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けんいちブログ

産廃特措法が成立へ

2003.05.17

「産廃特措法が成立へ」

不法投棄撤去の新法とは何か。その中身と課題をわかりやすく解説。 「エコケミストリー」誌掲載
現在開会中の通常国会で産業廃棄物の不法投棄に関する二法案が成立する。政府はすでに二法案を国会に提出している。会期末の6月までには成立する見込みである。不法投棄を取り締まる法律はこれまでも存在した。「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」である。この法律は不法投棄に厳しく対処するために平成3年、9年、12年に改正されている。頻繁な改正はそれだけ対策が後手に回っていることを意味している。  法律を厳しくしても不法投棄を行なう側は抜け穴を見つけ出し、それを塞ぐためにまた法律を改正するということが繰り返されてきた。

今回の二法案の一つはこの廃棄物処理法の改正である。平成になってから四回目の改正になる。今度の目玉は不法投棄に未遂罪を新設したことである。さらに国の立ち入り検査権の創設も盛り込まれている。 もう一つが「特定産業廃棄物に起因する支障の除去等に関する特別措置法」という新しい法律である。名称が長いので産廃特措法と略されることが多い。この新法はすでに不法投棄されてしまったゴミの山を片付けるための法律である。廃棄物処理法が将来の不法投棄の未然防止を狙っているとすれば、こちらは過去の負の遺産を清算するための法律といえよう。同法は堆積している不法投棄を平成15年度から24年度の10年間でほぼ一掃することを目指している。なぜこの法律が必要なのか。それを理解するためにも、不法投棄された産業廃棄物がどのような手続きで撤去されているかをやや詳しく見てみよう。

◆年々溜まっていく不法投棄
環境省の調べによると平成13年度に不法投棄された産業廃棄物は全国で24万トンだった。前年の40万トンに比べれば大幅に減少したが、ある推計によると実際の投棄量はこの100倍にも達するという。100倍もあるかどうかはともかく、実態が24万トンという数をかなり上回っているのは事実だろう。このままでは日本列島はゴミの列島になってしまう。 しかも不法投棄は有害物質を含んでいることが多い。 投棄現場では高濃度のダイオキシンや鉛・水銀・カドミウムなど多くの危険物質が検出されている。こうした物質は近隣住民の健康被害に直結する。地下水汚染の心配もある。 さらに不法投棄は悪臭や自然発火なども引き起こす。 大変深刻な環境問題なのである。 それだけに不法に捨てられてしまった産業廃棄物は一刻も早く撤去される必要がある。だが年間に不法投棄された24万トンのうち原状回復、つまり撤去が始まったのはわずか14万トンにとどまっている。残り10万トンは投棄されたままということになる。これでは年々不法投棄のゴミの山が溜まり続けていってしまう。

◆誰が撤去するのか
では誰が撤去すべきなのか。当然、不法投棄の原因者が行なうべきである。法的にもそれが大原則になっている。不法投棄があった場合、まず都道府県は投棄の実行犯ら原因者に対し撤去を求めて行政指導する。産業廃棄物行政を司るのは都道府県だからである。原因者がそれに従わなければ撤去するように命令を出すことができる。これを措置命令といい、法的拘束力もある。措置命令をかけられる対象者が廃棄物処理法第19条の五で定められている。これによれば措置命令は不法投棄を行なった者、一定の要件に該当する排出事業者、その他不適正処分に関与した者などにかけることができる。 自らが投棄した者はもちろんのこと、直接投棄したわけでなくても処理委託基準を満たさなかった排出事業者やさらには土地所有者の責任も問えるのである。土地所有者と一口に言っても自分の土地に勝手にゴミを捨てられた純然たる被害者もいるだろう。逆に裏面で不法投棄に関与している地主も多い。後者のような場合には措置命令をかけられる。こうして不法投棄の関係者が自ら撤去するのが原則になっている。

平成13年度の不法投棄24万トンを例に取り、誰が撤去したかの内訳を見てみよう。
不法投棄量 24万1675トン
うち撤去に着手されたもの14万1472トン
撤去の実施者は
投棄実行者12万1949トン
排出事業者  8506トン
土地所有者等 4198トン
地方公共団体1972トン
その他 1972トン
(トン以下は切り捨て)

◆都道府県の代執行とは
このように現在も原因者によって原状回復が行なわれてはいる。ただ一方で手付かずのものが多いのもまた事実である。撤去が進まない理由は何だろうか。これも平成13年度の場合を例に見てみたい。同年度に投棄された24万トンのうち撤去が未着手のものは、10万0203トンに上る。その理由は以下の通りである。

投棄者不明3万4909トン
指導に従わない 2万2246トン
資力不足 1万0528トン
行方不明・連絡不通 1万0402トン
回収不能 32トン
その他1万0402トン

