けんいちブログ

特集 地球温暖化・企業アンケート(本編)

2001.11.20

「特集 地球温暖化・企業アンケート(本編)」
~抜け道だらけの温暖化対策推進法~

企業はどの程度温暖化防止につとめているか。マスコミ等でも話題沸騰の初の実態調査

◆地球温暖化対策推進法の制定
地球温暖化が問題になってきたのは1980年代のことである。もちろんそれ以前にも地球が温暖化しつつあると警告する炯眼の学者はいた。しかし一方で地球は寒冷化に向かっているという説も強かった。「再び氷河時代がやってくる」という声さえ聞かれたのである。
だが今では大気中の二酸化炭素が増大し、地球が温暖化していることは定説になっている。温暖化防止こそが21世紀の人類にとって最大の課題の一つである。そこで1997年には京都会議が開かれ、各国が温室効果ガスの排出を削減することを申し合わせた。日本も2010年前後には1990年比で6%削減することを約束した。

そして日本では98年に地球温暖化対策推進法が制定された。当時の環境庁はこれは温暖化防止に狙いを定めた世界初の法律と喧伝していた。 しかし今、この法律では不十分だといわれている。京都議定書を批准し、本当に6%削減を実行するためには新たな法整備が必要だという声が強い。私もそう思う一人である。環境省も来年の通常国会には新法案を提出する構えでいる。

だがその前にもう一度、地球温暖化対策推進法を検証してみたい。この法律のどこに欠点があり、どういう不備があるかを精査することで、新たな法律づくりにも役立つと思う。法律とは作りっぱなしではいけない。過去の法律がどの程度の実効性をあげてきたかを検証することで、いま何をすべきかも見えてくるのではないだろうか。そのためにもあらためてここで地球温暖化対策推進法について振り返ってみたい。

◆地球温暖化対策推進法とは
地球温暖化対策推進法の柱は、国・地方公共団体・事業者がそれぞれ温室効果ガスの排出抑制計画を作るということである。例えば大阪府は1998年度に37.0万トン(CO2 換算)の温室効果ガスを排出した。これを2004年度には5%削減しようという計画をもっている。ちなみに37万トンというのは大阪府全域から排出される温室効果ガスではなく、あくまでも府の施設から排出されるガスのことである。府庁舎で消費するエネルギーや府の公用車などが出すもののことである。つまり一つの法人としての府が排出する量を指している。他にも東京都港区は99年度に20181トンの温室効果ガスを出しているが、これを2004年度には3%減らすことを目指している。

地球温暖化対策推進法とはこうした計画を国やすべての地方公共団体、事業者に作ることを求める法律なのである。つまりこの法律は排出をどれだけ減らせと強制しているわけではない。あくまでも現状の排出量を把握し、自主的に排出抑制計画をつくれという法律だといえる。ただし国、地方公共団体の場合は計画の作成が義務なのに対し、事業者の場合は努力義務になっている。

◆削減計画の作成状況
では、国、地方公共団体、事業者は法律通りにこの計画をつくったのだろうか。実態はお寒い限りである。なにしろ国自身が作成していないのだ。同法が施行されたのが99年4月である。それからすでに2年半が経過しているにもかかわらず、未だに作業が完了していない。率先垂範すべき国がまだ作成していないことは大いに批判されるべきである。

その点、都道府県は比較的成績がよく今年の4月1日時点で47のうち40都道府県が作成している。ちなみに未作成は群馬県、千葉県、神奈川県、富山県、長野県、滋賀県、京都府である。市区町村になると作成率はずっと低くなる。3249のうち412である。わずか12%にすぎない。国、地方公共団体はいずれも作成が義務である。にもかかわらずこれが現状なのである。

◆企業アンケートの実施へ
計画の作成が努力義務とされている企業の場合はどうだろうか。企業の場合も対応はまちまちである。環境問題への意識の高い企業は環境報告書をつくってかなり詳細な情報を公開している。どのような温室効果ガスをどれだけ排出し、削減のために何をしているかを具体的に提示している企業もある。一方でほとんど情報公開をしていない会社もある。

ではどれだけの企業が温室効果ガスの排出抑制計画を作成したのだろうか。以前、環境省が三菱総研に委託して企業アンケートを実施したことがある。これによると“作成した”というものが51.8%で、“作成していない”が45.6%だった。ちなみに回答したのは1306社で回答率は18.7%だった。

ただこのアンケートはまったくの匿名調査だったためにどの企業がどのような取組みをしているのかが不明だった。ましてどこが何トンの二酸化炭素を出しているのかという肝心な点も分からなかった。

