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成田新高速鉄道の予算が計上

2001.12.24

「成田新高速鉄道の予算が計上」
たゆまぬ努力の中、ついに予算を確得。2010年開業に向け大きく前進させる

◆成田新高速鉄道の予算がつく
平成14年度予算の編成も終わった。私にとって特筆すべきことはこの中に成田新高速鉄道の関連予算が新たに含まれたことである。この鉄道の整備については昨年の衆議院選挙でも公約として掲げた。ホームページやチラシでも数回にわたってその必要性を訴えてきた。予算が獲得できたことにより2010年開業という目標に向け、大きく前進したことになる。心から喜ぶとともに関係者の御尽力に感謝申し上げたい。

この鉄道が完成すると成田空港と都心は36分で結ばれることになる。これまで同じ区間を京成スカイライナーが51分かかったのに比べると15分の短縮である。新東京国際空港公団が今年発表した日本人旅行者対象のアンケート調査によると、成田空港への満足度は施設の清潔さなどでは高いのに対し、空港へのアクセスについては世界の主要25空港中ワースト1になっている。都心から遠いというのが成田空港の弱点だった。それがこの鉄道によって改善されることになる。空港から1時間以内の昼間人口も288万人から1114万人に増えるという。さらに忘れてはならないのが千葉ニュータウンの利便性が高まることである。現在は都心との交通があるだけで袋小路になってしまっているこの地域から成田にも容易に行けるようになる。

◆画期的な補助率の嵩上げ
実はこの鉄道の構想を運輸省(現・国土交通省)が打ち出したのは昭和59年のことである。だがその後長い間、事実上なんの進展もないまま放置されてきた。鉄道建設には莫大な資金が必要である。その資金調達の目途が立たなかったからである。そこで国による補助が求められていた。今回、画期的だったのは成田新高速鉄道に限って補助率が嵩上げされたことである。成田空港のようにアクセス改善が求められている部分には重点的に公的助成をすべきだという主張が受け入れられた。これまでの仕組みでは空港にアクセスする鉄道の場合、建設費の36%を国と地元が補助するようになっていた。それがこの成田新高速鉄道に限っては国と地元で合計3分の2の補助をすることになったのである。これによって建設に弾みがつくことになる。

私も補助率の引き上げを求めて昨年4月に国会質問をした。成田の利便性を高めるために国が責任を持つ必要があると考えたからである。ただその頃はまだ、補助率嵩上げはとても無理といった雰囲気だった。アクセス鉄道の必要性を十分に理解してくれる人の中でさえ諦めの感が漂っていた。財政難の中、補助率を引き下げることはあっても引き上げなどは夢のまた夢という反応だった。 それを振り返ってみると我ながらよくここまできたという思いもある。また開業時期についても当時は2015年と言っていたが、現在では2010年を前提に話が進むようになったことも感慨深い。

もちろんまだまだ越えるべき山は多い。例えばこの路線は印旛沼の上を通過することになるので環境アセスも大きな課題である。また資金面一つをとってみても地元負担という場合の千葉県と市町村の負担割合もこれからの折衝になる。今後もこうした諸問題を一つずつ解決していく努力が必要である。

◆アクセス改善で都市再生へ
政治の世界では「我田引水」ならぬ「我田引鉄」という言葉が使われる。 政治家が地元への利益誘導として鉄道を引っ張ってくるという意味である。整備新幹線などでよくみられる光景である。これは今に始まったことではない。

大正期の平民宰相・原敬が露骨な「我田引鉄」によって政友会の党勢拡張を図ったことは有名である。成田新高速鉄道も地元の利益になることは間違いない。だがそれは決して単なる地域エゴではない。空港の利便性をよくすることは成田に空港を建設することを決定した国の責務である。また空港と都心を速く結ぶということは地元のみならず多くの国民や旅行者の利益にもつながる。今になって初めて予算が採択されたというのはむしろ遅きに失したといえるくらいであろう。

