手数料300円がそれぞれにかかるので2400円分の収入印紙を買うことになった。また沖縄にある工場だけはこれらの地方支分部局の管轄外なので内閣府に情報公開請求をしなければならないという。そのため沖縄についての請求も今後の課題とした。

さて情報開示の請求者は「水野賢一」個人名ではなく「水野賢一事務所」にした。 どちらでも違いないとは思うが、一応、政務官という立場もあるのでワンクッションはおいたつもりである。もっとも情報公開請求というのは訴訟ではない。政府の一員が政府を訴えるというのではちょっとおかしいかもしれないが、私が行なっているのは単に行政文書の開示請求である。あまり気にする必要はないと思うが、つまらない批判を避けるために一応は配慮したつもりである。

◆2月3日
昨日から情報開示請求の経緯について『経済産業省への挑戦状』と題して原稿書きをしている。本日は成田山新勝寺で恒例の節分の豆撒きがある。毎年、地元代議士ということでお招きに預かり、大相撲の人気力士やNHK大河ドラマ出演者と豆を撒くのだが、今年は風邪をこじらせたので欠席する。その代わりにひたすら原稿を書いていた。

◆2月4日
『経済産業省への挑戦状』を脱稿する。さっそくホームページに掲載する。400字詰め原稿用紙にすると30数枚分だから結構書いたという実感がある。

本日、衆議院本会議で行なわれた小泉首相の施政方針演説には「今国会における京都議定書締結の承認と、これに必要な国内法の整備を目指します」との一節が入った。これによって議定書そのものを葬り去ろうという試みは一応沈静化するだろう。だがこれから大切なのはしっかりとした国内対策をすることである。まだまだ気は抜けない。

◆2月5日
経済産業省に情報公開請求したことについて関係するマスコミに資料を流したりする。いくつか電話取材もあったのでそれに対して答える。

◆2月6日
NGOの気候ネットワークの浅岡美恵代表と平田公子氏が議員会館に来る。このたびの情報公開請求を知って来訪したという。この両名にはちょうど今回の件について知らせる手紙を書いていたところだった。しかしまだ投函していなかったので「どうして情報公開請求のことを知ったのですか」と聞いたら、平田氏が私のホームページを見て知ったとのこと。ご覧になっていただける方がいるというのはありがたいことだ。

浅岡代表によればアメリカでも情報公開制度が導入された約40年ほど前に真っ先にこれを活用したのは議員だったという。一面では党派間の政争のために制度を利用したという面もあるにせよ、議会人の利用が情報公開の定着に寄与したという。こういう話を聞くと勇気づけられる。また今回私が請求した各工場の燃料別の使用量などは企業秘密に該当しないので開示されて当然だという。 ちなみに浅岡さんは弁護士なので、このあたりの発言にも説得力がある。

夕方、環境省・岡沢和好・地球環境局長と竹内恒夫・地球温暖化対策課長が議員会館に来る。温暖化対策推進法の改正や地球温暖化対策推進大綱の改正について話す。私の方からは新しい大綱には産業・民生・運輸といった部門別の削減目標を明記することの必要性を強調しておいた。

私がそう主張するのには理由がある。実は98年に定められた現在の大綱は産業部門からの二酸化炭素を2010年までに90年比7%削減することを前提として策定されている。つまり産業界がよく言う「産業部門からのCO2 排出量は伸びていない」という論法は本当は説得力に欠けるのである。確かに産業界からのCO2 排出量は伸びてはいない。最新の統計である99年度の場合、90年度比0.8%の増にとどまっている。だが伸びていないというのは自慢にならないのだ。7%減らすことが本来の目標値である以上、減らしているならばまだしも横這いで胸を張るというのはおかしいのである。だが現実はこのおかしな論法がまかり通っている。

これはなぜか。その最大の理由は、産業界が7%削減する約束になっているということをほとんどの人が知らないことにある。京都議定書反対を声高に叫ぶ自民党商工関係の議員もその例に洩れない。その責任の一端は経済産業省にあると私は思っている。彼らが「ご説明」として政治家のもとにくる際、7%削減が前提となっているということはまず説明しない。都合の悪いことをわざわざ自分から言う必要はないからだろう。現に経済産業省が作成する資料で「7%」のことに触れているものはほとんどない。

だがもう一つの背景として、現在の大綱にはこれが明記されていないということがあげられる。大綱に掲げられた全体計画は産業界がCO2 を7%削減することを前提として成り立っている。だが大綱そのものの中に「産業界は7%削減すること」と書き込まれているわけではない。7%という数値が登場するのは大綱に先立って出された政府審議会の報告書にすぎないのだ。この点、抜け穴になってしまっているとう見方もできる。それだけに今回、新大綱を策定するにあたっては、ここにしっかりと留意する必要があると私は言ったわけである。

さらに新大綱ではどのくらい原発増設を想定しているのかも問うた。ちなみに現行の大綱は2010年までに原発が20基増設されることを前提として策定されている。私はとりたてて反原発論者でもなければ積極的な推進論者でもないが(ちなみに再処理には疑問を持っている)、好むと好まざるとにかかわらず原発の増設はもはや困難だと思っている。原発への賛否を別にして、客観的に見てそういう社会状況なのである。それだけに原発の大幅な増設を前提として大綱を作れば、虚構の上に計画を作成することになってしまう。 原発問題について私は局長らとなごやかに意見交換をしたが、これが野党などだったら大変だろう。このあたりはよほどきちんと詰めておかないと、国会審議で追及されたときにちょっと厳しいのではないかなあという印象は持った。

◆2月7日
外務省の朝海和夫・特命全権大使が外務大臣政務官室に来る。朝海氏は地球環境問題等の担当。ワシントンで1月末に行なわれた米国政府の環境担当者との会談の内容について聞く。

ブッシュ政権が京都議定書への不支持を表明して約1年になるが、これを翻意させるのは至難の業である。かといってアメリカが関与しなければ温暖化対策の効果が大きく減殺されてしまう。米国には仮に議定書に参加しないことになっても意味ある温暖化対策を取るように強く働きかけていくしかない。一方、国内には米国の不参加を口実にして果たすべきことを果たさないで済まそうという勢力もある。これに対して厳しい眼を注ぐことも忘れてはならない。

◆2月8日
気候ネットワーク代表の浅岡美恵氏からFAXが送られてくる。情報公開について有益なご示唆をいただいた。また中央環境審議会での議論についてもご教示いただいた。なお米国の情報公開法についての説明(2月6日の項参照)については別の件と混同していたので不正確な点があったとのこと。

外務省の岡庭健・気候変動枠組条約室長から温暖化の国際交渉の現状について聞く。地球温暖化問題では米国をどうやって京都議定書に復帰させるかというのが大問題である。日米間では閣僚級のハイレベル協議があり働きかけをしている。また事務レベルの協議も行なわれており、今月末にも再び実施される予定になっている。一方、EUとアメリカの間では同様の協議はない。 昨年6月のヨーテボリ(スウェーデン)でのEU・米国の首脳会議ではハイレベル協議を実施することで合意したが、結局開催されていない。話し合いの場さえ持てないのである。温暖化をめぐるEUとアメリカの溝は思った以上に深いようだ。

◆2月13日
朝8時からホテルニューオータニでイギリス政府の気候変動問題の担当者と朝食をとる。英国側からは今回の訪日団長である環境省のサラ・ヘンドリー氏や貿易産業省の責任者が出席。日本側としては私の他に清水嘉与子元環境庁長官、田端正広・公明党環境部会長、大木哲氏(大木浩環境大臣の子息であり秘書)が出席した。

京都議定書の批准の問題などを中心に幅広く環境問題の意見交換をした。京都議定書への米国の参加を求めることでは一致した。説得といっても簡単なことではないが、諦めずに働きかけていくことの必要性で合意。その点17日からのブッシュ米大統領の訪日時の首脳会談は重要である。

イギリス側はロシアの対応についても心配していた。アメリカに加えてロシアまでが批准しなければ議定書の発効は不可能になってしまうからである。たしかにロシアの態度には曖昧なところがある。批准に前向きだったかと思うと、逡巡しているような気配もある。実を言うと私もロシアの姿勢についてはよく分からない。ロシアは京都議定書に参加すれば排出量取引きによって儲けを得ることが確実視されている。それだけに論理的に考えれば喜んで参加するはずなのだが、どうもそうでもない。駆け引きを狙っているのか、それとも他の狙いがあるのか、はたまた温暖化問題にはあまり関心がないのか不分明である。今後その動きを注視していく必要がある。

イギリスでは今年4月から国内での温室効果ガスの排出量取引きが始まる。参加を希望する企業だけが自発的に参加するという仕組みらしいが、先駆的な試みとして注目される。本日の意見交換で概要については説明を聞いたが、今後きちんと調べる必要があると思った。

