「成田空港民営化について」
行革に逆行する国土交通省案=成田・関空統合案に反対。正しい民営化のあり方とは。
◆成田と関空
日本に空港は88ある。国際定期便が発着しているものに限ると23空港となる。ただ国際線のほとんどは成田空港と関西国際空港に集中している。2001年の場合、国際便の乗降客数の54%が成田空港を利用している。関空が25%でこれに続き、三位の名古屋空港の9%を大きく引き離している。この二つの空港だけで全国の79%を占めていることになる。まさにこの両空港こそ日本の表玄関と呼ぶにふさわしい。
成田空港を建設・運営しているのは新東京国際空港公団という特殊法人である。年収1500億円、従業員900名なので企業にあてはめれば一部上場企業に比べても遜色ない。一方、関空建設のために設立されたのが関西国際空港株式会社である。これは株式会社という形態をとっているが、やはり特殊法人の一つである。行政改革の掛け声の下、今この二つの特殊法人をどうするかが焦点になっている。すでに民営化されることは決定している。だがその時期や方式が定まっていない。今年の末までにどのように民営化するかの結論を出すことになっている。
◆特殊法人改革
特殊法人改革の必要性は以前から叫ばれていた。親方日の丸の非効率的経営、天下りの温床、使命の終わった事業の存続という手厳しい批判が寄せられていた。そこで特殊法人の統廃合が進められ、最盛期には113に達したその数も、現在では74にまで減少している。
昨年4月に発足した小泉内閣は構造改革を掲げているが、その大きな目玉が特殊法人改革である。民間でできることは民間でやるという考えの下、昨年12月には特殊法人等整理合理化計画が閣議決定された。ここには多くの特殊法人や認可法人の廃止・民営化・独立行政法人化が盛り込まれた。だがこの時点では決まらなかったものもある。話題の道路関係四公団もそうだった。そして空港関係も2002年中に結論を得るということで決定が一年間先送りされた。
◆当初の国土交通省案
この整理合理化計画の策定に先立つ昨年9月、国土交通省は新東京国際空港公団と関西国際空港株式会社の民営化についての同省案を発表した。成田と関空と2005年開港予定の中部国際空港をそれぞれ上下分離にして、上物は三空港別々に民営化、下物については三空港一体の公的法人にするというものだった。上下分離というのは空港の管理・運営をする上物法人と滑走路などを整備・保有する下物法人を別会社にするということである。JRにおけるJR貨物とJR東日本などとの関係にやや似ている。JR貨物はあくまでも貨物列車の運行をするだけで、下物である線路は別会社であるJR東日本やJR九州などが保有しているという関係である。上を走るJR貨物は線路の使用料を下物法人に支払うことになる。国土交通 省案ではこれと同じように空港を管理・運営する上物会社が滑走路などの施設使用料を下物法人に払うわけである。
◆国土交通省案への批判
この案の最大の問題点は三空港の下物法人を統合したという点である。要は収益力のある成田と赤字に悩む関空を一緒の会計にして関空の赤字を補填しようということである。関空を大赤字にした国土交通省の失政を隠し、そのツケを成田に回したわけである。高速道路で強い批判を浴びているプール料金制をどさくさに紛れて空港にも導入しようとするものだともいえる。国土交通省自身、この仕組みでは成田空港は今後33年間にわたって毎年154億円分、関空と中部国際空港が持つ債務を肩代わりすることになると認めている。逆に関空の負担は毎年127億円、中部の場合は毎年28億円軽減されることになる。国土交通省はこれを「平準化」という言葉で飾ったが、実態は単なる損失補填であり誰がどう見ても関空支援策に他ならないものだった。
当然、関西国際空港株式会社、大阪府、関西政財界などは歓迎し、千葉県などは猛反発した。しかしこの案は単にそうした地域的な損得を超えた問題をはらんでいた。関空が赤字だからといって別のところから黒字を持ってくればいいという安易な発想そのものが行政改革に真っ向から反するものだからである。私はこの案に対しては強く反対した。
