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なぜ政府答弁は基本的なことで揺れ動くのか?~安保法制:「存立危機事態」の認定について~

2015.08.21


◆存立危機事態とは
 本日、参議院安全保障特別委員会で質疑をした。とはいえ持ち時間はわずか8分だったので細部に深入りした質疑をするだけの時間はない。

 そこで集団的自衛権に関して、かなり基本的なことを質問した。私の質問内容について説明する前に、現在、国会で審議されている安保関連法案の仕組みを概観してみる。
この法案では政府が「存立危機事態」だと認定した場合には集団的自衛権を行使することもありえるとしている。図式的に表せば、

  “存立危機事態の認定”→“集団的自衛権の行使”
となるわけである。
では存立危機事態とは何かと言えば、日本が直接武力攻撃を受けたわけではないが、日本の存立が脅かされる場合のことだという。

 ◆集団的自衛権行使と「要請」
一方で政府は、集団的自衛権を行使するには攻撃を受けている他国からの要請が必要ということも再三答弁している。要請もないのに集団的自衛権を行使するのは国際法違反であるとも言っている。
確かにどこからも要請もないのに、日本が「これは集団的自衛権だ」と言い張って海外派兵をすれば、それは自衛ではなく単なる侵略になりかねないのだから、これは当然のことだとは思う(そのわりには法案には要請が必須とは明記していないのだが)。

上の表記にならっていえば、
  “密接な関係にある他国からの要請”→“集団的自衛権の行使”
という形になると政府は繰り返しているわけである。

 ◆存立危機事態の認定と「要請」
 ここでよく分からないのは、存立危機事態の認定にも要請が必須なのかどうかということである。つまり
  “密接な関係にある他国からの要請”→“存立危機事態の認定”→“集団的自衛権の行使”
という図式になるのかということである。
そこで私は「政府が存立危機事態と認定するにあたっては他国からの要請が必要なのか」ということを本日の質疑で尋ねたわけである。

ところが答弁はまったく分からなかった。矛盾と意味不明な言説の繰り返しだったといって過言ではない。中谷防衛大臣は「必要だ」と言ったかと思えば「不要」とも取れる言い方もした。さらにはあまり関係のない話をいろいろとしていた。結局、8分の質疑時間のうち7分間くらいは中谷大臣の答弁の揺れ動きが続いた感じがする。もちろん私としてはこの答弁に満足することはできない。政府としてきちんとした統一見解を出してもらう必要がある。

 私はなにも細かなことを問い質したわけではない。これは集団的自衛権行使の手順という極めて基本的な話である。根幹に関わる議論と言って間違いない。なぜこのような基本的なところで答弁が揺れ動くのだろうか。要は法案の中身が詰まっていないとしか言いようがないのである。

 ◆条文はどうなっているか
 ちなみに要請が必要か否かを改正法案の条文から見てみると以下のようになっている。「存立危機事態」という概念は今回の法改正案で初めて登場する。法律上は、この用語の意味は事態対処法の改正案の第2条で定義されている。その条文は以下の通りである。

「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう」
これを読む限り、存立危機事態と政府が認定するにあたって他国の要請が必要であるとは一言も書いていない。また法律の他の条文や政府が昨年7月に閣議決定した「武力行使の新三要件」を見ても要請の話はまったく出てこない。

 ではこれまでの国会答弁ではどうなっているのか。横畠内閣法制局長官は、存立危機事態の認定基準として昨年7月14日の衆議院予算委員会での答弁で、以下のものをあげている。
  ①攻撃国の意思及び能力
  ②事態の発生場所
  ③事態の規模、態様及び推移
  ④日本に戦禍が及ぶ蓋然性
  ⑤日本国民が被ることとなる犠牲の深刻性及び重大性
これらを客観的・合理的に判断して政府が存立危機事態と認定するというわけである。ここでも攻撃を受けた他国からの要請の有無には触れられていない。
常識で考えてみても、日本の存立危機事態なのである。他国からの要請の有無に関係なく認定できると考える方がすっきりするだろう。

しかし本日、防衛大臣の揺れ動く答弁を聞いてみても、まったく煮詰まっていないというのが実感である。
なお誤解を避けるため付言しておくと、私は「他国の要請など不要だ。日本独自の判断でどんどん存立危機事態と認定しろ」と言っているわけではない。それはそれで問題があると思っている。

 ◆本日の感想
 本日の質疑を終えた私の感想を一言で言えば、上述した通りこの安保関連法案には煮詰まっていない点が多すぎるということである。審議すればするほどそれが明らかになってきている。すでに私は7月29日付のブログでも「この法案には致命的な欠陥がある。そのような法案は撤回・出直しをすべき」という旨を書いている。本日の政府答弁が混乱し、右往左往した原因は、やはり提出されている法案そのものに欠陥があるからだと思う。政府が「集団的自衛権の行使には他国からの要請が必須」と言いながら、それについて法案では一言も触れていないことも混乱に拍車をかけているとも思う。

 こうした欠陥法案を強行採決したり、衆議院の3分の2を利用して再可決をするなどは論外である。本日の質疑時間は、わずか8分間だった。しかし「この安保関連法案については撤回・出し直しが必要だ」との思いをあらためて強くしたところである。

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