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けんいちブログ

解説・温暖化対策推進法の改正について

2005年06月11日

解説・温暖化対策推進法の改正について

~経済産業省や経団連の抵抗を押し切った法改正。水野賢一の5年越しの主張がついに結実~

◆温暖化対策推進法の改正案が成立

地球温暖化対策推進法の改正案が成立した。衆参両院ともに全会一致での可決だった。この法律は1998年に制定され、2002年に改正されているので今回が2度目の改正となる。 今回の法改正の根幹は事業所ごとに温室効果ガスの排出量を算定・報告・公表する制度の導入である。どの工場がどれだけの二酸化炭素(CO2)を排出したかを明らかにすることを義務づけたともいえる。 法的な義務の有無に関わらず、温室効果ガスの排出量を自主的に公表している例は多くある。

環境への意識の高い企業は環境報告書を作成し、自社の二酸化炭素排出量などを公にしている。だが一方で公表に後ろ向きな事業者が多いのも事実である。環境省が03年度に行なったアンケート調査によると回答した2795社のうち二酸化炭素の排出量を公表していたのは721社にとどまっていた。約26%である。調査対象となったのは6354社なので未回答も多い。

こうした調査では、自社の環境対策に自信を持っている企業ほど回答する傾向がある。それを勘案すると未回答分を含めた全体での公表率はかなり低めのものになるだろう。やはり自主的な取り組みだけに任せておいては不十分なのである。 法律で明確な義務にする必要がある。それが今回の改正の趣旨といえる。せめて一定量以上を排出している企業の場合は、その数値を公開するようにしたわけである。

こうした公表制度を創設することは私にとって年来の主張だった。実は02年の改正時にもそのことを強く訴えたが、当時はまだ反対論が強く、残念ながら改正案に自説を盛り込むには至らなかった。その頃、反対の中核となっていた経済産業省と応酬を繰り返したことも懐かしい思い出である(その経緯は本ホームページの『経済産業省への挑戦状〔上〕〔中〕〔下〕〔完結編〕』を参照いただきたい)。それから3年を経て、現在、私は自民党の環境部会長の任にある。

就任してからは、最重要の課題として持論である本法案に取り組んできた。その過程では産業界や経済産業省が再び抵抗し、内閣法制局まで難色を示した。それらを乗り越えて在任中にこの制度が新設できたことは感慨深い。本稿ではこの改正温暖化対策推進法の内容を概観し解説してみたい。

◆公表制度導入の意義

内容に立ち入る前に、まずこうした制度がなぜ必要なのかを考えてみたい。排出量を公表したからといって直接的に削減を約束するものではない。それでもこの制度にはいくつかの意味がある。まず情報公開という面である。透明性が求められている現在、環境情報も積極的に開示してもらう必要がある。そしてそのことは企業の環境意識を高めることにもつながる。自らの排出量を算定すれば野放図な排出を慎むようになるだろう。また外部の目を気にして無責任な放出にも歯止めがかかるはずである。トルエン・キシレン・ベンゼンなどの化学物質についてはPRTR法という公表制度がすでに存在するが、この法律が施行されると初年度に比べ2年目の届出排出量は7.1%も減少した。

さらに今後の温暖化対策の重要な施策と考えられているキャップ&トレード方式の国内排出量取引に道を開くことにもなる。排出量取引といっても現在どれだけの温室効果ガスを排出しているのかが分からなければ成り立ちえない。

もちろんキャップ&トレードを導入するかどうかは今後大いに議論しなければならない。だが少なくともその前提となる公表制度を今のうちに整えておくことには意味がある。

だからこそ同様の制度は諸外国でもすでに実施されている。EUでは昨年2月からデータの公開が始まっており、イギリスはそれに先立ち98年に導入している。またカナダでも昨年3月に法制化された。国内でも自治体レベルでは導入が進んでいる。排出量の公表などを条例で義務づけている地方公共団体は04年10月現在で 9都県・3政令指定都市の合計12自治体となっている。