◆2月14日
午後1時から自民党本部で党地球温暖化対策特命委員会が開かれる。本日はTBS「報道特集」の取材ということで、審議の内容までテレビカメラの前に公開された。自民党の部会・調査会の場合、冒頭の頭撮りという形でテレビカメラが入ることはあっても、議論の内容まで取材させることは珍しい。今日はその例外ということになる。

まず亀井久興委員長、鴨下一郎事務局長が先日の小泉首相への申し入れについて説明をする。そのあと小川洋・内閣審議官が昨日の地球温暖化対策推進本部での決定について説明し、出席議員による質疑に入る。

政治家の発言を聞いているとそれぞれのこだわりが見えてきて面白い。例えば鳩山邦夫衆議院議員は必ず森林吸収源の話をする。本日も「森林吸収源はグロスネット方式という訳の分からない方法で計算されている。これは1990年には日本には木が一本もなく、2010年には木があるという政治的な仮定に基づいたものだ」と言っていた。 これはたしかにその通りで、京都議定書というのはいろいろな妥協の上に成り立っているため、細部に立ち入ればおかしな点はたくさんある。ただ注意しなければいけないのはこうした論法はとかく議定書に反対する勢力に援用されがちだという点である。「京都議定書には不備がある」→「だから議定書の批准はすべきでない」という形で利用されてしまう。これに対し私の考えの基本は「京都議定書には不備がある」→「だがこれに代わるものがない以上あくまでも批准と実施に向けて最大限の努力をすべきだ」というものである。誤解のないように言うと、鳩山氏自身は京都議定書を否定する側に立っているわけではまったくない。むしろ同氏の主張の力点は「議定書はあくまでもほんの第一歩にすぎない」という点にあることを付け加えておく。

谷洋一衆議院議員も口を開けば林業の話になる。本日も「今の木材価格は昭和30~35年と同じくらい」と力説していた。奥山茂彦衆議院議員は自身が関わっている日中韓の環境問題の議員連盟の話をよくする。加納時男参議院議員は必ずといっていいほど産業界の自主的な努力を称賛する。この点、私とは考え方の違いがある。しかし加納氏の例え話や口調はユーモラスで面白く、聞くだけの価値はある。

そういえば私も毎回同じことを言っている気がする。「現行の地球温暖化対策推進法は不十分だ。産業界にもっと厳しくのぞむべきだ」ということである。なんとかの一つ覚えみたいな気もしないではない。私はなにも産業界叩きをしているわけではない。ただ自民党内には産業界にさらなる努力を求めることを躊躇する雰囲気があり、他に言う人が少ない。そのためあえてそれを説き続けているだけのことである。そして私の力不足もあるのだろうが、その主張が十分に理解されていないから何度も同じことを言うはめになっている。

本日の私の発言は以下の通り。 「日本の国際的地位や日本外交の立場から考えれば、一番最悪の事態というのは、京都議定書を批准して6%削減を国際的に約束したにもかかわらず、それが達成できないということです。ですから批准をする以上は是が非でも達成できるようなしっかりとした国内対策をやっていただきたい。では先程の説明にあったような国内対策で足りるのかというと、私は不十分だと考えています。例えば地球温暖化対策推進法の改正を一番目の柱として掲げていますが、ここには現行の地球温暖化対策推進法の欠点への反省が生かされていない。現行の地球温暖化対策推進法とは何かといえば、この法律は国や地方自治体や事業者がそれぞれ温室効果ガスの排出抑制計画を作るというものです。ところがその排出抑制計画を国も作っていなければ、地方自治体も大部分は作っていなければ、事業者も大部分作っていないというのが実態なわけです。だからここをどうやって作らせるかというのが大切なのに、改正案はそのことにまったく触れていない。これは私は極めて不十分だと思いますし、その部分は政府でもしっかりと検討していただきたい。しっかりとした国内対策をしないで、日本が約束を果たせないなどということになればこれは国辱ですから、しっかりとした対策を望みたいと思います」

私は地球温暖化対策推進法の改正では企業に対し排出抑制計画の作成を義務づけるべきだと考えている。またその前提として各企業にCO2 排出量の公表義務づけも求めるべきだと確信している。ところが今回の改正案にはこうしたことはまったく含まれていない。改正案の主な内容は、地球温暖化対策推進本部を法律に基づく機関にするということや政府が京都議定書目標達成計画をつくるということである。だがこの程度のことでは現状と何の変化もない。例えば地球温暖化対策本部というのはすでに1997年から存在している。ただ現在は閣議決定に基づいて設置されているのを、法律に基づく組織に格上げしようというわけである。これは悪いことではないが、本質的な問題ではない。つまり今回の改正というのはどうでもいい部分は改正して、肝心な部分には手をつけないものだと言えよう。 私の発言中、古屋圭司経済産業副大臣はきちんとメモを取りながら聞いてくれていた。真摯な姿勢には感謝している。同省の方針に反映してくれればもっと感謝するのだが…。なお古屋副大臣には本日、この『経済産業省への挑戦状』をプリントアウトしたものを渡しておいた。

◆2月15日
ブッシュ米大統領が独自の温暖化対策を発表した。本日の各紙はこの米国案について一面で扱っている。柱となっているのはGDP単位あたりの温室効果ガスを2012年までに18%削減するということである。18%というとかなり大幅な削減のようだが、GDP比というところに問題がある。経済成長が続きGDPが大きくなった場合には、温室効果ガスの排出量が増えても構わないということになってしまう。やはりGDP単位あたりという発想ではCO2 の削減にはつながらない。現に90年代の米国はGDP単位あたりのCO2 排出量は12%減少したが、排出総量でみれば15%増加している。ある試算によれば今回発表の「18%減」が守られたとしても排出総量は2012年に90年比で30%も増える可能性があるという。これでは排出総量を削減していこうという京都議定書の精神とは大きくかけ離れたものと言わざるを得ない。つまり今回発表された対策なるものは何もしないよりはまだましというだけのことである。内容そのものは不十分このうえない。

この案に対して外務大臣談話が発表された。私も現在、外務大臣政務官という立場にあり外務省の一員ではあるが、この談話の内容は発表後に知らされた。一読して苦心の作だなと思った。書き出しは「米国が2月14日(米国東部時間)、気候変動政策を発表したことは、米国が地球温暖化問題に対して真剣に取り組む姿勢を示すものであり、我が国としてはこれを評価する」という文で始まる。内容に評価する点がないから、発表したことを評価するというわけだろう。

それにしても談話の中で一言くらいは米国の京都議定書への復帰を求める表現があってもよかったのではないか。最大の排出国である米国が参加しなくては温暖化防止の効果が損なわれてしまうからである。また今後、中国などCO2 を大量に排出している途上国に参加を求める際にも説得力が失われてしまう。だからこそ昨年3月にブッシュ政権が京都議定書不支持を表明した時の河野外務大臣談話では「わが国としては、米国が京都議定書を締結することが重要と考えており」と言っているのである。その後も政府は米国への働きかけを続けることを繰り返し明言している。

しかし京都議定書への参加・復帰を求めるという直裁な表現は次第に姿を消していく。今回の談話でも復帰を求める文言はどこにもない。「米国が気候変動交渉に積極的に参加することを期待する」という表現があるだけである。これでは明らかに不十分である。交渉への参加というだけならば、現時点でも米国は交渉には参加している。マラケシュで開かれたCOP7にも出席はしている。問題なのは交渉には参加しているが、条約に参加しない点なのである。京都議定書に拘束されないという点にこそ問題の本質がある。米国の交渉への参加ということは何も日本が特別に要望しなくても実施されている。だからこそ日本が主張すべきなのは議定書への復帰である。復帰を求めたからといってそうは簡単に実現しないだろう。それは私も重々承知している。しかしそれでも降ろしてはいけない旗があると私は思う。

外務大臣談話といってもその原稿作りには事務方の官僚が大きく関わっていることは間違いない。そこで小町恭士官房長、岡庭健気候変動枠組条約室長らには私の意見を強く伝えておいた。ちなみに川口順子外務大臣とは衆議院予算委員会の合間をぬって午後、二人で20分ほど話したが、この時は温暖化問題の話はしなかった。現在、世間注視の的になっている外務省改革についての意見交換をしたからである。ただ経済産業省に情報公開請求をしたことはまだ大臣には直接言っていなかったので、この時に説明した。

川口大臣も外相就任以来の二週間は連日のように国会で質問を浴びている。本日も民主党議員による外務省への質疑で予算委員会が2時間も中断した。 もっと核心を突く質問ならばともかく、ただ声高な調子で攻撃しているだけという印象がある。追及するだけの材料を揃えていないことを声の大きさで補おうとしている感じだ。大臣の職責とはいえこういう質問に長時間拘束され、一方で資料に目を通したり外交日程もこなさなければならないということを考えると川口大臣は本当に偉いと思う。そうした中で疲れた様子もみせずに堂々と答弁しているのは流石である。

