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けんいちブログ

改正外為法がついに施行

2004.02.27

「改正外為法がついに施行」
北朝鮮への送金・貿易を規制する外為法成立!議員立法の提出者代表としてその経緯と意義を論考

◆改正外為法の施行
改正外為法が2月26日に施行された。この議員立法の提出者として感慨ひとしおである。ここまで漕ぎつけられたのも多くの方々のご理解やご声援のおかげである。心から感謝申し上げたい。特に今回は議員立法の形をとったことに意味があると思う。政府がやらなければ議員がやるという良い前例を作ることができたと自負している。

法改正の眼目は経済制裁の発動要件を緩和したことにある。制裁の対象として念頭に置いているのは当然北朝鮮である。今後は必要があればいつでも北朝鮮に対する経済制裁が発動できるようになった。今まで日本政府は口では「対話と圧力」と言いながら実際には圧力をかける手段を持っていなかった。外交の駆け引きの道具としてはアメを与えるかどうかという選択肢しかなかったともいえる。今回、ムチを使うかどうかという選択肢も加わった。それだけ外交カードが増えたわけである。政府にはこうした外交手段を駆使して拉致問題・核問題などの解決に努めてもらいたい。

◆改正への道(総選挙まで)
法律の詳細についてはすでにこのホームページの『けんいちの主張』欄に昨年3月と6月の二回にわたって記したのでここでは繰り返さない。むしろそれ以降の動きを追補してみたい。

改正外為法の原案を作ったのは「対北朝鮮外交カードを考える会」に集った自民党若手有志議員6人である(注1)。この会が練り上げた案は自民党内で審議され、昨年6月4日に部会了承、7月17日に政調審議会了承、7月18日に総務会で了承された。これで党内の手続きはすべて終了した。6人の私的な案から自民党の正式な案となったわけである。すぐにでも国会提出したかったが、時すでに通常国会の最終盤だった。提出しても時間切れとなってしまい、成立の見込みはほとんどなかった。

しかもそう遠くない時期に衆議院の解散・総選挙が予想されていた。そうなると「会期末で審議未了廃案」もしくは「継続審議→解散で廃案」という可能性が高くなる。これも避けたい。そこで残念だったがこの国会での提出は断念し、仕切り直しをすることとなった。

迎えた11月の総選挙では外為法が脚光を浴びた。選挙直前に拉致被害者家族会などが全立候補予定者に外為法改正案への賛否を問うアンケートを実施したためである。候補者の54.8%が改正に賛成した。当選者に限れば実に81.4%の高率である(注2)。

◆改正への道(修正協議から成立へ)
当選者の多くが外為法改正は必要だと答えたことが改正論に弾みをつけた。「対北朝鮮外交カードを考える会」も再び成立のための働きかけを各方面に行なった。

同会のメンバー6名のうち衆議院議員は私を含め4名だが、幸いにして全員再選を果たしていた。12月には公明党が自民党案を正式に了承する。自民党の中川秀直国対委員長も次期通常国会で最優先で成立させたいという意向を表明し、機は熟していく。 その通常国会が今年1月に開会した。総選挙後の最初の本格的な国会である。自民・公明の与党だけでも法案成立は可能だが、民主党の協力もある方がより円滑に成立させられる。民主党も先の総選挙でマニフェストに外為法改正を追加していたので総論は賛成のはずである。

そこで民主党との合意点を探るべく修正協議に入った(注3)。協議は1月23日、26日の2回にわたって行なわれた。自民党案を軸に議論が進む中、民主党側が要求してきたのは次の二点である。
①経済制裁を発動する時は国会承認を行なうこと
②経済制裁を発動する時に政府が理由を公表すること
この二点を法案に盛り込めば、あとは自民党案に同意してもよいという姿勢だった。 協議の結果、①については発動後の事後承認として盛り込むことで合意した。ただし国会承認の対象とするのは日本単独で制裁を行なう場合のみとし、国連決議や多国間の合意に基づいて制裁に乗り出す時は承認不要とした。②は法案には入れなかった。政府が理由を示すのは自明のことであり、あえて法文に書き込むまでもないからである。まして国会承認がある以上、理由も言わずに制裁を発動することなど考えられない。ただこの部分には民主党側のこだわりもあったので、結局衆参それぞれの委員会の附帯決議で触れることになった。