先に述べたように国レベルでも温室効果ガス以外の物質についてはこうした公表制度は存在している。99年に成立したPRTR法によって各企業はトルエンなど354種類の化学物質については排出量を公表する義務を負っている。ところが不思議なことに二酸化炭素などの温室効果ガスについてだけは制度が存在しなかった。それだけに今回、温室効果ガスも公表を制度化することはごく自然なことであり、むしろ遅きに失した感さえある。

◆対象となる事業所

改正法の内容をもう少し詳しく見てみよう。

まず温室効果ガスを一定以上排出している者は自らの排出量を算定し、それを国に報告することが義務となる。国は報告されたデータを集計・公表する。対象となる温室効果ガスは二酸化炭素・メタン・一酸化二窒素・HFC・PFC・SF6(六フッ化硫黄)の6つである。

さて温室効果ガスの排出量を報告させるといっても、出しているところすべてに義務をかけるというのは現実的ではない。二酸化炭素というのは車に乗っても電気を使っても排出される。つまり小さな町工場や民家などを含めあらゆるところから出ているのである。そのすべてに算定・報告の義務をかけるわけにもいかない。 そこで対象は一定以上温室効果ガスを排出している事業所に限ることにした。「裾切り」を設けたわけである。そうなると裾切りの値をどのくらいにするかが問題になってくる。これは法律には明記していない。今後政令で定めることになっているが、エネルギー起源の二酸化炭素の場合は、省エネ法の第一種・第二種のエネルギー管理指定工場とする予定である。これは電気・熱のエネルギーを年間に原油換算で1500kl以上消費する事業所を指す。原油換算1500klというのは二酸化炭素の排出量でみると概ね3000㌧前後になる。「概ね」と幅のある言い方になるのは電気を主に使う場合と熱を中心に使う場合で違いが出るためである。

他の5ガスは二酸化炭素換算で3000㌧以上排出していれば報告の義務がかかってくる。 例えばメタンは二酸化炭素よりも21倍の温室効果があるため、143㌧以上出していれば対象になる。また非エネルギー起源二酸化炭素も同じく3000㌧を裾切り値とした。なお報告はガスごとなので、二酸化炭素 8000㌧ メタン 100㌧(CO2換算で2100㌧) という場合には二酸化炭素の排出量だけを報告すればよい。

◆報告は事業所ごとに

この新制度は「事業者」ではなく「事業所」ごとに算定・報告することになっている。電力を例にとれば東京電力・関西電力という会社ごとではなく、発電所ごとの報告となる。データとしてはそれだけ詳細になる。対象となる事業所数は概ね以下のようになると見込まれている。

二酸化炭素 約16000 メタン 約20

一酸化二窒素 約250 約130 約10

PFC 約130 SF6  約150

二酸化炭素に関していえば、対象となる事業所が排出している量は全国の総排出量の54%になる。一見これは少なく見えるかもしれない。だが54%のカバー率というのは実はかなりの高率なのである。一軒一軒の家庭に報告義務を課せない以上、最初から80%とか90%にはなりえない値だからである。産業部門、つまり工場だけに限れば排出量の90%強をカバーできると試算されている。諸外国と比べても裾切り値は厳しい。二酸化炭素を比べてみるとEUが10万㌧、イギリスが1万㌧、カナダは10万㌧(ただしカナダは温室効果ガス排出量の合計のCO2換算)である。カバー率でもEUは42%にとどまっている。導入こそEUに遅れをとったが、より厳しい制度を作ることができたと考えている。

先に算定・報告は「事業所」単位だと述べた。工場の場合はそれで問題はない。ところが運送会社などは会社全体では大量の二酸化炭素を出しているが事業所ごとに見れば小規模だということが多い。それだと報告義務がかからないことになってしまう。運輸部門は事業所単位の報告になじみにくいのである。そこで運輸部門だけは例外として日本通運とかヤマト運輸など企業単位で報告を受けることにした。

一方、今回の新制度ではコンビニエンスストアやファーストフードなどチェーン展開している店はほとんど対象にならない。一店ごとに見れば小規模なので、普通は原油換算1500klのエネルギーは使わないからである。これも運輸部門と同じようにグループ全体として報告させるようにすべきかもしれない。今後の検討課題といえる。