そこで私は「衆議院議員 水野賢一事務所」として企業アンケートを行なうことにした。狙いは各社が計画を作成しているかどうかを調査することと、それぞれが何トンの温室効果ガスを排出しているかを把握することだった。調査対象は東京証券取引所一部上場の全1488社とし10月16日に調査票を郵送した。回答は389社からあったので回答率は26.1%となる。業種別にみると回答率が高かったのは「電力・ガス業」(14社中12社)、「ゴム製品」(10社中5社)、「輸送用機器」(58社中28社)などで、逆に低かったのは「鉱業」「証券業」「保険業」「不動産業」「サービス業」などである。個々の企業の回答結果についてもホームページで公開することを通知しておいたので、この拙文の後ろに“資料編”として掲載した。

◆アンケートの結果
アンケートでは4つの質問をした。最初の質問では地球温暖化対策推進法の内容を知っているかどうかを問うた。質問文は次の通りである。“地球温暖化対策推進法で、事業者が温室効果ガスの排出抑制計画を作成することが努力義務とされていることをご存じでしたか”結果は、
・知っている 81.5%
・法律の存在は知っているが努力義務であることは知らなかった15.7%
・知らなかった 2.8%
これを見ると同法の内容についての理解は総じて高いといえる。ただし「銀行」「倉庫・運輸」「サービス」の業種においては“知っている”の割合が半数に届かなかった。
続く問2は“貴社は同法に基づく計画を作成されましたか”というものだった。これに対しては、
・すでに作成した 41.9%
・企業としては作成していないが業界団体などで共同して作成した 13.9%
・企業全体としては作成していないが事業所などで作成した 6.4%
・まだ作成していない 27.5%
・その他 12.1%
との結果だった。ちなみにこの法律では共同で計画を作成することも認めている。

企業における作成率は都道府県ほど高くはないが、市町村よりはかなり進んでいるともいえる。ただしこの結果が企業全体の縮図であるとは言えない。調査対象は東証一部上場という日本を代表する企業に限られている。逆に言えば、その大企業にしてまだ3割は未作成だともいえる。さらに環境への取り組みに自信を持っている企業の回答率が高いのに対し、そうでない企業は回答してこないということは容易に推定できる。おそらく一部上場に限っても全体での作成率がもっと低いことは間違いないだろう。

第三の質問は、問2で“作成した”と答えた企業に対して、その計画を公表しているかどうかを尋ねた。法律の第9条では「計画を作成し、これを公表するように努めなければならない」とある。

・公表している 75.5%
・公表していない 20.2%
・その他4.9%

公表方法としてはホームページや環境報告書をあげた会社が多かった。

そして最後に、会社としてどれだけの二酸化炭素を排出しているかを聞いた。これに対しては、年間9220万トンとした東京電力を筆頭に様々な回答があった。“資料編”にすべてを掲載したので参照していただきたい。 日本全国の総排出量が12億2500万トンなので東京電力の場合、その7%を一社で排出していることになる。もっとも「排出しているから悪い」という考えは早計である。業種によっては排出せざるをえない業種もある。電力や鉄鋼業などがそうである。本調査でもそうした企業が排出量の上位を占めている。ただそうした業種の会社ほど排出量をきちんと把握している傾向も明らかになった。全体の結果は次の通りである。

・排出量を算出している 52.7%
・算出しているが公表していない 12.3%
・算出していない 28.0%
・その他  6.4%

そして業種別にみると「電力・ガス」「パルプ・紙」「化学」「電気機器」「輸送用機器」などが排出量を明記する割合が高かったのに対して、「建設」「卸売」「小売」「サービス」などでは算出していない企業が多かった。特に「銀行」など金融関係企業からの排出量の回答は皆無だった。

◆温暖化対策推進法の問題点

こうした結果をみると残念ながら地球温暖化対策推進法は十分な実効性をあげたとはいえない。日本を代表する企業の間でさえまだまだ計画を作成していない場合が多いのである。さらに問題なのが自社の温室効果ガスの排出量を算出していない企業がかなりあるという点である。今後削減していくためにも、まず現在どのくらいのガスを出しているかを把握するのは大前提である。これなくしてただ削減計画をつくるといっても砂上の楼閣にすぎない。

ちなみに今回のアンケートでは問2で排出抑制計画を作成したとしながら、問4では現在の排出量は算出していないという企業も散見された。 こういう回答は矛盾である。今の排出量が何トンであるかが分かっていてはじめて今後の計画が立てられるはずだからである。ただ結果を集計する時には矛盾のあるなしに関わらず、回答通りに集計した。
ではこの地球温暖化対策推進法のどこに問題があったのだろうか。一つは事業者・企業に対しては計画の作成が努力義務にすぎない点である。やはり義務ということを明確化しないと作成しない事業者が多くなるのは当然だろう。さらに同法の事業者についての規定は実に曖昧である。法律の第7条を見ると「温室効果ガスの総排出量が相当程度多い事業者」を特に念頭に置きながら計画の作成を求めている。だが「相当程度多い」という定義も曖昧ならば、計画を企業単位で作るべきなのか事業所ごとに作るべきなのかもよく分からない。こうした点は明確にすべきである。