本日、午前中には内閣官房の伊藤哲夫参事官が議員会館の私の部屋に来た。地球温暖化対策推進法の改正案について話をする。温暖化対策は環境省、経済産業省、外務省、国土交通省、林野庁など多省庁に関わる問題なので内閣官房で調整をしているのである。もっとも伊藤氏はもともとは環境庁の出身である。私は温暖化対策推進法の改正案は不十分だとの持論を言った。

夜、国際研修交流協会という財団が主催する夕食会に出席した。衆議院議員は自民党が私を含め3人、民主党から2人出席する。中華料理なので円卓だったが、同じテーブルに経済産業省の日下一正産業技術環境局長がついた。産業技術環境局といえば経済産業省の中で地球環境問題を扱っている。その局長は言うならば私の主張への反対派の巨魁みたいなものである。偶然とはいえちょっと驚いた。様々な話が出て楽しい雰囲気の会だった。お開きのあと日下局長と地球温暖化対策推進法の改正についてちょっと話したが、この部分の意見は一致しないようだ。

◆2月17日
TBSの「報道特集」を見た。2月14日の党温暖化対策特命委員会に取材として来ていたからである。番組そのものには特別な感想はないが、あらためて特命委員会とは何だったのかを振り返ってみるきっかけにはなる。

実は昨年末にこの委員会が設置された時、私はこの委員会は温暖化防止のための国内対策を議論する場だと思っていた。私にとってはまもなく京都議定書が批准されることは自明のことだったからである。そうは言っても6%の削減というのは簡単なことではない。そこでこの特命委員会で効果的な削減策を議論するのだと考えていた。例えば温暖化対策推進法をどう改正するのか、環境税を導入するのか、低公害車や省エネ住宅の普及をどうやって図るのかということが主題になると思っていた。

ところが実際の特命委員会の雰囲気はまったく違った。京都議定書そのものに対する反対論が噴出したのである。勢いそれに対抗する環境派の発言も「議定書の批准は必要だ」というところに力点が置かれることになった。いまさら議定書そのものの是非を問うというのはなんとも馬鹿馬鹿しいことだった。昨年4月に衆参両院が国会決議として早期批准をうたっているのである。もちろん自民党もこの決議に賛成している。批准するかどうかというのはすでに決着済みのはずなのだ。それを再び蒸し返したのは商工族とされる人々である。議論の焦点が議定書は是か非かという点になってしまった分、温室効果ガスを削減するための具体策についての議論はほとんど深まらなかったように思える。

2月4日の小泉首相の施政方針演説に今国会での議定書批准の方針が盛り込まれたことで、批准そのものへの反対は影を潜めるようになった。だが経済界や商工族は今後も削減のための措置を骨抜きにしよう策動し続けるだろう。 温暖化対策には息の長い取り組みが必要である。批准ができそうだということはまだその第一歩にすぎない。長期的な視野を持って取り組まなければならないことの決意をあらためて強くしている。

◆2月18日
本日の読売新聞朝刊に私が経済産業省に情報公開請求をしていることが載った。今朝は地元の千葉県佐倉市から東京に向かったが、佐倉で見た同紙の見出しは「外務政務官が開示請求 地球温暖化資料 経産省拒否で」だった。それが東京の議員会館で読んだ見出しは「政府の一員なのに…経産省資料提供拒否で政務官、開示請求」になっていた。遅版になった時に変わったのだろう。記事そのものは事実関係を淡々と伝えている。

夜6時から首相官邸で訪日中のブッシュ大統領を迎えてのレセプションがあった。田中真紀子元外相が「招待状が来なかった」と騒ぎたてたあのレセプションである。この時、石原伸晃行革担当相が「今日新聞に出てたねえ」と言うので、なぜ請求に至ったかの概要を説明した。情報公開請求の流れについての話にもなる。もし不開示になったら不服申し立てができ、その結果にも不満ならば地方裁判所に提訴できる仕組みになっている。すると一緒に歓談していた杉浦正健外務副大臣が「訴訟になったらただで応援してやるよ。ただほど高いものはないよ」と(もちろん冗談で)言った。ちなみに杉浦副大臣は弁護士でもある。

◆2月22日
本日はモンゴルの首都ウランバートルにいる。モンゴルを訪問するのは初めての経験である。外務大臣政務官として日本・モンゴルの外交関係樹立30周年記念式典に出席するための訪問である。昨日、成田空港を発ち北京に一泊し、本日ウランバートルに入った。日本からの直行便は関空からはあるが、成田からはない(4月に成田~ウランバートルの直行便が就航予定)。

本日の最高気温はマイナス7℃、最低気温はマイナス21℃である。それでも今年は暖冬だという。昨年、一昨年と雪害がひどく家畜が死亡するなどの被害が出たことに比べ今年はずっと良いらしい。バドボルド外務副大臣と会談した時に「モンゴルでは温暖化は歓迎すべきことなんでしょうね」と冗談半分に言ったら「バランスが大事です」という返答だった。

温暖化対策にカナダが消極的になってきたとの声も聞こえてくるが、寒い国に住んでいるとどうしても世論はそちらに傾くのかもしれない。一方、世界には温暖化すると水没してしまう島国もある。多国間交渉の難しさをあらためて考える。

本日は他にエルデネチョローン外相とも会談したが、ここでは温暖化の話はしなかった。モンゴルの街で一番印象的だったのは漢字をまったく見ないことである。使われているのはすべてキリル文字である。ロシア語にNをさかさまにしたような文字があるが、あれである。漢字だらけの北京からモンゴルに入っただけに特にそれが目についた。

◆2月25日
内閣官房の小川洋審議官、伊藤哲夫参事官らが外務大臣政務官室に来る。 今国会に提出予定の温暖化対策推進法改正案についての話をする。しっかりとした温暖化対策を求める声と経団連や自民党商工族などの間で板挟みになった内閣の苦しい立場は分からないでもない。その中でまとめられるぎりぎりの限界がこの法案だという事情もある程度は分かった。だが私としてはこの法案が不十分であるという意見に変わりはないし、自説は今後も曲げるわけにいかないと伝えておいた。

外国訪問中の21日に自民党の「世界規模の森林の違法・不法な伐採及び輸出入等から地球環境を守るための対策検討チーム」の会合が開かれていたが、それに関する資料に目を通す。ここでは主として「温暖化を防ぐためには森林の果たす役割が重要である。だから林業を守らなければならない」という感じの議論が多いらしい。ちなみにこのチームの座長は農林族の実力者として知られる松岡利勝衆議院議員である。

今こうした人々が京都議定書の批准にかなり熱心である。最近はいろいろな立場の人々が環境の旗印を掲げている。だがすべてが全面的に一致するとは限らない。私とこの会の場合もそういえるかもしれない。京都議定書の批准に賛成という結論は同じでも、若干のニュアンスの差はある。私は温暖化を防ぐための王道は二酸化炭素の排出削減だと考えている。森林がCO2 を吸収するのは事実だが、あまりそれに頼りすぎると排出削減への努力がおろそかになるのではないかとの危惧を持っている。もちろん私も森林保全や違法伐採の禁止は必要だと考えている。だがそれを温暖化問題の中心に据えるとなると「ちょっと違うのではないか」という気がする。まして中には温暖化対策に名を借りた林業保護ではないかと疑いたくなるような発言もある(この対策検討チームで聞いたわけではないが)。そうなると違和感はますます募る。

そうは言っても京都議定書に反対する勢力がいる中で、批准に賛成してくれるということ自体はありがたい。この対策検討チームは京都議定書の早期批准を求める署名を党内で集めていた。私はいささか思うところあって署名しなかったが、21日の時点で衆議院議員103名、参議院議員45名の合計148名から署名が集まったということである。理由はどうあれ多くの議員が早期批准を求めることは心強い。奥谷通・環境大臣政務官がこうした農林関係議員の動きについて「思わぬ援軍」と言っていたが、まさに同感である。「同床異夢」と言えなくもないが。

◆2月26日
これまで私は繰り返し、各企業にCO2 の排出量の報告を義務づけるべきだと主張してきた。これは決して突飛な考えではないとも述べてきた。PRTR法では似たようなことをやっているではないかと書いたこともある。PRTR法とは1999年に成立した法律で、化学物質を排出した企業に対してその報告を求めるという内容である。化学物質を出すことそのものを禁じるのではなく、排出することはある程度やむを得なくても、排出量をしっかりと把握して届け出よという法律である。今日あらためてこのPRTR法を読んでみる。同法では健康を損なう恐れがある化学物質と並んでオゾン層破壊物質の排出量の把握も義務づけている。

オゾン層を破壊するフロン類は健康に直接有害なわけではない。オゾン層を破壊することで地球環境に有害なのである。そういう点ではCO2 に似ている。二酸化炭素も直接人体に悪影響を及ぼすものではない。だが地球環境を破壊するという点では問題のある物質である。オゾン層破壊物質の排出量に届け出の義務があるならば、二酸化炭素の排出量にその義務を課すのは少しもおかしくないと思うのだが。

