外交と人権について
1999.04.20
「外交と人権について」
◆人権外交はいかにあるべきか。初当選直後に党機関紙に掲載された記念碑的論文。
20世紀初頭の国際紛争はバルカン半島からから始まった。「ヨーロッパの火薬庫」といわれたこの地域の複雑な民族対立に火がついて、それが第一次世界大戦にまで発展した。今世紀が終わろうとしているいま、そのバルカン半島に再び戦火が広がっている。
アメリカを中心とするNATO軍がユーゴスラビアへの空爆を始めたからである。NATOは空爆の理由としてコソボにおけるアルバニア系住民への迫害をやめさせることをあげている。アルバニア系住民に対して人権侵害を続けるミロシェビッチ政権に懲罰を与えるということである。だが私はこの空爆についてかなりの疑問をもっている。コソボにおける人権抑圧は確かに深刻である。しかしユーゴはなにも他国を侵略したわけではない。ましてNATO諸国を攻撃したわけでもない。にもかかわらずNATOの方から主権国家に対し先制攻撃を加えるというのはいかになんでも国際法上、行き過ぎだと思うからである。まして国連決議も欠いている状況ではなおさらである。さらに空爆の決果、人権状況は改善するどころか大量の難民の発生など悪化していることが伝えられている。
人権侵害は由々しい事態である。国際社会がそれを非難するのも当然である。しかしユーゴの対応に前進が見られないからといって、軍事的な制裁を加えるとなると話は別である。アメリカによる人権の強制的な押し付けと取られても仕方あるまい。私はアメリカという国の美点については満腔の敬意を表するが、今回の行き過ぎた行為については賛成しえない。
さて人権の押し付けは問題としても、翻って日本を見ると逆の意味で問題を抱えているのではないか。アメリカとは反対に日本は他国の人権に対してあまりにも無関心すぎる。例えば米中首脳会談では必ず焦点となる中国やチベットの人権状況などは、日中会談ではまず取り上げられない。中国民主化運動のシンボル的な存在としてアメリカでは著名な王丹、魏京生といった名前も日本ではほとんど知られていない。つまり無関心なのである。日本は過去の歴史問題があるから中国に対して物を申してはならないという雰囲気があるとすれば、そうした呪縛からは解き放たれるべきである。人権や民主化の押し付けは望ましいことではない。しかし無関心というのはもっと悪いのではないだろうか。
『自由民主』に掲載 (1999年4月20日号)
◆水野 賢一のひとりごと
これは私が初当選直後に書いて自民党機関紙の「自由民主」に掲載されたものです。ちょうどコソボ紛争が発生した頃です。その時の題名は「人権の押しつけと無関心」というものでした。2年以上前のものですが、今読んでも私の考えはまったく変わっていません。特に後半の部分はそうです。「他国の人権や民主化に無関心であってはならない」「援助をするときにもこうした面を考慮すべきだ」というのは私の一貫した主張です。
私は昨年の衆議院選の時の選挙公報にもモ独裁政権や軍事大国への援助にははっきりとNoと主張し、国民の税金を無駄に使わせませんモと掲げました。援助をしてもそれが独裁政権の延命や核開発に使われては困るというのは当たり前のことです。だからこそ日本政府も92年にODA大網というルールを定めています。援助する時にはその国が核開発をしているかどうか、民主化を図っているかどうかを考慮するという内容です。
ところが問題なのは、政府自身が自分で決めたこのODA大網を守っていないことなのです。例えば共産中国は一党独裁国家で人権も抑制し、さらには軍拡まで進めています。その中国に日本政府はこれまでに2兆7千億円もの援助資金を注ぎ込んでいるのです。
こうしたことには引き続き「おかしい」と声を上げていかなければいけないと思っています。最近ではさすがに対中援助への反省の声も出てくるようになりました。当然のことでしょう。いずれにしても日本政府も国民ももっと中国の人権状況には関心を払うべきです。
なにしろ近くにある大国なのですから。その点、中国べったりの姿勢が見え隠れする田中真紀子外相には不安も大きいのですが・・・ (この“ひとりごと”は2001年5月24日に記す)
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