では「努力義務」を「義務」に格上げすれば解決するのかといえば、事はそれほど簡単ではない。現に作成が義務であるはずの市町村の作成率が低いのはすでにみた通りである。その理由としては期限が設けられていないことがあげられる。期限がない以上、未作成だからといって違法だとは言い難くなる。現行法の大きな抜け穴といえよう。

さらに現状では企業の発表している排出量が正しいかどうかを判断する術はない。何トン排出していると言われればそれを信じるしかない。そのためアンケートでも妙なことが起きている。回答の中には“排出しない”というものがあった。しかし常識で考えて排出がゼロということはありえない。同法の施行令では電力消費に伴う二酸化炭素排出もカウントするからである。企業である以上、電気くらいは使うだろう。 そうすればゼロになるはずはない。排出しないと回答した方はおそらく「わが社は石油も石炭も燃やしていない。だから二酸化炭素は排出していない」という思い込みがあったのだろう。いわば単純な誤解に基づくものと思われる。だが誤解であれ意図的であれ間違った排出量を発表しても現在の制度ではそれを検証することができない。

排出量の報告が正しいかどうかを検証できる制度を設けることが必須である。また誤解が生じたのも政府の啓発不足の証左ともいえる。なお一層の啓発が求められることも言うまでもない。

◆何をなすべきか
以上、アンケート結果に基づきながら現行法の問題点を指摘してきた。今後の温暖化防止立法の中でこうした反省点を生かさなければならない。

まず企業にも排出抑制計画の作成を義務づけるべきである。この時に作成期限を設定しないと実効性に欠けるのはすでに見た通りである。 それに加えて絶対に必要なのは各企業に現在の温室効果ガス排出量の公表を義務づけることである。こうした義務化はむしろ当然のことである。現に他の分野ではすでに実施されている。例えば99年にPRTR法が制定された。この法律は環境汚染の恐れのある化学物質を排出した企業はその排出量を把握して届出なければならないというものである。 これによって約2万社の企業が化学物質の排出量について届出をすることになった。二酸化炭素についても同じことができないはずがない。ただし企業といっても日本中の企業は165万社もある。一定以上の規模の企業に限定するのはやむをえないだろう。PRTR法においてもこうした“裾切り”は行なわれている。

企業に対して義務を課すというと、とかく経済界を中心に反発が起きるのが常である。しかし私がここで言っているのは特別に産業界に負荷を課そうというわけでもなければ、生産量を制限しろというのでもない。あくまでも排出量をきちんと報告する制度を作り上げるべきだと言っているのである。しっかりと情報公開をしろというだけのことである。これは本来ならば現行の地球温暖化対策推進法の下でも行なわれているべきことなのである。むしろ穏健すぎるほどの提案である。

こうした制度を確立することの意味は単に情報公開の推進という点だけにとどまらない。効果的に温室効果ガスを削減するためにも必要なのである。ガスを効率的に削減するためには市場原理を利用する排出量取引が有効である。いずれ国内でも排出量取引が行なわれる可能性があるだろう。現にイギリスでは来年4月から実施するという。だが排出量取引を行なうためには各社が現在どれだけ排出しているかを把握することが大前提となる。これなくして排出量を取引きすることはできないからである。そういう意味でも排出量の報告制度をいま作っておく必要がある。
当然のことながら先に述べたように報告が正しいかどうかの検証システムも確立すべきである。また虚偽報告への罰則も必要だろう。

◆確実な第一歩を
産業界の人はよく二酸化炭素の排出量は増えていないと胸を張る。「産業部門の排出量は増えていない。むしろ増えているのは民生・運輸部門だ。だからそちらにメスを入れるべきだ」という声はしばしば聞かれる。これはある意味で正しい。しかしそれでも日本の二酸化炭素の総排出量のうち40%が産業部門なのもまた事実である。 民生部門が25%、運輸部門が21%なのに比べてもやはり大きい。これだけ膨大な排出源を手付かずのままにしておくわけにはいかない。まして増えていないというならば個々の企業も排出量を堂々と公表すればよいのである。

もちろん地球温暖化対策はこれだけではない。産業界に対しては義務だけではなく削減のためのインセンティブも必要だろう。さらには民生・運輸部門からの排出の抑制も喫緊の課題である。そのためには環境税・炭素税の導入も必要だろう。こうした諸々のことを議論していかなければならない。私がここで主張してきたことはむしろ第一歩にすぎない。 だがその第一歩を確実に踏み出すことが明日の人類のために必要なのではないだろうか。

最後にこのアンケートにご協力いただいた多くの方々に心から感謝を申し上げたい。

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