◆2月27日
朝8時30分から党本部702号室で環境部会が開かれる。本日の議題は①温暖化対策推進法の改正案、②鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の改正案、③自動車リサイクル法案だった。ちなみに②にカタカナを使ったのは現行の同法がカタカナ書きのためである。改正の狙いの一つは条文のひらがな書き・口語化にあるという。

温暖化対策推進法の改正については環境省側が現在検討中の法案の概要を説明した。以前述べたように政府が京都議定書目標達成計画を作成し閣議決定するとか、法定の温暖化対策推進本部を内閣に設置するなどといったことが柱になっている。他には家庭などにおける取り組み推進のため地球温暖化対策診断を実施する、地域での取り組みのため「地球温暖化対策地域協議会」を設置するなどがうたわれている。また森林整備等による吸収源対策を推進することも含まれている。いずれにせよ私が主張している各企業のCO2 排出量の公表義務は盛り込まれていない。

本日の部会では私は発言しなかった。ずっと聞き役に回っていたが、温暖化に対しては「森林の保全が重要だ」という意見が多かった。これは決して間違いではないが、次から次へと森林の重要性ばかり聞かされると疑問なきにしもあらずである。CO2 の排出削減こそ温暖化対策の本筋のはずだからである。 その本筋の議論をおろそかにしたまま吸収源の話ばかりするのはいかがなものだろうか。

◆2月28日
いよいよ2月も終わりである。経済産業省に情報開示請求をしたのが今月1日だから約1か月が過ぎた。情報公開法によれば請求を受けた省庁は30日以内に開示か不開示かの決定をしなければならない。その決定が出るのもまもなくだろう。しかし請求以降、経済産業省側からは何の連絡もない。

そう思っていたところ昼に古屋圭司経済産業副大臣と会った。「情報公開請求については事務方から報告を受けているけど、作業にそうとう手間がかかるようだ」と言っていた。そうかもしれない。私が請求した資料は頁数で万の単位になるのでコピーするだけでも大変だろう。その上、なにやら一社一社確認の作業をしているらしい。つまり開示・不開示の決定が遅れそうだということみたいである。原則30日以内の決定ということだが、例外は法律上も認められている。「作業をする上でどうしても時間が掛かるというのであれば仮にそうなってもまあ仕方ないな」と思う。要は情報が公開されることが大切なのだから。

そういえば一昨日の26日夜、若手の国会議員数名で人を招いててんぷら屋に行ったが、その時にも谷本龍哉衆議院議員に「水野さんが情報公開請求したので経済産業省は大変みたいだよ。準備作業に時間が取られちゃって」と言われた。

請求する時点で私も「多分、膨大な作業なので官庁側はたいへんだろうな」とは思っていた。しかし役所に嫌がらせをしているつもりはまったくない。 経済産業省側がすっきりと最初から地球温暖化対策推進法の改正に賛成してくれればよかったのにと思っている。そうすればあえて情報公開請求はしなかったのだから(このあたりは1月29日の項を参照)

◆3月4日
2月1日に経済産業省に情報開示請求をしてから今日で32日が過ぎた。いよいよ開示・不開示について同省の態度が示される時である。本日、議員会館の私の事務所に北海道経済産業局から通知が郵送されてくる。消印は3月2日である。結論から言えば、開示するかどうかの決定を先送りするという内容である。情報公開法は原則として請求から30日以内に態度を決定することを定めている。ただし例外も認められている。同法第10条2項、11条にはその例外が規定されている。今回はこの第11条を行使したというわけである。参考までに北海道経済産業局からの通知の全文を掲載する。

平成14・2・28開示北海第1号
平成14年3月1日
開示決定等の期限の特例規定の適用について                          (通知)
水野賢一事務所様
北海道経済産業局長 高橋はるみ
平成14年2月1日付けの行政文書の開示請求については、下記のとおり、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第11条の規定(開示決定等の期限の特例)を適用することとしたので通知します。

1 開示請求のあった行政文書の名称
エネルギーの使用の合理化に関する法律第11条に基づく定期報告書(様式第4及び様式第5の第2表以下を除く)平成12年度分(平成13年5月提出分)
2 行政機関の保有する情報の公開に関する法律第11条の規定 (開示決定等の期限の特例)を適用することとした理由
開示請求に係る行政文書に複数の法人(第三者)から提出されてきた情報が大量に含まれており、当該法人に対する意見照会のための期間を十分に与える必要があるほか、提出されてくる意見を踏まえた開示・不開示の検討を慎重に行う必要もあり、期間内に開示の可否についての決定を行うことが困難なことから、そのすべてについて60日以内に開示決定等を行うことができないため。(当局の場合、開示請求に係る行政文書について、該当する法人(第三者)の数は108にわたる。)
3 開示決定等する期限
(平成14年4月5日までに可能な部分について開示決定等を行い、残りの部分については、次に記載する時期までに開示決定等する予定です。)平成
14年5月7日(火)
 
*担当課等:北海道経済産業局環境資源部エネルギー対策課
電話 011-709-2311 (内線)2635
以上が北海道経済産業局からの通知である。このような通知が7日までには各経済産業局から続々と届いた。東北経済産業局、四国経済産業局からは書留配達証明で来た。中部経済産業局と中国経済産業局は簡易書留である。近畿経済産業局、北海道経済産業局は速達、関東経済産業局、九州経済産業局は普通郵便である。
文面はほぼまったく同じなので、異なる部分だけを表にまとめてみた。
開示決定等の期限 該当する法人数
北海道経済産業局 5月7日 108 東北経済産業局 6月4日 約300 関東経済産業局 8月5日 約1500 中部経済産業局 7月4日 約680 近畿経済産業局 7月4日 約660 中国経済産業局 6月4日 約340 四国経済産業局 5月7日 約144 九州経済産業局 6月4日 約330

cf. いずれも4月5日までに可能な部分の開示決定等を行い、残りの部分  については上記の期限までに決定するとしている。

◆3月5日
朝9時から党本部706号室で外交部会・外交調査会合同会議が開かれる。外務省側からは事務方の他に、私と今村雅弘衆議院議員の二人の大臣政務官が出席した。本日の議題は今国会に提出予定の条約についてである。外務省は今国会にすでに8本の条約を提出している。そしていま新たに7本を追加して提出しようとしている。この7本の提出について自民党内の了解を得るのが本日の主題である。

京都議定書もこの7本の中に含まれている。京都議定書は条約扱いなので自民党内では外交部会で議論され、国会では外務委員会で審議されることになる。一方、6%削減のための国内法は党内では別の関係部会で議論される。例えば地球温暖化対策推進法は環境部会、省エネ法の改正は経済産業部会という具合である。ちなみに本日の外交部会に上程された残りの条約とは受刑者移送条約、テロ資金供与防止条約、実演・レコード条約、世界知的所有権機関設立条約改正、エネルギー憲章条約、エネルギー効率等に関するエネルギー憲章議定書の6本である。

外務省の林景一条約局審議官がこれらの条約について概要を説明した。本来ならばこのあと出席議員たちから様々な質疑応答があるはずである。まして京都議定書は注目度が高い。賛否両論も渦巻いている。私も一悶着はあるかなと覚悟はしていた。もちろん私は「いかに反対があろうと批准を断行すべきだ」という考えのもと、この会議に臨んだ。ところが7本の条約の説明が終わると何の異論もないままに、あっさりと「異議なし、了解」となった。

というのも外務省は昨日、鈴木宗男衆議院議員による不当な圧力について調査報告書を発表した。「ムネオハウス」に加えて国後島の桟橋工事にまで鈴木氏が介入していたことが明らかになった。皆の関心はこちらに集中していたのである。本来、今日の会議では鈴木議員の件は正式の議題ではなかった。だがほとんどの参加者はこれについて議論したがっていた。 そのため他の案件はさっさと切り上げたいという雰囲気だったのである。京都議定書があっさりと承認されたのはいささか拍子抜けだった。ただ異論がないままにすんなりと了承されたこと自体は喜ばしい。ともあれちょっと妙な気分でもある。

午前中、環境省の地球温暖化対策課の竹内恒夫課長が議員会館にくる。温暖化対策推進法の改正について話す。話をしている中で東京都のCO2 への取り組みに興味を引かれたのであとで調べてみた。東京都は環境確保条例によって都内にある一定規模以上の事業所に対して「地球温暖化対策計画書」の作成・提出を義務づけている。この条例は昨年4月に施行され、今年4月以降は1100の工場などが実際に計画書を作成しなければならない。もちろんこうした事業所は現状の温室効果ガスの排出状況も把握・公表することになる。まさに私がこれまで繰り返し主張していることを自治体レベルでやっているのだ。三重県でも昨年10月に施行された「生活環境の保全に関する条例」に基づいて同様のことが実施されている。すでに先進的な自治体はこうした取り組みをしているのである。なぜ国はやろうとしないのだろうか。