先に述べた通り、この鉄道の構想は以前からあったものの長らく凍結状態にあった。建設に向けての機運が加速度的に高まってきたのは昨年からのことである。私自身も多少はその気運を醸成するのに寄与しえたと自負している。だが最後の決め手になったのは今年になって千葉県において堂本知事が誕生し、国において小泉内閣が誕生したことだと思う。堂本知事は就任後、真っ先にこの鉄道の必要性を訴え、国に対しても働きかけを続けた。 また小泉政権は「都市再生」を大きな政治課題として掲げた。こうして都市住民の生活利便性を向上させるためにも空港アクセスの改善が必要だという雰囲気が盛り上がってきた。こうした追い風が予算獲得につながったといえる。

◆調査なくして発言権なし
私自身もこの問題に取り組むことは大いに勉強になった。補助率の引き上げなど難しいとされていた課題が多かっただけに、徹底的に調べ上げる必要があった。また地域エゴではないことを分かってもらうためにも部外者を説得できるだけの材料も揃えなければならなかった。そうした中で痛感したのは、政治家が自分で物事を調べていくことの重要性である。同僚の議員たちの中にも、よく知らないことや単なるその場の思いつきを平気で得々と語る人もいる。だがそうした議論には説得力がない。現実を動かすだけの力もない。

『毛沢東語録』に“調査なくして発言権なし(没有調査、没有発言権)”という言葉がある。私は毛沢東を尊敬するどころかむしろ批判する側に立つが、少なくともこの言葉は真実を衝いていると思う。調査をすることで発言にも重みが増す。調査なくして政策立案能力を高めることもありえない。

成田新高速鉄道の実現に向けては一つの区切りがついた。しかし今後の政治活動にあたっても徹底した調査とそれに基づく説得力ある提言を続けていきたいと自戒を込めながら考えている。
cf.成田新高速鉄道については「水野賢一ホームページ」の“水野賢一の主張”欄の2000年6月8日、01年2月4日、01年8月17日でも取り上げている。ご参照いただきたい。

〔参考資料〕
◎成田新高速鉄道の総事業費
新線区間 917億円
北総・公団線区間改良 295億円
空港駅改良(インフラ外部) 74億円
空港駅改良(インフラ部) 281億円 合
計 1567億円

◎財源スキーム
空港内インフラの281億円は空港公団が整備
残りの1286億円のうち、
・負担金  261億円…地元と空港公団が負担
・出資金  205億円…地元、空港公団、その他で出資
・補助金  461億円…国、地元が230億円ずつ
・借入金  359億円…線路使用料収入から充当
(以上、国土交通省資料より作成)

cf.補助率は3分の2だがあくまでも補助対象事業費の3分の2のため1286億円の3分の2にはならない。

女性天皇と夫婦別姓

2001.12.12

「女性天皇と夫婦別姓」
日本の長い歴史からみれば不自然でない女性天皇と夫婦別姓。錯覚を打破し改革を

◆活発になる女性天皇論議
今年の後半は不景気、テロ、狂牛病と暗い話題が続いていた。その中で久々に明るさを提供したのが皇太子ご夫妻に初のお子さまが誕生したというニュースである。12月1日に生まれた内親王殿下は敬宮愛子さまと名付けられた。皇室のご慶事に対し心からお喜び申し上げたい。

敬宮さまのご誕生で女性天皇の是非についての議論が再び活発になってきた。現在の皇室典範は第1条で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定めている。つまり女性は天皇になる資格がない。だがどういうわけか皇室に新たに誕生するのは女の子ばかりという状況が続いている。男子が生まれた例は昭和40年の秋篠宮さまを最後に途絶えている。その後、天皇家・宮家でお生まれになったのは紀宮さま、秋篠宮ご夫妻の二人のお子さま、そしてこのたびの敬宮さまなど9人連続で女子である。男女が半々ずつ生まれるとすれば、9人連続して女子が生まれる確率はわずか512分の1になる。だが現実にこうした事態が起きているのである。

