環境問題と予防原則
2010.05.11
前号にも書いた通り水俣病は1956年に公式確認されました。水俣病の原因はチッソ(当時の名前は新日本窒素肥料)という会社がアセトアルデヒドを製造する時に、副産物として発生する有害なメチル水銀を水俣湾に流していたことです。
しかし最初のうちは原因がはっきりとしないので、色々な説がありました。
・風土病説
・旧軍が水俣湾に投棄した爆薬説
・アミン中毒説
といった諸説です。
とはいえ1959年頃にはいくつかの研究によって、チッソの排水が原因ではないかということが、かなり有力視されるようにはなってきました。
しかし「科学的に完全には証明されていない」ということで、原因の断定には至りませんでした。そしてチッソ社は排水を流し続け、被害はさらに拡大することになります。
国がチッソの排水が原因だと断定したのが1968年です。すでにチッソも排水を流すのをやめていました。
「誰がどう見ても原因はこれに間違いない」というところまで完全な科学的な証明を待っていたのでは対策が遅れてしまいます。
同じことは現在の環境問題でも言えます。地球温暖化はその代表です。
今でも「地球は温暖化していない」とか「温暖化の原因は二酸化炭素ではない」という人がいます。私の印象ではその多くはトンデモ学者ですが、様々な説があること自体は構わないでしょう。そういう議論を封殺する必要もありません。
現に温暖化への警鐘を鳴らし続けている国際的な科学者の集まりIPCCも温暖化の原因を二酸化炭素だと断定しているわけではありません。「可能性がかなり高い」と言っているだけです。
だから温暖化の原因について様々な見解があっても何ら不思議はありません。しかしだからといって、二酸化炭素排出削減の努力を怠ってよいことにはなりません。
水俣病の教訓は、「100%確実な証明を待っていては遅い」ということだからです。可能性がかなり高い以上、手遅れにならないような対策に早めに踏み出すべきです。これが「予防原則」です。早め早めに治療しないと病気が重篤になるのと同じことです。
「温暖化していない」とか「原因は二酸化炭素ではない」ということを科学的に議論するのは結構ですが、それが対策の手抜きの口実に使われないようにも警戒する必要があります。
一方で国政に返り咲けば、よく調べてみたいこともあります(当落にかかわらず調べたいとは思っていますが・・)。
そうした説を唱える学者たちと産業界の関係です。
世の中には「タバコは健康に悪くない」という説もあります。異端の説ではありますが、そういう学者がいるのも事実です。
米国などではそういう学者にタバコ業界が多額の資金提供していたことが問題になったと聞いた覚えがあります。
産業界が自らの手抜きにとって好都合な説を唱える学者を援助しているとは思いたくありません。しかし「まさか」ということもあります。
変な形での産学の癒着が国や地球の方向を誤らせないためにも調査の必要があると思います。
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