◆3月6日
京都議定書の今国会での批准は小泉内閣の方針である。与党のうち自民党外交部会は昨日これを了承している。公明党も同様である。ただ保守党内では井上喜一・政務調査会長がかなり強く異論を唱えているらしい。どこの党にもこういう人がいるようだ。

◆3月7日
朝8時半から党本部707号室にて環境部会が開かれる。私を含め20名ほどの議員が出席。正面には環境部会長の山本公一衆議院議員、部会長代理の西野陽衆議院議員、党環境基本問題調査会長の自見庄三郎衆議院議員、環境大臣政務官の奥谷通衆議院議員が座る。本日の議題は地球温暖化対策推進法の改正案と鳥獣保護法の改正案である。両法案の国会提出の了承を得ることが狙いだった。

最初に加納時男参議院議員が発言したあとに私が発言する。少々長くなるが、自分の発言を引用する。 「地球温暖化対策推進法の改正についてですけれども、私は一言で言うならばこの改正案に賛成しかねると思っています。理由は簡単に言えば不十分だということであり、もっと言うならば法律を改正するにあたっての基本的な心構えが間違っていると思うわけです。どういうことかというと法律を改正する以上、現行法に問題点があるからこそ改正するのだから、現行法の問題点を調べてそれを改正するというのが基本的なあり方だと思うわけです。では現行の地球温暖化対策推進法の何が問題かというといろいろある。その中で最大の問題点は守られていないということです。では守っていないのは誰か。はっきりいえば政府が守っていないんですよ。例えば現行のこの法律は政府に対して温室効果ガスの排出抑制のための実行計画を作れと定めているわけですね。この計画を作っていますか、局長どうですか。イエスかノーかで答えてください。(岡沢和好・環境省地球環境局長が「作っていません」と答える)作っていないわけですよ。数年前にできたこの法律で政府は計画を策定することを義務化されているにもかかわらず作っていないわけですよ。この部分というのは現行法の枝葉ではなく、一番メインの柱の部分であるにもかかわらず作っていない。その問題にまったく触れていない。先程の説明の中でさえ何も触れていない。そういう改正案というものが果たして十分なのかというのは疑問に思っています。

他の部分についても言えば、現行の地球温暖化対策推進法は企業・事業者に対しても温室効果ガスの排出抑制計画を作ることを努力義務として求めています。ではどのくらいの企業が作成していますか。分からないはずです。きちんと調べていないんだから。こういうことを是正することこそ改正案に盛り込むべきなのに盛り込まれていない。私は基本的にこの改正案は不十分だと思っています。ではどういうふうに改正すべきかといえば、例えば事業者に対しては温室効果ガスの排出抑制計画を作成することを明確に義務化するとか、期限を決めて明文化すべきだと思う。もちろん政府が自分自身で実行計画を作るのは言わずもがなのことです。

私が今いっていることは決して突飛なことではない。例えば東京都は石原都知事のもと今年の4月から環境確保条例で私がいま言ったようなことを都独自にやることになっている。環境確保条例は去年施行されていますからね。だから決して突飛なことを言っているわけではない。そういうことがなぜ法律の改正案に盛り込まれなかったのかをお伺いしたいし、このままでは了承することにいささか疑義があることを申し上げたいと思います」

実は私は同法の改正案に頭から反対なわけではない。現行法より一歩は前進したと思っている。ただ三歩進むべきところを一歩しか踏み出していないという不満を持っているのである。逆に改正案が潰れてしまってはその一歩さえ踏み出さないことになってしまう。本音のところではそれも避けたい。

私の意見に対して、環境省の岡沢地球環境局長が答弁した。だが十分満足できる答えとは言いがたかった。私はさらに次のように発言した。「私は何もこの法律が全部間違っていると言っているわけではない。方向性がまったく間違っているとは言わないけれども、踏み込み方が甘いと言っているわけですよ。そういうことを念頭に置いた上で今後しっかりと対応してほしい。なにも『この法案を通さない』と言っているわけではないのであって、しっかりとした対応を求めているのだ。例えば現行法でも政府に義務づけられている排出抑制の実行計画を早急に作るべきです。またさっき指摘したように東京都も各事業者に温室効果ガスの排出状況を報告させることをやり始めようとしているわけですから、それをしっかりと研究し、踏まえた上で前向きに対応してもらいたい」

これに対して山本部会長が「今の水野先生のご指摘は極めて重要なことだと思います。これから目標達成計画などがありますが水野先生の意見を十分考慮して作業してもらえばと思います」と受け、岡沢局長もこれを約束したので、私も法改正を了承した。

このあとも数名の議員が発言したが、本日は「環境省よ、もっとしっかりしろ」という類の発言が多かった。1時間ほどの議論を終えて、環境部会としては地球温暖化対策推進法と鳥獣保護法の改正案を了承した。  環境部会で了承された地球温暖化対策推進法は本日の政調審議会(政審)にかけられることになった。御存じの方も多いとは思うがここで自民党の意思決定システムについて簡単に触れておく。政府が国会に提出する法案は与党である自民党で三段階の了承を経てから提出されるのが慣例となっている。 これが最近話題になっている法案の事前審査制度である。第一段階は部会である。自民党には外交部会、国土交通部会、経済産業部会など12の部会がある。通常、部会長は当選3回くらい(衆議院議員の場合)の議員がつとめる。次が政審である。これは政務調査会長もしくは政調会長代理が出席しての会議である。そして最後が総務会である。これは日常業務に関する党の最高意思決定機関であり、党五役はすべて出席する。

京都議定書は昨日の外交部会で了承され、地球温暖化対策推進法は今朝の環境部会で了承されたので、これらが第二段階目の政調審議会の審査にあげられたわけである。ところが異変はここで起こった。外交部会から上ってきた7本の条約のうち6本はすんなりと了承されたが、京都議定書だけが了承されなかったのである。部会と違って政審は誰でも参加できるというわけではない。基本的にはメンバーだけが出席する。私はこの構成員ではないので出席していない。そのため詳しい状況は分からないが、出席者によると麻生太郎政調会長自身が本日の了承に待ったをかけたようである。他にも慎重論を唱えた人がいた。慎重派の論拠は次のような点である。

・米国、中国が参加しない中で日本が議定書に束縛されるのはおかしい。日本経済に悪影響を与える。 ・米国などに対して十分な外交的働きかけをしたのかが疑問 ・5日の外交部会で事実上、なんの議論もなかった もちろん反対論一色だったわけではない。臼井日出男衆議院議員や鈴木恒夫衆議院議員などは批准を推進する立場から発言している。だが結局は本日の京都議定書了承は見送られることになった。温暖化対策推進法の方は内容面では問題なしとされたが、京都議定書が了承されないのにこちらだけ認めるのはおかしいということで政調会長預かりという形になった。

政審を通過しなかったという報はすぐに入ってきた。環境省の奥谷大臣政務官からも外務大臣政務官室に電話がある。この段階ではまだ多少情報も錯綜している。外交部会に差し戻しになったという話もあれば、政審で了承されなかっただけで差し戻しではないという声もある。もし差し戻しならば外交部会の了承をもう一度やり直すことになる。いずれにせよ巻き返しに転じなければならない。

4時から党本部704号室で温暖化対策特命委員会が開かれる。これにも出席する。亀井久興委員長から本日の政調審議会に関して話がある。この場の議題も京都議定書や地球温暖化対策推進法についてである。特命委員会は了承機関ではないが、各部署で十分に審議を尽くせということなのだろう。議定書批准を積極的に求める声と慎重な声は相半ばするというところだった。慎重派も必ずしも「批准絶対反対」と言っているわけではない。

「私は批准に反対なわけではありませんよ。ただし…」という論法が多い。加納時男参議院議員がよく使う表現で言えば“Yes,but…”なのである。そしてbutから先が長いのが特徴である。この席での私の発言の大意は次の通り。
「いまや京都議定書の批准というのは日本の環境政策を占う象徴的な問題になっている。政府も議定書に署名をした、首相も早期批准の方針を打ち出している、国会も衆参両院で昨年の4月全会一致で早期批准を決議している。それにもかかわらず批准ができなかった、もしくは遅れたということになれば日本の環境政策は大幅に後退したというように世界に見られてしまう。私はあくまでも早期批准を求めます。

確かに京都議定書というのは妥協の産物であり100%完璧なものではないでしょう。いろいろと問題点を指摘することもできるでしょう。しかしこれに代わる国際的合意がないというのもまた事実です。議定書にあれこれ言いたい人たちの主張もまったく分からないわけではない。ただ日本がそれを言い出せば、日本だけでなくどの国も自分たちの理屈を言うはずである。ちょうどアメリカが京都議定書には不備があると言って出てしまったように。どの国も自分の都合を言い出してしまえば結局、温暖化対策というのは成り立たないのです。私は早期批准を求めます」