◆8人もいた女性天皇
このままでは皇統が絶えてしまうという危機感が女性天皇を認めようという声を呼び起こしている。もちろん男女同権という時代の流れもある。 私も女性天皇を認めるべきだと思っている。そのために時機を見て皇室典範の改正も行なうべしと考えている。そもそも女性天皇は前例のないことではない。これまでに8名も存在している。初めての女帝は聖徳太子の叔母として有名な推古天皇である。最後が江戸時代中期の後桜町天皇だから、もしそう遠くない将来、女性が即位されるようなことがあれば二百数十年ぶりの女性天皇復活ということになる。

歴史的に見るならば天皇を男子に限定したのが明治以降のことなのである。明治22年に制定された大日本帝国憲法と旧皇室典範で定められた。今から110年余り前のことである。我々個人の感覚でいえば明治以降の百年というのは極めて長い期間である。そのため天皇は男子に限るというのがあたかも日本の歴史的伝統のように思い込みがちである。だが我が国の長い歴史から見ればむしろ新たな取り決めにすぎない。女性天皇が即位しても決して伝統や文化に背くものではない。

◆伝統ではない夫婦別姓
伝統にあらざるものを伝統だと錯覚している例が他にもある。いま話題の夫婦別姓についてである。現在、民法750条によって夫婦は同じ苗字を名乗るようになっている。これを改正して別姓の夫婦も容認すべきだという動きがある。だがそれに対する猛反発もわきあがっている。反対論者たちは「夫婦別姓は伝統を壊し、家族制度を破壊する」と主張している。夫婦は同姓というのがあたかも日本の伝統のような言いぶりである。

しかし夫婦は同姓というのも明治以降に決まったことにすぎない。それ以前の時代は武家以外が姓を名乗ることは制限されていたが、武士階級では源頼朝夫人が北条政子だったり、足利義政夫人が日野富子だったりするように夫婦別姓こそ普通だったのである。明治になって平民が苗字を使えるようになってもしばらくそれは続いた。それどころか明治新政府は女性は結婚後も実家の姓を名乗るように命じていた。それが明治31年に成立した民法によって夫婦は同じ姓と定められたのである。

◆選択的別姓論
夫婦別姓論についてはさらに大きな誤解がある。私を含めてほとんどの別姓推進論者は「必ず別姓にしろ」と言っているわけではない。別姓にしたい人は別姓にし、同姓にしたい人は同姓にすることを主張しているだけである。好きな方を選べるようにするということにすぎない。だから正しくは“選択的夫婦別姓論”というべきなのである。至極常識的な考えだと思うが、自民党内には反対が強く今年中の法改正は断念せざるをえなかった。

だがいったいこの案のどこに問題があるのだろうか。別姓を強制するというのであれば反対が強くて当然である。しかし実際の夫婦別姓論というのは“選択的夫婦別姓”なのである。これはちょうど離婚の権利を認めるようなものである。離婚の権利があるからといってすべての人が離婚するわけではない。離婚の権利を行使しないのも当然自由である。そして現に権利を行使しない人の方が多数なのである。選択的夫婦別姓も同じことである。とりたてて別姓を奨励しているわけでもない。別姓にしたい人だけがそうすればよいのであって、したくない人はその権利を行使しなければよい。つまり自由に任せるのである。その結果、同姓にする夫婦の方が多くても何らかまわないのである。

これに対し別姓反対論者というのは夫婦同姓を強制しようとしている。だが現に姓を変えるのは嫌だという人がいるのである。理由はさまざまである。仕事上の不都合を指摘する人もいる。自己喪失感を訴える人もいる。一人っ子なので改姓すると家名がなくなってしまうという場合もあろう。はたまた改姓すると姓名判断で運勢が悪くなるという人さえいる。 いずれにしても同姓を強制されたくない人が少なからずいる以上、そういう声も吸い上げていくのが政治ではないだろうか。

