ミサイル防衛について
2001.06.26
「ミサイル防衛について」
外国からミサイルが飛んできたらどうするか。ミサイル防衛について分かりやすく解説。
ミサイル防衛構想が注目を集めている。田中真紀子外相がこれに否定的な発言をしたとの報道が流れたからだ。田中外相は報道内容を否定しているので真偽のほどは分からない。「言った」「言わない」ということはここでは問わない。肝心なのはミサイル防衛構想をどう考えるかということである。
ミサイル防衛とは簡単に言えば、敵国が打ち込んでくる弾道ミサイルを撃墜する技術を開発しようということである。現在の技術ではミサイルを撃ち落とすことは極めて難しい。10年前の湾岸戦争の時にもイラクが発射したミサイルをパトリオット・ミサイルが迎撃したが、十分満足のいく精度とはいえなかった。 ミサイルは北朝鮮が保有している中距離ミサイルでも秒速3キロという高速で飛翔し、米露中などが保有する大陸間弾道弾になれば秒速7~8キロに達する。マッハ2の戦闘機といっても秒速に直せば0,7キロくらいだからいかに速いかが分かる。ましてミサイルは電波を反射する面積が小さいためレーダーにも探知されにくく、その要撃は困難を極める。
しかしこれでは、ひとたび相手国がミサイルを発射してしまえば大変なことになってしまう。ましてそのミサイルが核兵器などを積んでいれば国家の存亡にも関わる。そこでアメリカでは飛来するミサイルを撃墜する技術を開発しようとしている。これがミサイル防衛構想であり、日本もアメリカと共同して研究しはじめている。
私はこの研究は進めるべきだと考えている。現在、世界中で弾道ミサイルを保有している国は41か国もある。30年前には米ソ二か国だけだったのに比べると大変な勢いで拡散している。日本周辺でも中国、ロシア、韓国、北朝鮮、台湾、ベトナムなどが保有している。98年に北朝鮮がテポドン・ミサイルを発射し、三陸沖まで到達したことは記憶に新しい。こうした状況下で、日本向けにミサイルを発射する国が絶対にないとは言い切れない。その時に飛んで来るミサイルを手をこまねいて待っているわけにはいかない。撃墜する術を考えるのは当然のことだと思う。ましてこれは他国を攻撃する兵器ではない。防衛専門のシステムである。専守防衛を掲げる日本にこそふさわしいものといえる。ミサイルを矛だとすれば、ミサイル防衛は盾である。矛をもっていない日本が、せめて盾の技術くらいは大いに研究すべきだろう。
もっともこのミサイル防衛の開発には莫大な費用がかかるといわれる。なにしろ難技術である。先に述べたように中距離ミサイルでさえ秒速3キロくらいで飛んで来るのだ。迎えうつ側は、これを撃ち落とすためのミサイルを地上もしくは海上から発射して対抗する。いわば飛んで来る弾丸に向けて、銃を撃って撃ち落とすようなものである。しかもミサイルの速度はライフルの銃弾(秒速0.7キロ)よりもはるかに速い。これほどの技術を開発し、本格的な開発や配備にまで進むとどのくらいの費用が掛かるのかはまだ見えてこない。いかに防衛兵器といっても費用対効果を無視するわけにはいかないとの声があるのも事実である。
しかし、だからといってミサイル防衛の構想そのものを否定するのは早計である。「構想そのものを否定する」ことと「構想は理解するが、費用が掛かるから慎重にのぞむ」ことには雲泥の差がある。どうも田中外相の発言を聞いていると、前者の立場、つまり構想そのものを否定する姿勢が見え隠れする。私はむしろ後者の立場を取りたい。今の段階ではまず研究を推進すればよいと思う。本格的に量産し、実戦配備するとなると確かに費用もかさむ。そこまで踏み込むかどうかは、研究の結果を見て、後に考えていけばよいのである。
それにしても理解に苦しむのは中国の態度である。中国はミサイル防衛に反対の意向を表明している。しかし中国自身は弾道ミサイルを保有しているのだ。96年には台湾近海に撃ち込み緊張を招いてもいる。日本を射程圏に含んだ矛を持っている国が、矛も盾も持たない日本に対して「盾を持つのもけしからん」と言うとは、一体どういう了見なのだろうか。
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