自民党行政改革推進本部の総会などで私は次のように述べ続けた。「私は民営化そのものに反対するわけではない。しかし成田と関空・中部を一緒の法人にすることは納得できない。これは単に成田の黒字で関空の赤字を補填しようというものではないか。いま高速道路などでこれだけプール料金制が問題になっている時に、新たに空港にプール料金制度を導入するというのはそれこそ行革の理念に反するものではないのか。成田空港に黒字があるというならばまずそれは地元対策に使うべきである。これは地元エゴで言っているのではない。成田は関空や中部と違って内陸空港なのでどうしても騒音などの問題が発生する。そういう特殊事情を抱えている以上、まずは騒音対策など地元の環境問題に資金を使うべき。それでもまだ黒字が余るというならば、着陸料を下げるべきだ。世界一高いといわれる成田の着陸料を下げることが先決であり、それもしないうちに何故に関空支援に成田の資金が回されなければいけないのか。こんなおかしな案は認められない。」
結局、昨年末の時点では賛否両論が平行線をたどり、まとまりがつかなかった。その結果、12月19日に政府が発表した特殊法人等整理合理化計画では次のような表現になった。「国際ハブ3空港の経営形態のあり方については、従来の航空行政を厳密に検討した上、上下分離方式を含め民営化に向け平成14年中に政府において結論を得ることとする」。つまり結論を一年先送りしたというわけである。
◆国土交通省の方針転換
だが国土交通省案への強い批判はなおも続いた。新聞も全紙そろって反対の論陣を張った。国内の航空会社で組織する定期航空協会も反発した。世界の航空会社でつくる国際航空運送協会(IATA)も懸念を表明した。四面楚歌の中、同省もついに今年9月、姿勢を転換させた。成田と関空を一緒にするということを断念したのである。これまでの案を撤回した背景には7月末に新東京国際空港公団の総裁が変わったことも影響したとみられる。
これで三空港統合という最悪の案は消えてなくなった。だが一口に成田単独民営化といっても、さらに二つの考え方がありえる。一つは成田単独で上下分離する民営化である。この場合は上物法人だけを民営化し、下物法人は公的法人にとどめることになる。もう一つは成田単独で上下一体の民営化である。
関空と統合することには一枚岩で強く反対していた千葉県内でもこの点については見解が分かれる。堂本暁子・千葉県知事は前者を主張し、小川国彦・成田市長は後者が持論だった。国土交通省は今度は上下一体民営化を念頭に置くようになった。ちなみに定期航空協会は成田単独民営化は強く要望していたが、それ以上に踏み込んで上下一体か分離かということにまでは言及していない。
◆上下一体か分離か
民営化というからには上下一体という方が本筋である。建設から運営まで一体に行なってはじめて経営に責任感も生まれ、効率化が図られるといえよう。ただ上下を分けるべきという意見も分からないではない。上下含めてまったくの民間会社になってしまうと環境対策や地元対策は不採算部門だとして切り捨てられるのではないかとの懸念があるからである。完全民営化は環境問題や共生策での国の責任放棄だというわけである。 成田空港の場合、空港公団は毎年100億円を超す環境対策費を支出している。2002年度の場合119億円でその多くは移転補償である。これは内陸空港としては当然のことである。同じく内陸にある伊丹空港でも環境対策費は86億円(02年度)になっている。民間会社になった時に、例えばこうした環境対策費が無駄遣いのように指摘され、株主代表訴訟の対象になったりしたのではたまらない。環境分野などにもきちんと対策をするためには完全な民営化よりも国が何らかの関与をした方が良いという考えも一理ある。
ただ逆にいえば、環境対策などが万全になされるのであれば上下分離にこだわることもない。また2010年度開業予定の成田新高速鉄道への協力も重要である。成田空港と都心を30分台で結ぶこの鉄道には空港公団が出資・負担金などで多大な支援を行なうことになっている。民営化されたとしてもこの事業への熱意は継続してもらわなければならない。こうした点が担保されさえすれば上下一体民営化に反対する理由はなくなる。千葉県の姿勢も上下一体を容認する方向に変わりつつある。私自身も同じ考えである。
担保としては法律への明記が一番確実である。民営化するためには法改正が必要となる。まずさしあたっては来年の通常国会に空港公団を特殊会社化する法案が出される見込みである。法案の中に、新会社の責務として環境対策や地元共生を盛り込むべきである。その中で民営化された成田空港が地域と共に歩む日本の表玄関としてますます発展していくことを期待したい。 項で発動するようにした。それに伴って第3項に修正を加えた。