◆錯覚を打破し改革を
もちろん実際に法改正をする場合には細かな点もきちんと詰めておかなければならない。夫婦別姓の場合、子供の姓はどうするかということはその一例である。こうした細部の議論が煮詰まっていないことをもって時期尚早という人もいる。しかし何よりも反対論の根本にあるのは現状の変革を嫌う感情論である。そしてそれを補強しているのが伝統や文化の維持という理屈である。しかしそれが錯覚にすぎないのは前述した通りである。

幕末に攘夷論が渦巻いた時、多くの人は鎖国は日本開闢以来の祖法であるかのように信じこんでいた。だが実際には鎖国は古来の法でも何でもなかった。徳川三代将軍・家光の時に確立したものであり、それ以前には外国と交易していた時代もある。このことを指摘して「航海遠略策」という開国論を説いたのが長州の長井雅楽だった。長井は悲命に斃れることになるが、結局、明治維新後の日本は広く世界と交易する中で発展していった。錯覚によって旧弊を墨守してはならない。改革すべき点は大いに改めればよい。女性天皇、夫婦別姓の問題もまた然りである。 そしてそれはこの国の長い歴史の中で育まれてきた伝統や知恵となんら矛盾するものではないのである。

印旛沼の水質浄化のために

2001.11.27

「印旛沼の水質浄化のために」
飲料水としては汚染度全国一の印旛沼。湖沼浄化に新機軸を開く金字塔的巨編。

◆汚濁の進む印旛沼
沼と湖の違いはどこにあるのだろうか。法律などでこの二つを明確に区分しているということはない。ただ一般的に浅いものを沼と呼び、深いものを湖と呼び慣わしているだけである。だいたい水深5メートルくらいが境目とされているようである。もちろん例外はどこにでもある。福島県の沼沢沼は最大水深が96メートルもある(沼沢湖とも呼ばれる)。群馬県の菅沼は76メートルの深さがあるが沼と呼ばれている。

私が住んでいる千葉県佐倉市は印旛沼のほとりにある。印旛沼の最大水深は2.5メートルだから典型的な沼といえよう。この沼は北印旛沼と西印旛沼に分かれ、二つは捷水路でつながっている。合計した面積は1165ヘクタールで、沼と名付くものとしては日本最大級の大きさを誇っている。同時に印旛沼は日本の湖沼で二番目に汚れている。湖沼の汚染は普通、CODという値で表わす。値が大きければ大きいほど汚れていることになる。日本で一番CODが高いのは同じ千葉県の手賀沼である。印旛沼がそれに続き、第三位に牛久沼(茨城県)と佐鳴湖(静岡県)が並んでいる。「沼」が上位を占めているのは当然かもしれない。浅いということは面積に比べて水の容量が少ないということである。つまり汚染物質が流れ込めば、すぐに汚れてしまう。浅いという特性が沼の汚染を加速化しているのである。

湖沼の汚染ワースト5(平成11年度・単位はCOD年平均値・mg/l)
1 手賀沼 千葉県 18
2 印旛沼 千葉県 12
3 牛久沼 茨城県 11
4 佐鳴湖 静岡県 11
5 油ヶ淵 愛知県 9.5

◆このままではワースト1に
汚染度首位の手賀沼は最近、急速に浄化が進んでいる。平成12年から利根川のきれいな水を大量に手賀沼に流し込むようにしたためである。当然、沼の水は希釈されてきれいになる。昭和49年に環境庁が順位を付け始めて以来、26年連続して手賀沼が水質汚濁日本一の座を占め続けてきた。だが北千葉導水と呼ばれるこの事業の開始により、手賀沼の水質は改善している。手賀沼の水質がよくなること自体は歓迎すべきことである。だがこのままでは印旛沼がワースト一位になる日もそう遠くないかもしれない。全国最悪の水質という不名誉を避けるためにも今こそ印旛沼の浄化が求められている。