5時半に外国からの客が外務政務官室に来る予定になっていたので途中で退席する。最後までいた人から内容を聞くと、本日の会で特別結論めいたことを出したわけではないようだ。

◆3月8日
3月7日の項に書いた通り、昨日自民党の政調審議会で京都議定書が了承されなかった。これは憂々しい問題である。私は初当選以来、環境問題に力を注いできたつもりである。その点、まずは一人の政治家として非常に残念に思う。それと同時に私はいま外務大臣政務官という職にある。この職務上からも大変深刻な事態だと受け止めている。京都議定書というのは国際的な条約である。しかも日本が議長国になって取りまとめた約束である。もちろん日本政府は署名している。98年4月28日のことである。それを批准できなかったということになれば、国際的な背信行為との謗りを免れない。 日本外交の汚点になってしまう。

それだけに大臣政務官として批准のため全力を尽くしていく覚悟である。各方面に働きかける努力も惜しまないつもりだ。ただこのホームページ上でその活動のすべてを書くことは難しくなってきた。経済産業省に情報開示請求をして以来、この「温暖化対策日誌」にできるだけ詳しく地球温暖化への取り組みを書き綴ってきた。情報公開請求はあくまでも水野賢一個人の行動だったのでそれで問題なかった。だが政務官としての仕事となるとやや違ってくる。職務上知り得たことをすべて書くわけにもいかない。また反対勢力も多い中で手の内をすべて明かすわけにもいかない。書いてしまうことが批准にマイナスに働くということを今の時点では何よりも恐れる。しかし一方でこれだけ重要な問題である。また国民の関心も高い。できる範囲で状況の報告を続けていきたいと思っている。

本日、河本英典外交部会長はじめ昨日の政審に出席していた議員や関係者の数名に会う。だいたいの様子を聞いた。どうやら外交部会への差し戻しが決まったというわけではないようだ。ちなみに昨日の政審で了承された京都議定書以外の6本の条約は本日11時からの総務会に上程されここでも了承され、党内手続きは完了した。総務会で京都議定書についての話はなかったという。

本日午後1時から党本部で今度新たに発足する予定の「低公害車等普及推進議員連盟」の発起人会が開かれる。この時も顔を合わせた環境派の議員とは昨日の政審の話になる。その他、外務省幹部、環境省幹部、NPOの人たちと会ったり電話で話したりする。

◆3月9日
今朝の読売新聞の一面トップ記事として政府の地球温暖化対策推進大綱の新案の内容が出ている。これによれば2010年度には90年度比で産業部門のCO2 排出量を7%削減、民生部門で2%削減を目指すことになる。2月6日の項にも書いたが私は新大綱には部門別の削減量を明記すべきだと考えているのでこれは歓迎すべきことである。ただ7%、2%といった具体的な数値については初耳である。
夕方、私の選挙区の千葉県八街市の人の結婚式に出る。臼井日出男衆議院議員と隣の席になったので一昨日の政審の話をする。批准に前向きな姿勢は実にありがたい。

◆3月11日
外務大臣政務官として京都議定書の「ご説明」として何名かの自民党議員のところを歩く。要は反対派を宥め、賛成派を増やす根回しである。こうしたことはあまり好むところではないし、得手でもないが、この際好き嫌いは言っていられない。議定書批准のためである。下げたくない頭を下げることも必要とあればせざるをえない。法案でも条約でも反対する理由として、中身が気に入らないということはもちろんある。だがそれ以外に「事前に説明がなかった」ということで妨害されることも往々にしてある。「俺は聞いていない」という反対論である。こうしたことを防ぐためにも丁寧な説明が求められる。この点、どうも外務省には丁寧さが欠けていたようにも思える。京都議定書の場合は外務省・環境省の双方に深く関係しているが、環境省に比べても要所要所への根回しが足りなかったような気がする。もちろん私一人で関係者すべてを回れるはずもないので手分けはする。各議員から出た意見などは夕方、川口大臣に会った時に伝えた。

それにしても産業界は「議定書は経済に悪影響を与える」として反対・慎重論を説くが、本当にそうなのだろうか。京都議定書の経済的影響については様々な試算があるが、GDPへの影響は最大に見積もっても年率にすれば0.1%足らずのものである。そのうえ排出量取り引きを利用すれば経済への影響はもっと小さくなるとも言われている。もちろん環境ビジネスの創出など経済へのプラス要因も勘案すべきである。環境規制が産業界に負の影響のみを与えるというのは早計である。かつて日本の自動車産業はマスキー法という米国の排ガス規制によって窮地に立ったかに思われた。しかし技術者たちはこれに対応した自動車を生み出し、かえって輸出競争力を増したことがある。今回もいたずらに議定書を恐れるのでなく、むしろ新たな好機と捉える心構えが産業界に求められている。

◆3月12日
自民党総務会が開かれる。京都議定書は政調審議会で止まったままなのでまだ総務会の正規の議題にあがっているわけではない。しかし後藤田正純、野中広務の両総務から京都議定書に前向きの対応を求める発言があった。ちなみに私は現在、総務会のメンバーではないので以上の話は関係者から聞いたものである。総務会は毎週火、金の2回開かれる。私も党の青年局長をつとめていた昨年5月から今年1月まではこれにオブザーバー参加していたので、だいたい雰囲気は分かるが、ここでの発言は重い意味を持つ。こうした発言を受けて山崎拓幹事長が議定書に慎重な姿勢を示す議員に電話をして説得したらしい。こうして党内調整は徐々に進んでいく。
一方、私も昨日に引き続き政調審議会のメンバーの数名の部屋に行き、議定書への理解を求める。

夕方、議員会館で『環境新聞』という専門紙のインタビューを受ける。温暖化対策推進法の改正や情報公開請求について話をした。このインタビューは同紙3月20日号に掲載される。他の新聞記者も取材に来たので温暖化問題について持論を言う。

◆3月13日
引き続き党所属国会議員のところを回り議定書への理解を求める。もっとも本日私自身が訪問したのは一名だった。もちろんこうした「ご説明」のために回るのは私だけではない。とてもでないが一人で回れる人数ではない。

行く対象になったのは政調審議会、総務会、温暖化対策特命委員会のメンバーや国対・議運幹部、さらにはその他の党幹部などに及ぶので自民党議員だけで100名は超える。もっとも中には「わざわざ来なくても賛成するから大丈夫」あるいは「資料だけ貰えればそれで結構」という人もいるから全員のところを訪ねるわけではないが、それでも数が多い。そこで私や事務次官、外務省条約局、国際社会協力部、経済局などの人間が手分けをして回った。

議定書の批准が経済に悪影響を与えると懸念する人に対しては、私の方からは特に次の二点を力説した。
①温暖化対策は新たなビジネスチャンスにもつながる
②仮に経済にいくらかの悪影響をあるとしても、温暖化が進行してから対  策を講ずるともっと深刻な経済的影響が出る。病気と同じで早期に手当  てすることが大切。
こうした動きの甲斐も多少はあったのかもしれないが、だいたい今後の日程が見えてきた。19日の党政調審議会で再び京都議定書を議題として取り上げ了承し、引き続き同日行なわれる総務会に諮り了承を得るという流れである。この分でいけば当初の予定よりは10日余り遅れるが、なんとか自民党の党内手続きが終わり、国会提出への目途がつきそうだ。

◆3月14日~28日
多忙を言い訳にしてはいけないのだが、ついついこの温暖化対策日誌にも合間があいてしまった。3月14日から28日までにかけての2週間の動きをここでまとめて書いてみたい。ちょうどこの時期が京都議定書を国会に提出するまでの過程にあたる。予定よりも大幅に遅れたがなんとか国会提出にはこぎ着けた。それを振り返ってみる。

毎年1月に開会される通常国会の会期は150日である。今年は1月21日に召集されたので会期は6月19日までになる。通常国会は前半で来年度予算案を集中的に審議する。予算は新年度に間に合うべく3月末には成立することが望まれるからである。今年の場合は予算案の審議中に田中真紀子外相の更迭、鈴木宗男疑惑の浮上という波乱があったが、3月27日に予算は成立した。予算の可決後が後半戦である。ここでは重要法案の審議が行われる。

そこで政府が国会に法案を提出する時期も大ざっぱに分けて二段階に分かれている。予算関連法案は2月15日までに提出し、一方、予算関連以外の法案・条約は3月15日までに提出するのが目途となっている。先に述べたように国会は6月まで開催されてはいる。だが会期末ぎりぎりに法案が提出されても審議時間が足りないということになりかねない。審議未了で廃案という事態を避けるためにも期限を守って早めに法案が出されることが望まれている。