こうして修正協議は合意に達し、外為法改正案は1月28日に衆議院に提出された。自民・公明・民主の三党が提出者を出しあう共同提案という形になった(注4)。普通、国会というのは議員が質問をして大臣官僚など政府側が答弁する。だが議員立法の場合は議員の質問に対して提出者の議員が答弁する。私も提出者の一人として答弁席につくことになった。国会審議の経過は以下の通りである。

1月28日 衆議院に法案提出
同日   衆議院財務金融委員会で質疑・可決
1月29日 衆議院本会議で可決
2月 5日 参議院財政金融委員会で質疑
2月 9日 参議院財政金融委員会で可決
同日   参議院本会議で可決・成立
2月16日 公布
2月26日 施行

通常国会では毎年100本以上の法律が成立する。 その中で本法案は今国会の法案成立第一号となった。 共同提出政党の自民・公明・民主の三党は改正案にもちろん賛成である。共産党は反対した。醜態をさらしたのは社民党である。社民党は衆議院では賛成した。
ところが参議院の採決では福島瑞穂党首を始め全員が棄権するという迷走ぶりを示した。北朝鮮寄りと見られることを避けるため一旦は賛成してみせたが、やはり「北の代弁者」という本性は覆い隠せなかったということだろう。

◆北朝鮮に迎合する共産党
では共産党はどのような理屈をつけて反対したのだろうか。彼らの主張はこうである。 “03年8月に北京で日米韓中露と北朝鮮の六カ国協議が行なわれた。そこで6項目の合意がなされた。 その第4番目に「六者会合の参加者は、平和的解決のプロセスの中で、状況を悪化させる行動をとらないこと」とある。外為法を改正することは「状況を悪化させる行動」でありこの合意に違反するので反対する”。

実にまわりくどい論法である。普段は政府を攻撃している政党がこうした時だけ政府間の「合意」を盾に論陣を張るのも奇妙なご都合主義である。しかも「合意」といっても実際には文書化できず口頭で総括されただけのものである。薄弱な論拠をやっとのことで探してきたという気もする。 そもそも「状況を悪化させる行動」をとっているのは北朝鮮である。今後もとり続ける可能性は十分ある。 外為法改正がなければそうした時に制裁措置を打ち出すことさえできない。同党は北朝鮮がどんな無法行為をしても対抗手段をとれないままで構わないと考えているのだろうか。さらに言えば、北朝鮮にカネやモノが無制限に流れ込むことを放置している方が彼らの核開発やミサイル開発を幇助し、かえって状況を悪化させるということも十分ありえる。

共産党は党大会決議で「北朝鮮問題の解決は、あくまで外交的・平和的手段によるべき」と強調している。 それには私も異存はない。しかし外交的・平和的に解決するというのは北朝鮮が嫌がることを一切してはならないということではない。北朝鮮を刺激することはできるだけ慎むというのでは単なる迎合である。迎合を「外交的・平和的手段」という美辞麗句にすり替えてはならない。むしろ今回の外為法改正こそ本当の意味で外交的・平和的手段を充実させるものなのである。

◆いつ発動すべきか
改正外為法が施行されたということは、法律の要件さえ満たせばいつでも送金停止や貿易制限が行なえるということである。法律上は「我が国の平和及び安全の維持のため特に必要があるとき」というのが発動要件となる。では具体的にはどのような場合だろうか。 まず思い浮かぶのは北朝鮮がさらなる挑発行為・無法行為を行なった場合である。核実験を強行した時、再びテポドンを発射してきた時、あってはならないことだが拉致被害者家族に危害が及ぶ時などがその典型だろう。こうした時に制裁が可能なのは当然である。 ただこれは核実験などを行なわなければ制裁できないという意味ではない。すでに現時点でも法律上の要件は満たしている。これは重要な点なので立法者の意思として明確にしておきたい。何の罪もない一般国民をいきなり拉致するという国家的犯罪を行ない、その解決に不誠実であるということそのものが「我が国の平和及び安全の維持」への挑戦だからである。