ちなみに手賀沼の水は農業用水に使っているだけで、飲み水にはなっていない。これに対し印旛沼の水は飲料水、農業用水、工業用水のすべてに使われている。つまり飲料用の水としては現在すでに印旛沼は全国最悪の状況なのである。

国はそれぞれの湖沼に環境基準を設けている。環境基準とは人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい目標のことである。環境基準は水の用途によって湖沼ごとに違うが、飲料水として使われている印旛沼の場合はCODは1リットルあたり3ミリグラム以下とされている(手賀沼は5ミリグラム以下)。ところが実際の印旛沼のCODは年平均で10ミリグラムである。基準にはほど遠いのが現状である。(注1)

◆水質汚濁の悪影響
水質の悪化はさまざまな問題を引き起こす。アオコが発生すれば悪臭のもとになる。水生植物の減少にもつながる。印旛沼では昭和30年代には約45種類の水生植物が確認されていたが、現在では10種類ほどにまで減っている。

そしてなにより人の健康への影響が危惧される。もちろんいくら原水が汚れていてもそのまま家庭に送られるわけではない。浄水場を通ってから水道水になる。水道法で定められた水質基準を満たす水にしてはじめて家庭に供給される。印旛沼の水も千葉市にある柏井浄水場で浄化されている。この浄水場は印旛沼の水と利根川の水の両方を処理している。実は柏井浄水場ではこの二種類の水を別々に浄水している。利根川からの水は沈澱・ろ過といった普通の処理をするだけである。 ところが印旛沼からの水はそれに加えて粒状活性炭やオゾンを使った高度処理を施す。そうしないと安心して供給できる水にならないからである。それだけコストがかかるともいえる。

◆指定湖沼に
印旛沼の水質が悪化してきたのは昭和40年代に入ってからである。昭和42年には沼の汚れの象徴ともいえるアオコが初めて発生した。47年頃からは水質汚濁が急速に進んだ。湖沼の汚染に対して国も手をこまねいていたわけではない。昭和59年には湖沼水質保全特別措置法という法律が成立した。この法律は、水質改善が必要な湖沼を国が指定し、水質保全計画を定めるようにしたものである。現在までに全国で10の湖沼が指定されているが、印旛沼は琵琶湖、霞ヶ浦、児島湖、手賀沼と並び昭和60年にまっさきに指定を受けている。

こうした取組みにもかかわらず印旛沼の水質はなかなか改善しない。それどころか従来は西印旛沼の汚染が問題だったが、今や北印旛沼の水質も同じくらいに悪くなってきている。
印旛沼の水質の変化(COD年平均値・mg/l)
年度 平成   5 6 7 8 9 10 11 12
COD 8.2 11 12 11  11  10  12 10

cf. 測定点は西印旛沼の上水道取水口下

◆汚濁の原因
なぜ水質浄化が進まないのか。また私たちは何をなすべきなのか。 それを考えるためにもまず印旛沼の汚染の原因をみてみる必要がある。汚染源は大きく分けて三つある。生活系と産業系と自然系である。生活系とはその名の通り台所、洗濯、トイレ、風呂などから出る生活排水である。産業系とは工場排水や畜産によるものである。自然系とはやや聞き慣れない言葉だが、雨が降って道路や市街地を洗い流して沼に流れ込むものなどをいう。他にも田畑・山林から出る汚れもここに含まれる。

印旛沼の汚濁の大部分は生活系と自然系に由来する。CODの発源を見ると生活系が41.6%、産業系が6.3%、自然系が52.9%となってる。この構成こそが対策の立てにくさの理由なのである。特定-[の工場からの排水が汚染の原因であるならば解決は簡単である。その工場排水を止めればよいからである。ところが印旛沼の場合はわれわれの日常生活全体が汚染源といえる。それだけに対策の特効薬が見つかりにくい。