京都議定書は条約の一つであるが、予算関連ではないので3月15日までに国会提出することが求められていた。そして実際には少し余裕を持って3月12日に閣議で決定し、国会に出すという道筋を描いていた。それに間に合わすために3月5日の自民党外交部会での了承、7日の政審、8日の総務会での了承という予定だったのは前述した通りである。ところが 日の政審で了承されなかったことから予定が大きく狂ってきた。

この日誌の3月7日の項で触れたが、現在、政府が国会に提出する法案・条約は与党で事前に承認を得る慣行になっている。これがいわゆる法案の事前審査制である。この事前審査は法的に根拠があるわけではないが昭和37年から慣行として行なわれ、現在では完全に定着している。最近では小泉首相がこれを改めようとして話題を集めている。余談になるが私は以前はこの事前審査制の廃止には疑問を持っていた。だが京都議定書の場合、事前審査の段階で与党内の抵抗を受け、遅延を余儀なくされた。 こうした事例を目の当たりにすると事前審査という慣行についても考え直さなければならないと思い始めている。

京都議定書の与党審査で一番早く反応したのは公明党である。公明党は7日に党内手続きを終えた。問題は自民党と保守党だった。自民党では7日の政調審議会で了承されなかった。そのため12日の閣議には間に合わなくなってしまった。閣議は毎週火曜日と金曜日の週2回開かれる。そこで12日(火)の次の閣議は15日(金)となる。そこで最初は15日の閣議決定に間に合わすことも模索されたが、一度党内で待ったがかかった以上、そんなに簡単にことが運ぶはずもない。15日という線はすぐに消えた。

この時点での党内の雰囲気を振り返ってみると、さすがに「議定書は絶対に通さない」という人はほとんどいなかったと思う。議定書に反対・慎重の立場をとる人たちでさえ、批准はやむなしと考えていたはずである。ただ「通すことはやむを得ないがすんなりと通したくはない」という気運が満ち満ちていたというのが正しいところだろう。商工族と呼ばれる人たちの心境を代弁すれば、議定書潰しには走らないまでも一言いっておかなければ気がすまないというものだったのだろう。まあ私自身が地球温暖化対策推進法の改正案に対しては同じような姿勢だったからあまり人のことは言えないのだが(3月7日の項参照)。

議定書批准に向けての党内手続きが停滞した最大の理由はもちろん政策的なものである。京都議定書は経済成長にマイナスだと考える議員が多くいたためだともいえる。だが単に政策論だけではない面もある。いわゆる「根回し」が不十分だったことも指摘される。特にその点で批判の矢面に立ったのが外務省である。

政界では「俺は聞いてない」と誰かが言い出すと進む話も進まなくなってしまうことはしばしばある。内容の議論にはいる前に手続き論で止まってしまうわけだ。それだけに事前の根回しが重要となる。根回しが重要などというといかにも旧態依然とした政治手法を推奨しているようだが、この場合外務省の根回し不足を批判する議員の言い分もある程度は分かる。彼らは言う。「京都議定書の内容を履行するためには国内で多大な努力が必要となる。嫌がる産業界も説得しなければならない。それなのに外務省はそういう努力をしていない。条約を結ぶだけで、あとの難しい国内対策は人任せにしている。自分たちはそういう難しい部分を請け負っているのに、その自分たちに挨拶にも説明にも来ない」という理屈である。

温暖化対策特命委員会の亀井久興委員長が自民党機関紙『自由民主』(4月2日号)で「京都議定書の取り扱いについては、党内で慎重な議論が行われました。そのなかで大きな問題として、外務省に対する批判があったと思います。外務省の姿勢は、極端な言い方をすると『外交交渉の技術屋』のようになってしまい、ただうまくまとめればいいという姿勢が目立ちました」と述べているのも軌を一にする批判といえよう。こうした主張が100%正しいかどうかは別として、外務省としても謙虚な気持ちで批判を受け止めることが必要だろう。

さらに話をややこしくしたのが外務省メモの流出だった。議定書の自民党内審査について触れたメモがどういうわけか一部自民党議員の間に流出した。メモは省内の国際社会協力部関係者が作成したと見られるが、正規の行政文書ではなく私的メモにすぎない。実を言うと私もこのメモは流出後に初めて見たが、特段重要なことが書いてあるわけでもない。私は大臣政務官という職務上、外務省内で様々な“極秘”“秘”などの文書を見ているが、それに比すればたいした内容のものとはいえない。しかしメモの中で「慎重派」などと名指しされた議員からすれば不快に思ったのも無理からぬことだろう。「自分の発言の片言隻句を捉えて慎重派などと勝手にレッテル貼りをするのはけしからん」として外務省への反発を強めた。折しも鈴木宗男疑惑で外務省メモに世間の関心が集まっている時だった。メモによって鈴木氏の入札介入や北方領土不要論が明らかになり同氏を追い詰めたばかりである。多くの政界関係者がメモに対して過敏になっていた。それだけに温暖化をめぐるメモ流出は外務省への風当たりを強めることになった。私からも省内関係者に対してメモ等の情報管理はしっかりとするように指示をしておいた。

繰り返しになるが自民党の法案・条約の事前審査には三つの段階がある。部会・政調審議会・総務会である。京都議定書の場合、この二段階目で了承されずに店晒しになってしまった。そこであらためて政調審議会に諮り、ここで了承される必要がある。以上のような混迷をきたした末、19日(火)の政調審議会で京都議定書は再び取り上げられた。政調審議会は毎週火、木の午前10時から開かれる。ちなみに総務会は毎週火、金の午前11時からである。前回の7日の政審の時には河本英典・外交部会長が説明をしたが、今回は亀井久興・温暖化対策特命委員長が説明をした。そしてついに了承された。ただこの時も麻生太郎政調会長らがメモの話を持ち出し、そのことは翌日の読売新聞でも報じられた。最終段階の総務会にも同19日すぐに諮られた。 ここで京都議定書と温暖化対策推進法が了承された。私自身は政調審議会も総務会もメンバー外なのでこれらの会合には出席していない。こうして最大の問題の自民党の党内手続きは終了した。

だがまだ保守党が残っている。政府側としては当初、保守党の党内手続きは8日に終えてもらうことを期待していた。だが8日の保守党の政調の会合は京都議定書を議題としなかった。15日の政調合同部会では議題として取り上げられるが、了承は得られなかった。それどころかかえって党内に新たに「京都議定書に関する委員会」なるものを立ち上げ、ここで再度議論することになった。このため了承は延び延びになる。この委員長には海部俊樹元首相が就任し、20日に第1回会合を、26日には第2回会合を開いた。いずれも経済界の代表者を招き意見交換をしている。そして同委員会は26日に政府に対して地球温暖化問題についての見解を求める17項目の質問状を提出し、28日朝までの回答を要求してきた。

この質問書の内容自体には特別目新しいものはない。冒頭で温暖化防止を「今日の我々の歴史的使命」と呼びながら、具体論に入ると米国・中国などが不参加の中で日本が6%削減すると競争力の低下や産業の空洞化を招くのではないかと心配し、産業界への規制・税負担を批判し、原発の推進を求めるなどだいたい産業界がこれまで主張してきたことの鸚鵡返しである。ただ一つ気になったのは質問の第4項目と第5項目である。それぞれ次のようなものである。「COP7では、議定書批准国への法的拘束力はないとしているが、その担保はあるのか」「政府は法的拘束力については留保しているが、引き続き、留保する方針か」。 これだけ読むと、保守党は京都議定書には法的拘束力はないと解釈しているように見える。もしそうだとすればとんでもない誤解である。もしくは理解不足である。京都議定書は条約である以上、法的拘束力があるのは当然である。日本が6%、EUが8%といった削減目標を守るのは単なる道義的責任ではなく法的義務なのである。

「COP7では、議定書批准国への法的拘束力はない…」というのも誤解を招く表現である。昨年秋のCOP7では削減目標の約束を守ることができなかった国はどうするかということが話し合われた。不履行の場合にはなんらかの罰が必要になる。そこでそういう国に対しては排出超過分の1.3倍を次期約束期間の割当量から差し引くことが実質合意された。2008~2012年に約束を達成できなかった国は、2013年以降により 多く削減することになるわけである。ただこの1.3倍ということについてはまだ法的義務にするかどうかは国際的な合意をみていない。法的拘束力がない(というよりもまだ未決着)のは、あくまでもこの遵守制度と呼ばれる部分についてであり、議定書そのものには法的拘束力があることは繰り返し強調しておきたい。当然のことながらこのことは政府から保守党に対する回答にも明記してある。

さて政府は保守党の質問に対して28日に回答した。回答は外務事務次官、農林水産事務次官、経済産業事務次官、国土交通事務次官、環境事務次官名で行われた。外務大臣政務官である私のところには回答内容は事後報告だった。
これを受けた保守党はさらに28日に10項目の要請を決議した。主な内容を要約すれば次のようになる。経団連などの意向に忠実なものといえる。 ・政府は米国や途上国の参加に向け最大限努力をすべきだ
・努力しても米国が参加する見通しがなければ、米国を含む世界のすべての国が参加できる新たな国際的枠組みの構築も考慮すべきだ
・遵守義務違反に対する法的拘束力の導入は承認すべきでない
・環境と経済の両立を基本として、規制や新たな税負担を課してはならない。産業界の自主的取り組みを積極的に支援すべき。
・国は地方と協力して原子力の新増設に責任ある支援措置を講じることが重要