現在政府は発動に否定的な姿勢である。私はもっと前向きであるべきだと考える。制裁という伝家の宝刀は乱用すべきではない。だが宝の持ち腐れにしてしまっては法改正の意味がなくなる。外為法による経済制裁というのはいろいろな発動方法がある。何もいきなりすべての貿易・送金を止めるだけではない。段階的な発動も可能である。例えば工業製品の輸出入だけを制限するということもありえる。こうした具体的手法について政府内でより踏み込んだ検討が求められている。

◆入港禁止法案について
最後に「特定船舶入港禁止法案」についても触れておきたい。外為法の改正が北朝鮮への圧力の第一弾とすれば、こちらは第二弾となる。この法案も「対北朝鮮外交カードを考える会」の6人で策定議員立法を目指している。 入港禁止の対象とする船舶は二種類ある。一つは北朝鮮船、もう一つは北朝鮮に寄港した船である。後者も対象にしたのは「便宜置籍船」という抜け道を許さないためである。便宜置籍船とは節税などを狙って船の国籍だけを便宜上リベリアやパナマなどに移すことである。「北朝鮮船」だけに限ると籍を他国に変えられたときに対応できなくなってしまう。

この法案は1月29日から自民党の関係部会で審議が開始され、2月17日には法案要綱が部会で了承されている。まだ部会での最終審議・政調審議会・総務会という党内手続きは残っている。それでも昨年の外為法が5月になって初めて部会の審議に付されたことを思えば順調な進み具合といえる。安倍晋三幹事長も前向きである。2月24日の読売新聞が報じる世論調査によれば80%の国民がこの法案に賛成している。こうした期待に応えるためにも成立に向けて全力を尽くしていきたい。

*注1 「対北朝鮮外交カードを考える会」は02年12月に結成された。 メンバーは山本一太、菅義偉、河野太郎、増原義剛、小林温、水野賢一の6名の衆参国会議員
*注2 アンケートを実施したのは「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(代表 横田滋)」「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(会長佐藤勝巳)」の両団体
当選者のうち外為法改正に
「賛成」 81.4%
「反対」 0.5%
「その他」 0.5%
(当選者数480、回答者総計409)
 
当選者を各党別に見ると
賛成 /反対/その他
自民党87.7% /0.0%/10.3%
民主党 80.1%/0.7%/17.8%
公明党 83.3%/0.0%/13.3%
共産党 0.0%/0.0%/100.0%
社民党 0.0%/0.0%/100.0%
 
*注3 修正協議の参加者は次の各衆議院議員
自民党・・村井仁、水野賢一
公明党・・漆原良夫、上田勇
民主党・・中川正春、松原仁、長妻昭
 
*注4 法案の提出者となったのは修正協議に参加した7名に渡辺周衆議院議員(民主)を加えた8名である。
修正協議での合意を受けて、国会提出された法案は自民党案に一部の修正が加わった。自民党案は第10条は第1項のみだったが、そこに第2項、第3項が追加された(それに伴う修文上の変更も16条以下に若干あるがこちらは内容に関わる変更ではない)。

第10条
2 政府は、前項の規定による閣議決定に基づき第十六条第一項、第二十一条第一項、第二十四条第一項、第二十五条第四項、第四十八条第三項及び第五十二条の規定による措置を実施した場合には、これらの対応措置を実施した日から二十日以内に国会に付議して、当該対応措置の実施について国会の承認を求めなければならない。 ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会において、速やかに、その承認を求めなければならない。
3 政府は、前項の場合において不承認の議決があつたときは、速やかに、当該対応措置を終了させなければならない。

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