『一つの中国』は正しいか
2002.09.16
『一つの中国』は正しいか
一つの中国はフィクションである!日中関係の本質を衝く話題作。毎日新聞に掲載。
目下最大の外交上の話題といえば小泉首相の北朝鮮訪問だろう。電撃的な発表は大きな驚きをもって迎えられた。日本政府はこの北朝鮮と1991年以来国交正常化交渉を続けている。 北朝鮮はしばしば日本が国交を持たないほとんど唯一の国という呼び方をされる。しかし同じ東アジアにもう一つ日本が国交を持たない「国」が存在している。しかもこの「国」とは正常化交渉さえ行なわれることがない。それが台湾である。 台湾の人口は北朝鮮とほぼ同じ、経済力はタイやインドネシアをしのいでいる。これほど大きな存在であるにもかかわらず日本政府は国とは認めていない。政治的には存在しないかのように扱っているのだ。
私は今年の1月から外務大臣政務官をつとめていたが、この現状はあまりにも不自然だと考えた。そこで今夏政府の一員としての台湾訪問を希望した。残念ながらこれは外務省内で認められなかった。外交の根幹にかかわる方針で意見が違うにもかかわらず、ただ職に恋々とするわけにもいかない。結局先月末に政務官の職を辞することとした。
なぜ日本政府は台湾を認めないのか。なぜ私の訪台は認められなかったのだろうか。理由は実に簡単である。中国が怒るというだけのことである。中国は自国と国交を結ぶ国に対し、台湾を認めないように要求している。台湾はあくまでも自国の領土の一部だという建て前を堅持しているからである。いわゆる「一つの中国」という主張である。日本政府も1972年の日中共同声明でそうした中国の立場を「十分理解し、尊重」することを約束している。
だがそれから30年経ったいま、この見直しも必要ではないだろうか。なにしろ中国が一つだというのは現時点ではまったくのフィクションなのである。現にこの50年以上、中国と台湾は別々の道を歩んでいる。このフィクションに中国が固執している点にこそ東アジアの不安定要因がある。もちろん中国が将来の目標として統一を掲げるのは自由である。しかし日本など他国に対してまで「一つの中国を認めろ」と強要してくるとなると話は別になってくる。そして現実の中国は他国に「一つの中国」論を押しつけている。日本の選択肢として中国・台湾の双方と友好親善を深めるという道があって然るべきである。これを認めないと中国が言うのは行き過ぎといわざるをえない。
さらに中国は台湾への武力行使を時折ほのめかす。「一つの中国」という虚構を軍事力で維持しようとしているようにみえる。まず日本政府としては中国に対し「一つの中国」の押しつけをやめるように働きかけるべきである。武力行使の放棄を強く迫るのも当然である。日中関係は大切である。 だがすべて中国の顔色をうかがい遠慮をする必要もない。多額のODAを供与している以上、主張すべきことを主張するのは当然である。
外務省は対中外交のあり方について先例にとらわれず、幅広い議論をすべき時にきている。これは担当部局内だけでの狭い討議に終わらせてはならない。開かれた議論を行なうことこそ本当の外務省改革のはずである。鈴木宗男事件で反省すべきは北方領土のような重大事の意思決定が一部の人間の間でいつのまにか行なわれていたということである。外務省改革とは単に機構いじりをすることではない。外務省の体質そのものを変えていくことなのだから。
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