最大の理由は投棄者が分からないことなのである。こうした場合には行政が指導しようにも、措置命令をかけようにも手の打ちようがない。また犯人は分かっているが撤去するだけの資力がないということも多い。無い袖は振れないというわけである。こうした時にはどうするのか。 原因者による撤去を待っていてはいつまで経っても埒が明かないということもある。そこでやむをえない時は都道 府県が自ら撤去に乗り出すことができる。これを行政の代執行という。上の例で平成13年度に地方公共団体が1972トンの不法投棄を原状回復とあるのがこれにあたる(実際には1972トンのすべてが法律上の代執行の手順を踏んでいるわけではない)。

ともあれ現在でも最後の手段として都道府県が産廃を処理するという手立てはある。だが都道府県はこの最後の手段に訴えることに消極的だった。一つには産廃処理はあくまでも投棄者などの責任であり、税金で処理するのは筋が通らないという理屈による。最後は税金で処理するのでは捨てた人間の「捨て得」を許してしまう。さらに費用があまりにも大きいということもある。日本最大の不法投棄現場である青森・岩手の県境の産廃を処理するには数百億円かかると見積もられている。これだけの額を県が負担するのは確かに厳しい。そこで都道府県はこの最終手段をなるべく回避してきた。しかも悪いことに措置命令に踏み切ることにさえ躊躇しがちだった。措置命令をかけた以上、相手がそれに従わなければあとは代執行するしかなくなる。つまり自らの負担に道を開くことになる。これを恐れるあまり、毅然とした姿勢が示せなかったわけである。

◆都道府県への国の支援
代執行を行なう時、都道府県だけが負担をするのでは彼らが尻込みするのも無理はない。そこで国が資金面で補助する仕組みが作られた。平成9年の廃棄物処理法改正で都道府県が代執行をする時は「産業廃棄物適正処理推進センター」が支援することになった。同センターが総額の4分の3を出すので都道府県の負担は4分の1だけですむ。同センターにはそのための基金があり、原資は国と産業界が1:2の割合で拠出している。つまり全体の負担割合は国が4分の1、産業界が4分の2、都道府県は4分の1ということになる。これによって代執行に至ったとしても都道府県の負担はかなり軽減される。後顧の憂いなく措置命令もかけられるというわけである。

だが問題はある。同センターの支援は平成10年6月以降に捨てられた産業廃棄物を撤去する時に限られている。 平成10年6月ということに特別の意味はない。平成9年6月に改正された廃棄物処理法が1年後に施行されたというだけのことである。ところが実際には多くのゴミの山はそれ以前に捨てられた産廃の名残なのである。環境省の平成13年6月の調査によると全国の不法投棄産廃1214万トンのうち平成10年6月以前のものが85%を占めている。

そこで10年6月以前の産廃を撤去する時にも国は補助を出すようにした。しかしこれは法律に基づく補助ではない。あくまでも毎年の補正予算で補助金を工面しているにすぎない。法的には10年6月以前の産廃撤去の支援策は空白なのである。

◆新法の内容と今後の課題
今回成立が見込まれている産廃特措法はこの空白を埋 めることを狙いとしている。古い産廃であっても都道府県が撤去に乗り出す時は国がきちんと支援を行なうためのものである。同法は10年6月以前に不法投棄された産業廃棄物を「特定産業廃棄物」と定義して、これを今後10年間(平成24年度まで)で集中的に撤去することを目指している。そこで法律自体も平成24年度末までの時限立法になっている。

肝心の国の補助率は有害物質が含まれている産廃で2分の1、そうでないものは3分の1となる。数値そのものは法律成立後に政令で定められる。この結果、投入される国費は10年間で総額400億円ほどと見積もられている。 残りは都道府県が負担するが、これも起債で対応できるようにした。ちなみに産業界の負担は想定されていない。

よく産廃特措法によって今後10年で全国の不法投棄が一掃されるという言い方がされる。さすがにそれは幻想である。この法律はあくまでも都道府県が原状回復に乗り出す時の国の財政支援を定めたものである。法律が成立すれば都道府県は産廃撤去に前向きになるだろう。だからといってすべての不法投棄の撤去に踏み切るわけではない。恐らく全体の3割ほどが撤去されるにとどまると見込まれている。

それでも新法の制定は大きな前進である。危険性が高く撤去が喫緊の課題になっているような不法投棄の除去はほぼ完了するだろう。だがこれで事足れりとしてはいけない。別の問題が顕在化している。平成10年6月以後の新しい産廃の撤去支援策が破綻しつつあるのだ。支援母体の産業廃棄物適正処理推進センターの基金に資金が集まってこない。産業界の拠出が遅々として進まないためである。この問題については紙数の関係上ここでは詳しく述べられないので、拙稿『不法投棄撤去のために』(水野賢一ホームページに掲載)をご参照いただきたい。

産廃特措法は10年6月以前の古い産廃に絞って処理策を打ち出している。それは新しい産廃はすでに対策済みだという前提があったからである。ところがそこにほころびが見えてきた。このままでは新しい産廃ほど処理が進まないという逆転現象が起こってしまう。いま産廃行政は曲がり角にさしかかっている。とりわけ撤去のための財源は従来の方式では行き詰まってきた。関係者からの強制的な徴収や産廃税による充当なども含めて抜本的な見直しが求められているともかく強制を想起させるあらゆることに反対するのだからたまらない。

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