◆企業秘密

算定・報告・公表制度に対しては産業界・経済産業省の反対が強かった。例えば経団連は昨年7月に中央環境審議会地球環境部会に出した意見書で「民間企業に情報開示を義務付ける法律や制度は不要である」と述べていた。彼らも公表そのものが悪いといっていたわけではない。だがそれは自主性にまかせるべきだと主張し、義務を制度化することには抵抗していた。反対論の論拠はいろいろあったが、中でも「排出量は企業秘密だ」という声が根強かった。これに対し私は企業秘密のはずがないと主張した。特許のようなものならばいざ知らず、どれだけの二酸化炭素を排出したかが秘密のはずがない。もしこれを企業秘密だと強弁するなら資本金も経常利益も従業員数も全部秘密だということになってしまう。ましてPRTR法で化学物質については報告義務がある中で、二酸化炭素だけは秘密だといっても通用するはずがない。

それでも法律の中では、公開することによって本当に正当な利益が害される場合には、一定の配慮をする規定を設けた。なぜそうした制度を盛り込んだのか。私自身は二酸化炭素排出量は企業秘密に当たらないと思っている。ただ温室効果ガスにはいろいろなものがある。例えば液晶や半導体を生産する時に反応ガスとしてSF6という特殊な温室効果ガスを使用する。この排出量はライバル会社に知られると深刻な事態になるという。そこで各社とも情報管理には細心の注意を払っている。しかも主な競争相手の韓国・中国企業は公表していない。そうした中、自分の手の内だけをさらけ出すと国際競争力上、大いに不利になるという。そこで法律では事業所管大臣が本当に必要だと判断した時は、公表の仕方を大くくりにすることを認めた。大くくりという時に二つの方法がありえる。一つは本来ガスごとに行なうべき公表を温室効果ガス全体で行なうことである。普通ならば二酸化炭素は5万㌧、SF6は2万㌧(CO2換算)と公表すべきところを、温室効果ガス全体で7万㌧ということも可にしたわけである。これならばSF6の量は全体の中にまぎれてしまうので秘密は保持できる。もう一つは事業所単位でなく、企業単位での公表にすることである。これによって工場ごとの排出量は全体にまぎれることになる。 例外的にこうした措置もありえるとはいえ、公表こそ原則であり、まったく開示しないなどということは許されない。また企業側が「これは秘密です」といったら自動的に秘密扱いになるわけではないのは当然のことである。その点は事業所管大臣がしっかりと判断をすることが求められる。

◆正しい報告を

さてこうした算定・報告・公表制度の大前提となるのは企業が正しい報告を行なうことである。でたらめな数値が報告されたならば公表制度は意味を持たなくなる。かといって報告がすべて正しいかどうかを国がチェックするというわけにもいかない。行政コストがかかりすぎるからである。法律は国に立入検査を行なう権限などは付与していない。代わりに報告を怠った場合や虚偽報告には罰則として20万円以下の過料が課されるようになっている。この部分はPRTR法を踏襲している。

こうした仕組みは正しい報告をするはずだという性善説に立っているともいえる。ところが最近、企業による虚偽報告が相次いでいる。環境情報もその例に漏れない。昨年11月には三井物産がディーゼル排ガスの除去装置であるDPFのデータを捏造していたことを認めた。今年2月にはJFEスチールが排水データを改竄していたことが発覚した。

日本を代表する有名企業までもが、このような不祥事を引き起こしたのである。今後、もし温室効果ガスの排出量に関しても改竄や虚偽報告が横行するようであれば制度の根幹を揺るがすことになりかねない。罰則の強化や立入検査権の創設なども検討せざるをえなくなる。そうしたことがないように、正確な報告が行なわれることを願いたい。

◆抑制から削減へ

今回の法改正ではそれ以外にもいくつかの細かな修正をしている。あまり注目されていないが、その一つを挙げておこう。従来の温暖化対策推進法は、温室効果ガスの「削減」という言葉を使わずに一貫して「抑制」という語を使っていた。「削減」と「抑制」には大きな違いがある。「削減」というのは文字通り減らすことだが、「抑制」というのは伸びを抑えるということである。増加そのものはやむをえないという響きがある。

