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けんいちブログ

効果を上げたディーゼル条例

2004.10.01

「効果を上げたディーゼル条例」
条例施行から1年。大気環境保全と公害被害者救済のために必要なことは….

◆ディーゼル条例とは
首都圏でディーゼル条例が施行されて1年が経つ。昨年10月、東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県の一都三県でディーゼル条例が一斉に施行された。 これにより粒子状物質(PM)を大量に排出する旧式のディーゼルトラック・バスは、PM除去装置をつけなければ走行できなくなった。この動きを主導したのは石原都知事である。平成11年に就任した石原知事はすぐさまディーゼル車NO作戦を打ち出し、翌年にはディーゼル条例を制定した。 時を同じくして兵庫県尼崎市の公害訴訟で粒子状物質による健康被害が認定されたこともあり、対策を求める声は他県にも広がっていく。東京都に続いて千葉県、神奈川県、埼玉県も同様の条例を制定し、昨年の一斉施行に至った。

ディーゼル車の排気ガスはガソリン車よりもはるかに汚れている。排気ガスに含まれる主な有害物質として窒素酸化物(NOx)と粒子状物質(PM)があるが、いずれもディーゼル車の方が大量に排出する。条例が狙っているのはこのうちPM削減である。それまでPM対策が特に遅れていたからである。

例えば排ガス中のPM濃度の規制は平成6年まではまったくなかった。しかもトラックやバスは耐久年数が長いので昔の車がそのまま走っていることが多い。(財)自動車検査登録協会によると普通乗用車の平均使用年数が9.7年なのに対し普通トラックは12.8年、バスは15.8年である。未規制時代のトラックやバスが今なお使われていても別に不思議ではない。そこで条例では、こうした車はPM減少装置をつけなければ走行できないようにした。

PM減少装置としてはDPFや酸化触媒が実用化されている。走る限りはこうした装置の装着を義務づけたともいえる。 条例施行から1年経った今、大気汚染の指標を見ると明らかに改善に向かっている。東京都の自動車排出ガス測定局では平成15年度に浮遊粒子状物質(SPM)の年平均値が23年ぶりに0.04μg/m3を割り込んだ。千葉県でも昭和57年度の観測開始以降で最低の濃度を記録した。SPM濃度は気象状況などの影響も受けるので即断はできないにせよ、改善していることは間違いない。注目すべきなのは15年度といっても後半、つまり規制が始まった10月以降の改善が顕著だという点である。やはり条例は効果をあげているといえよう。

◆ディーゼル条例は緊急避難
ただ忘れてはならないのはディーゼル条例は自動車排ガス対策の抜本策ではないということである。むしろ一時しのぎの緊急対策といえる。そこで国はディーゼル車対策として別の手法をとっている。 自動車NOx・PM法である。この法律は平成13年に改正・強化された。ちょうど首都圏で相次いで条例が制定されている頃である。大雑把な分類をすれば、条例がディーゼル車にDPFなどを装着することを義務づけているのに対し、NOx・PM法は古いディーゼル車の買い替えを強制している。前者が短期的な緊急避難措置なのに対し、後者は中長期的に必要な施策といえる。

都が条例化を表明した時、国は冷やかな姿勢だった。当時の環境庁は「都が条例を制定することにあえて反対はしないが、国が進めている自動車NOx・PM法の方が効果がある」という態度だった。 その背景としては、一つには石原知事が繰り返し口にした「国の対応が鈍いから都が独自にやる」といういわゆる慎太郎節への反発もあっただろう。都に先を越されたという思いもあったかもしれない。 だがそうした負け惜しみとばかりはいえない。実際にディーゼル条例よりもNOx・PM法の方が厳しく抜本的な対策になっている面も多い。条例はPMだけを取り締まり対象にしているが、法律はその名の通りNOxとPMの両方を対象にしているためである。 古いトラックにDPFを付けたとしよう。そうすれば確かにPMは低減する。だが旧型車は同時に大量のNOxも排出する。ところが条例が問題にしているのはPMだけなので、この車の走行を止めることはできない。他方、自動車NOx・PM法ならばこうした車の登録も禁止できる。しかもPMの規制値だけを比べても法律の方が厳しいのである。また条例ではディーゼル乗用車に規制がかからないのに対し、法律はこれも対象にしている。