生活排水ならばまだ対策のたてようもある。一人一人が汚染の原因になるようなものを流さないようにするなどの工夫もできる。また下水道や合併浄化槽の普及によって汚れた水が沼に流れ込まないようにすることも可能である。だがやっかいなのが自然系である。雨が街の汚れを洗い流して沼に流れ込むことを止めるのは難しい。これへの対策は現在まだ研究段階である。道路の清掃頻度がどの程度汚濁に関係するかなどが調査されている。山林を管理することで保水力を高め、沼に一気に水が流れ込まないようにすることも必要とされる。いずれにせよ効果的な手法はまだ模索中である。

生活排水がわれわれの生活に密接に関係していることは言うまでもない。そして自然系もわれわれのライフスタイルに起因しているといえる。都市化によって汚濁に拍車がかかっているからである。山を切り開き、土をアスファルトで覆うようになったことが大きく影響している。そしてこの自然系が汚濁に占める割合は年々高くなっているのである。

◆地球環境問題の試金石
われわれ自身が環境の破壊者になってしまっているというのは、現代型の環境問題の特徴である。一時代前の公害の場合、加害者は企業で、被害者が住民という構図が鮮明だった。例えば水俣病ならばチッソ社の出す有機水銀が原因だった。イタイイタイ病は三井金属鉱業から出るカドミウムによって引き起こされた。逆にいえば、被害は極めて深刻だったが、対策としてはこうした特定の発生源を抑えればよいという点で分かりやすかった。だが今日の環境問題の多くはそうではない。地球温暖化などの場合、一人一人が被害者であると同時に加害者でもある。生活の中で二酸化炭素を排出しているという点でわれわれ自身も温暖化の原因を作っている。

こうした現代型の環境問題の解決には特効薬はない。様々な手法を組合わせながら総力戦で臨むしかない。その中でわれわれ自身の意識改革も求められている。ライフスタイルの変革も必要である。この点は地球温暖化も印旛沼浄化もまったく同じである。裏を返せば、印旛沼の浄化というのは単に一地域の問題にとどまらない。地球環境問題の縮図なのである。これを解決出来るかどうかが地球環境を改善できるかどうかの試金石といえよう。

◆まずは啓発を
特効薬はないにしても出来うる限りの努力はしなければならない。まず出発点として、住民の一人一人に印旛沼の水質について広く関心を持ってもらう必要がある。われわれ自身が汚している以上、われわれ自身がそのことを自覚し、生活のありかたを見直す必要がある。そのためにも啓発活動が求められる。

この点で見習うべきは琵琶湖の例だと思う。琵琶湖は近畿一帯の水瓶だが昭和40年代に入ると周辺の都市化にともなって汚染がひどくなってきた。そこで住民の間で汚濁につながる合成洗剤の追放運動が始まり、粉石鹸の使用が奨励された。そして滋賀県も昭和54年には画期的な「富栄養化防止条例」を制定した。同時に滋賀県は59年に「世界湖沼環境会議」を主催する。この会議は地球上の各地で湖沼汚濁に取組む人たちと交流を図ることを狙ったもので29か国からの参加があった。この会議はのちに「世界湖沼会議」と名前を変え、その後も世界各地で約2年おきに開催されることになる。今年の11月には第9回の会議が発足の地・琵琶湖に里帰りして滋賀県大津市で開かれたのは記憶に新しい。このように琵琶湖周辺では行政も市民も環境保全のための意識が非常に高い。

もっともこうした取組みにもかかわらず琵琶湖の水質が劇的に改善したかといえばそうでもない。富栄養化防止条例が制定された昭和54年のCODの値は3.4ミリグラムだった。その後、昭和59年には2.6ミリグラムにまで下がったが、ここ10年ほどは3ミリグラムを上回り、平成11年度は3.2ミリグラムである。このあたりに閉鎖性水域の環境改善の難しさがあらわれている。(注2)
印旛沼の場合、琵琶湖に比べればもちろん、同じ県内の手賀沼に比べても意識がまだまだ低いように思われる。だが上にあげた数字に見られるように実際には印旛沼の汚れは琵琶湖の比ではないくらい深刻なのである。いっそうの啓発が求められる所以である。