この法律は京都議定書を達成するための国内担保法的な性格を持っている。97年の議定書採択を受けて、翌年に法律が制定され、02年の議定書批准と共に法律も改正されたという経緯もそれを裏付けている。京都議定書が日本に求めているのは温室効果ガスの6%削減である。担保されるべき議定書が「削減」と言っているのに国内担保法が「抑制」と言うのはいかにもおかしい。やはり法律でも「削減」という用語を使うのが筋だろう。もちろん法律の文言を変えたからといって劇的に排出量が減少するとは限らない。だがこれは姿勢・意気込みの問題なのである。政府が温暖化に真剣に取り組むというのならば「削減」を使うべきである。

そこで昨年10月にこの法律について議論をした自民党環境部会の席で、部会長として私から環境省側に「抑制の語を削減に変えることを検討するように」と指示を出した。そして今回の改正では何か所かは「抑制」の文言を「削減」に直すこととした。本来すべての「抑制」を「削減」に変えたいところだったが、残念ながらそれはかなわなかった。横槍を入れてきたのはお決まりの経済産業省・経団連ではなく、むしろ内閣法制局だった。単に意気込みを示すという理由だけで用語を変更するのはまかりならんという論理である。そこで政府・自治体が立てる計画の部分に限って「削減」に変更することで折り合った。せめて公共機関については率先垂範の姿勢を示すのは問題ないだろうということである。いずれにせよ大切なのは用語を変えることではなく、排出量を減らすことである。削減計画の策定を求められる政府・自治体はもちろんのこと、事業者なども削減に向けて全力を尽くすことを強く求めたい。

◆公表方法

温暖化対策推進法は改正された。改正部分が施行されるのは06年4月なので、その翌年度には06年度分の温室効果ガス排出量が公表されるようになる。公表は次のような形で行なわれる。各事業所から上げられてきた報告は国が集計し、都道府県別、業種別、企業別などの排出量として公表される。千葉県内の事業所からはどれだけの二酸化炭素が出されたとか、鉄鋼業界からは○○㌧ということが発表される。 企業別の公表についてはやや詳しく述べたい。ある企業が5つの対象工場を持っていれば、5つの報告が提出されることになる。それを国が合計した上で公表する。逆にいうと工場ごとのデータは国の方から積極的に公表をすることはない。請求があったときにのみ開示する。請求の仕方はいろいろある。特定の事業所の排出量データを開示するように求めることも可能だし、全国1万数千の対象事業所全体のデータを請求することも可能である。後者の場合は紙にすると膨大な量になるので、CD-Rで渡す形になりそうだ。これもPRTR法と同じである。ちなみにPRTR法では全国すべての事業所のデータが入ったCD-Rは1100円で購入できる。

企業別の公表は改善の余地があるように思われる。事業所ごとの報告をわざわざ国が企業単位に名寄せして合計値を出すわけである。そんな手間のかかることをせずに、事業所ごとの生データそのものをホームページなどで公開すればすむ話である。その方が行政コストもかからない。国民側からみても開示請求という面倒な手続きが不要になる。このあたりは公表制度が定着してきたら見直しても良い点だと思う。

◆結びに

ようやくのこと算定・報告・公表制度が創設された。これまでの経緯を思えばよくここまで来たとの感もある。ただ新制度の導入というのは目的ではない。むしろ手段である。肝心なのは実際に温室効果ガスの排出量を減らすことである。まずは京都議定書で約束した6%削減を達成することが必要である。だが京都議定書を達成しさえすれば事足れりということでもない。

最近の知見によれば温暖化を食い止めるには最終的に温室効果ガスの排出量を現在の4分の1くらいにまで下げる必要があるという。京都議定書は入り口にすぎない。現時点ではその京都議定書の達成も難しいと思われている。先日発表された03年度の温室効果ガスの排出量は基準年の90年度に比べ8.3%増になってしまっている。減るどころかかえって増加しているのだ。

そうした中で、算定・報告・公表制度の実現というのは排出量削減に貢献することは間違いない。とはいえ地球温暖化を防止するという大目的の中では、ほんの小さな一歩である。その一歩を確実に実施することで、大きな前進・成功につながるようにしていきたい。

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