だからといってディーゼル条例が無意味だというわけではない。緊急対策として十分その意義は大きかった。とりわけPMの被害に光を当てた効果は絶大である。緊急対策と恒久対策は両方そろって効果がある。政府は自動車NOx・PM法に基づく基本方針で平成22年度までに浮遊粒子状物質の環境基準を概ね達成するという目標を掲げている。この目標に向けて今後の対策が着実に効果をあげていくことが期待されている。

◆軽油について
ディーゼル条例と自動車NOx・PM法が相互補完的なものだということはすでに述べた。だがそれだけあれば十分というわけではない。他にもやるべきことはある。不正軽油の撲滅も重要な課題である。 ディーゼル車の燃料は軽油である。しかしディーゼルエンジンは適応力に優れ、正規の軽油以外(例えば灯油と重油を混和したもの)を入れても走りうる。 走るには走るがやはり正規の燃料でないために黒煙を撒き散らすことになる。 今年6月の地方税法改正で不正軽油製造の罰則は5年以下の懲役または500万円以下に引き上げられた(従来は1年以下の懲役または50万円以下の罰金)。さらに法人の場合は3億円までの重課もある。こうした新法を駆使しての徹底取り締まりが必要である。 規制や取り締まりだけでなく、脱ディーゼル化へと経済的に誘導することも考えてよい。軽油とガソリンの税率の格差解消はその一つである。ディーゼル車が普及した背景には、軽油の価格がガソリンよりも安いことがある。なぜ安いのか。かかってくる税率が低いためである。1リットルあたりにかかる税金を比べるとガソリンが53.8円、軽油が32.1円となっている。軽油の方が実に22円も安い。 これだとディーゼル車の方が経済的に特だということになる。国が政策的にディーゼル車を優遇しているといわれても仕方ない。これも見直すべき時である。

◆自動車メーカーの責任
自動車会社の責任についても触れておきたい。 メーカーには社会的責任がある。まず排ガスがきれいな車を開発するという責任がある。この点はかなりの進展が見られる。大型ディーゼル車のPM排出規制は平成6年に始まるが、来年度から始まる規制値では平成6年当時に比べて25分の1以下に排出量を抑えなければならない。これに適合する車も今秋にも登場すると見込まれる。低排出ガス車の開発は著しい。乗用車でもハイブリッド車・天然ガス車など低公害車が続々と出てきている。

だがメーカーにはもう一つの責任がある。過去に大気汚染物質を大量に排出する車を販売しつづけた責任である。訴訟でこれが問われたことがある。 平成14年に一審判決が出た東京大気汚染訴訟である。判決はメーカーの責任を認めなかった。しかしそれでよいのだろうか。走れば必ず有害物質を撒き散らす商品を生産・販売して本当に責任がないのだろうか。しかもそれによって利益を上げているのだ。 工場排煙をめぐる公害訴訟では企業が多額の賠償金や和解金を原告住民に支払っている。例えば尼崎公害訴訟では自動車排ガスと工場排煙の双方が問題になった。工場排煙に関しては、煙を出した9社は和解金として合計24億円余りを支払っている。だが自動車メーカーの負担はない。おかしなことである。

まして昨今の排ガス対策はメーカー側からすると儲ける好機となっている。排ガス規制で旧式の車に乗れなくなれば、最新規制適合車に買い換えざるを得なくなる。いわば特需が起こった。自分で大気汚染の原因を作っておきながら、それを基に特需の恩恵を受けるというのは筋が通らない。少なくとも健康被害を受けた人々への補償を何らかの形ですべきである。 問題はそうした制度が現在ないことなのである。

似たような制度はあるにはある。公害健康被害補償法である。この法律は汚染原因者からの賦課金を財源として大気汚染被害者へ補償給付を行なうことを定めている。SOxを排出する工場からは総額年間500億円以上の賦課金が拠出されている。だがここでも自動車メーカーの拠出はない。また給付を受けられる患者の新規認定も現在では行なわれていない。いま肝要なのはPMなどによる公害被害者も救済する新たな制度を創設することである。その時に自動車メーカーが応分の負担をすべきことは論を待たないのである。

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