法的拘束力の問題にも触れているが、ようやくこれは遵守制度に関してのことだと分かったらしい。
この日は川口順子外相、大木浩環境相が保守党の部屋を訪ねるなどして理解を求めてもいる。だが同党はさらに政府に申し入れをしてきた。 この決議に対しての外相など関係閣僚の見解を書面で欲しいというのである。結局、この要求に対しては政府側は応じなかった。福田康夫官房長官が拒否をし、保守党側も納得した。こうして保守党の了解も得られたということになり、ようやく29日の閣議に京都議定書がかけられることになった。

それにしても長くかかった。今月初旬には1週間くらいで与党内手続きを終え国会に提出できればと計算していた。それが実際には4週間かかったわけである。紆余曲折を経ながらも国会提出にこぎ着けられた背景には、地球環境を守らなければいけないと思う多くの人たちの声があった。そして実際には日本が議長国としてまとめた条約をつぶすわけにはいかないという意識がかなり強く働いたと思われる。日本の都市の名前が付いた議定書を日本が批准しないのはおかしいという感情である。京都出身の野中広務氏が議定書批准に熱心だったのもその一つの表れかもしれない。奥谷通・環境大臣政務官が私に「もしこの議定書に京都という名前が入っていなかったら国会提出まで行かなかったんじゃないか」と言ったが、そうかもしれないと私も思う。ちなみに京都議定書の正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」で英語では“The Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change ”となる。

国会提出の遅れにやきもきしたのにはわけがある。現在、京都議定書を8月末に南アフリカのヨハネスブルグで開催される環境開発サミット(WSSD)に間に合うように発効させようというのが国際社会の目標になっている。環境開発サミットの最終日は9月4日である。議定書は発効要件を満たしてから90日で発効することになっている。それを逆算すると日本としては6月6日までに締結文書をニューヨークの国連本部に寄託しなければならない。そのためには遅くとも5月下旬には国会で成立させる必要が出てくる。その後、締結文書を作成し内閣法制局で精査したり、閣議決定をする時間が必要だからである。つまり会期末までに成立すればいいという一般の法案・条約と違って成立のタイムリミットがあるのだ。もっとも日が経つにつれ、環境開発サミットでの発効という見込みは残念ながら薄くなってきてしまった。これは日本の責任というよりもロシアの動向によるところが大きい。このへんの事情については後述する。
一方、新しい「地球温暖化対策推進大綱」が19日に決定した。これは政府の地球温暖化対策推進本部(本部長・小泉首相)が策定したもので2010年までの温室効果ガス6%削減のための具体策を定めたものである。部門別の削減目標も産業がマイナス7%、民生がマイナス2%、運輸がプラス17%と明記された。

具体的な施策については数が多いのでいちいち論評しないが、重要なのは大綱作成ではなく、二酸化炭素の排出削減である。大綱を作るだけで終わってしまってはならない。旧大綱は98年6月に作られているが、その後、温室効果ガスの排出削減が進んだとは言い難い。現にこれまでの取り組みでは不十分なことは新大綱で認めている。 政府自身が「現行の対策・施策だけでは、2010年の温室効果ガスの排出量は基準年比約7%程度増加になると予測され」と言っている。今後の徹底した対策が必要である。

さて国際社会の中ではロシアの動きが注目された。というのもロシアが加入しないと京都議定書が発効しないからである。京都議定書の発効要件は俗に“55か国、55%”と言われる。まず55か国以上が締結することが必要になっている。これは2月の時点ですでに47か国が締結しているので、要件を満たすのは時間の問題であり、あまり心配する必要はない。懸念されているのが二つ目の条件、つまり55%というものである。これは締約した先進国(条約上は附属書?国という)の1990年の二酸化炭素排出量の合計が先進国全体の90年の二酸化炭素総排出量の55%を超えることが必要だというものである。ここはちょっとややこしい。1990年の先進国(附属書I国)の二酸化炭素排出量を100とすると、そのうち米国が36.1%を占めている。EUが24.2%、ロシアが17.4%、日本が8.5%、カナダが3.3%となる。これらのうち京都議定書に参加する国の排出量を足して55%を超えなければならないという意味である。逆に言えばアメリカが不参加を表明している現在、残る先進国がすべて参加すれば100-36.1=63.1%で条件を満たすことができる。だがアメリカ・ロシアの両国が不参加になってしまえばこの条件がクリアできない。議定書の発効要件は“55か国、55%”の双方を満たすことなので、ロシアが参加せず二番目の条件が満たされなければ京都議定書は死文と化してしまう。

そこで環境に関心を持つ多くに人々がロシアの行方について注視することになった。川口外相もイワノフ外相に3月13日付で書簡を出し、早期の議定書締結を求めた。どうもロシア国内ではこの問題について省庁間の対立があるらしい。水理気象環境モニタリング庁が批准に慎重で、経済発展貿易省、天然資源省などは前向きということである。こうした中、3月14日に閣議を開き政府としての姿勢を打ち出すと見られていた。しかし結局、この閣議は延期される。こうして早期批准は遠くなったという雰囲気が強まっていく。 実を言うと与党内手続きに遅れが出ている時、私が真っ先に懸念したのはロシアなど諸外国に与える影響だった。どこの国にも温暖化対策に消極的な人はいる。日本が批准に逡巡しているという印象を持たれると他国の批准反対派に絶好の口実を与えることになりかねない。「アメリカに続き日本も消極的である以上、わが国だけが突出して条約を批准する必要はない」という声を助長してしまう。そうなると悪循環である。日本の手続きの遅延がロシアの消極姿勢を招いたとは思わないが、結果としてこうした事態に至っているのは残念なことである。

3月27日の読売新聞夕刊は“露の批准、今秋以降に”という記事を載せた。これはあくまでも同紙記者にロシア政府の当局者がそういう見通しを語ったというだけで、ロシア政府として新たな発表をしたわけではない。だがこのまま行くとヨハネスブルクサミットで京都議定書を発効させるというのは極めて難しくなってきた。

その他、3月27日には京都議定書について博士論文を書いているという東京大学大学院研究生のドイツ人女性がインタビューに来た。お役に立てたかどうかは分からないが、昨年の国会決議や最近の党内手続きなどについて答えた。  ところでこの日誌を書き始めたのも元はと言えば経済産業省への情報開示請求からだった。だが3月14~28日までの間には情報公開請求関係では特に動きはなかった。

◆3月29日
ついに本日朝の閣議で京都議定書の承認案が決定された。同時に京都議定書の達成を担保するための国内法、つまり地球温暖化対策推進法も閣議決定された。双方ともにすぐに国会に提出された。あとは衆議院での審議開始を待つだけである。といっても国会というところは法案が提出されたらすぐに審議が開始されるとは限らない。審議開始を促さなければならないのだ。成立までの道はまだ半ばである。
一方、自民党本部では朝、久し振りに温暖化対策特命委員会が開催された。本日の議題は19日に決まった温暖化対策推進大綱についてである。全体で十数名の議員が発言した。まず最初に出た意見は「温暖化対策の最強の四番打者は原子力発電。この推進を怠ると6%削減の計画は崩壊してしまう」というものだった。続いて森林の保全・林業育成を求める声が複数の議員から出た。これに対しては亀井久興委員長から「こうした特命委員会の声を受けて総理の2月の施政方針演説には森林の話を入れてもらった」と応じた。原田義昭衆議院議員からは「踏切で自動車が一時停止することをやめればかなりのCO2削減になる。これは一銭もかけないでできる温暖化対策だ」との意見が出た。山本公一衆議院議員(環境部会長)は石炭火力発電所について重要な指摘を行なった。「CO2を多く排出する石炭火力が増えている。その背景として国内炭の保護ということが言われてきたが、いまや輸入炭の時代になった。その中で石炭火力が一基でも新設されるようなことがあれば問題だ」という発言だった。

その他、玉石混淆いろいろな意見が出た。米国・途上国の参加問題や民生分野の対策の重要性といったお決まりのものもあれば、今後の国会審議のやり方、さらには飛行機の飛び方まで様々な声があった。飛行機の飛び方というのは大阪選出の衆議院議員から出てきたものである。関空に着陸する前の航空機が上空を旋回しているのは燃料の無駄使いなので工夫すべきだということらしい。多方面にまたがりいろいろな意見が出るというのはそれだけ温暖化対策が経済社会全般に関わってくることの証左といえるかもしれない。私自身は本日は聞き役に回り発言はしなかった。
 

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