◆市民の取組み
それでも印旛沼周辺でも意識の高まりの萌芽はある。市民も動きだしてきた。浄化を目指すNPO法人も誕生した。また「野菜いかだ」で沼を浄化しようというグループもある。沼につながる放水路にいかだを浮かべ、その上でクウシンサイやコウサイタイを栽培しているのだ。これらの野菜の根は水中に伸び、チッソやリンを吸収する。チッソやリンは放置しておくと沼の中で新たにCODを生み出す作用を持っている。 だからこれを植物の力で除去してしまおうというのである。

こうした試みは素晴らしいことである。もちろんそれによって沼全体の水質が劇的に改善するわけではないかもしれない。しかしそれでも市民が自ら参加するという点で大いに意味がある。水質への関心を喚起するためにも重要なことである。行政としても必要な支援を行なうと共に、こうした知恵を水質改善に役立てていくべきだろう。

◆発生源対策も
啓発活動に加えて必要なのは発生源対策である。汚れは元から断つのが一番よい。沼に入ってしまった汚れを除去するのは難しい。汚れを環境中に出さないことが大原則である。これは湖沼の汚染に限らない。 例えば大気汚染でもそうである。大気中に放出されてしまった有害物質を後から取り除くのは難しい。有害物質は発生源で処理するのが基本なのである。

そのためにもまず下水道や合併浄化槽の普及率を高めなければならない。これが最も確実な発生源対策だからである。もっとも佐倉市を例にとると下水道の普及率は89%で決して低い数字ではない。全国平均が62%、千葉県の平均が57%なのに比べてもかなり高いといえる。 問題はもっと上流の地域である。こうした地域にも下水道を普及させる必要がある。下水道の採算性が合わなければ合併浄化槽でもよい。 要は雑排水がそのまま流れ込むことを防ぐのである。

印旛沼の流域は10市3町2村(佐倉市、四街道市、八街市、印西市、白井市、成田市、千葉市、船橋市、八千代市、鎌ヶ谷市、酒々井町、富里町、栄町、印旛村、本埜村)にまたがっている。これらの広い地域から水が流れ込んでくるわけである。それだけに沼に流れ込む川はたくさんあるが、奇妙なことにこれらの川は上流ほど汚れている。一般的に河川は上流ほど清澄で、下流にいくほど汚れてくるのが普通である。だが印旛沼流域では逆になっている。これは上流ほど生活排水が未処理のまま川に流されているためと考えられる。

◆環境重視の公共事業を
ところで下水道や合併浄化槽を普及させるといっても資金が必要である。こういうところにこそ公共投資を行なうべきなのである。最近、公共事業の見直しが叫ばれている。車の通らない場所に道路をつくることはやめるべきである。本四架橋のように採算性をまったく無視した事業は無駄と責められても当然である。無駄な投資を削り、こうした環境分野に重点投資してこそメリハリのある公共投資といえるのではないだろうか。

先に述べたように印旛沼は湖沼水質保全特別措置法に基づいて国の指定を受けている。だが現実にはこの指定を受けても何の特典もない。指定湖沼は国が水質保全の必要性を認めたということである。こうした湖沼に対しては国が水質浄化のために資金面でも優遇することがあってよいのではないか。例えば指定湖沼の流域で下水道整備や合併浄化槽設置を行なう場合には普通よりも高めの補助を出すくらいのことはすべきだろう。そうした財政措置がなければ何のための指定なのかということになりかねない。

また印旛沼に植生帯を作り水草を回復することも検討すべきだと思う。前に「野菜いかだ」の例を紹介したが、確かに水生植物には水質浄化作用がある。印旛沼では繁殖したオニビシを昭和62年から平成3年にかけて大規模に刈り取ったことがある。だがその結果、水中のリン濃度が増え、CODの上昇にもつながったという報告もあるくらいである。

さらに農地からの肥料流出にも目を配る必要がある。肥料に含まれるチッソが沼に流れ込んでいるためである。今までこの問題はあまり触れられてこなかった。だがこれは対策が立てにくいとされる自然系の中で、対策可能とされるわずかな分野でもある。農業だけを聖域とするわけにもいかない。きちんとした対策が求められる。

◆県が中心になって取組みを
しかし何よりも重要なのは印旛沼浄化に向けて政治が強い意思を示すことである。より具体的には千葉県がイニシアティブを発揮すべきだと思う。河川法上、印旛沼は県知事管理の水域だからである。 私は印旛沼の浄化対策がこれまで進まなかった大きな原因は国まかせの姿勢があったからだと思っている。建設省(現・国土交通省)が持っていた「印旛沼総合開発事業」という構想に依存しすぎていたのである。この構想にはいろいろなものが含まれていたが、その柱は沼底を200万リューベも浚渫することだった。狙いとしては①新規都市用水の確保、②治水安全度の向上、③水質浄化の三本柱があった。その意味で必ずしも水質改善に的を絞った計画ではなかったが、それでもヘドロを浚渫することなどで浄化に寄与すると期待されていた。 だがこれに期待する余り、県や市町村は沼の浄化に主体的に取り組むというよりも、国に事業の早期着手を陳情するという姿ばかりが目についていた。

ところがこの構想は実際の工事に入ることなく昨年12月に正式に中止が決定した。公共事業見直しの時勢の中で800億円もかかるこの事業の必要性に疑問が投げ掛けられたからである。中止の決定は水質浄化への一頓挫ともいえよう。地元からは落胆の声も上がった。しかし私は逆にいい機会だとも思っている。今まで国の計画まかせだったものを、県を中心として地元が主体的に取り組むきっかけにすればよいのである。もちろん国に対しても必要な支援は要求すればよい。また市民団体なども巻き込むことが求められる。時あたかも県知事には環境問題に熱心な堂本暁子氏が就任した。堂本知事の強力なリーダーシップを期待している。

◆「印旛沼会議」の設置を提唱する
そこで私は知事が中心となって「(仮称)印旛沼会議」を設置することを提唱したい。この場に多くの関係者を集めて総合的な取組みを検討するのである。単に検討するだけでなく、そこで打ち出したことは実行することを前提としなければならない。そのくらいの気迫がないと議論倒れに終わるのが常である。関係市町村長はもちろん環境省や国土交通省、農水省の担当者、さらには学者、市民の参加も呼び掛けたい。その中で皆で知恵を出しあえばよいと思う。ちょうど三番瀬で円卓会議を設けるようなものである。

先に述べたように印旛沼の浄化には特効薬はない。総合的な施策が求められている。それだけに各部署が縦割り的に取組んでいても効果は減殺されてしまう。多くの関係者が参加することの意味はそこにある。

こうした会議をやったからといって沼をきれいにするための秘策が急に出てくるというわけではない。合併浄化槽の普及をはかったり、ビオトープをつくるなど今までいわれているようなアイディアの繰り返しになるかもしれない。しかしそれでも良いと思う。印旛沼の浄化を県政の最重要課題へと格上げすることこそ狙いなのである。会を重ねるごとに浄化への気運が高まるはずである。そうだとすればこれほど有意義なことはない。またこうした会議を開くことこそ市民への最大の啓発にもなるはずである。

◆機能していない水質保全協議会
実を言うと、こうした場はすでにあるともいえる。昭和46年に印旛沼水質保全協議会というものが設立された。この協議会の会長は千葉県知事がつとめ、千葉市・佐倉市など関係する16市町村の首長が副会長や理事をつとめている。他にも県水道局、水資源開発公団、土地改良区、漁協なども参加し、関係者はほぼ網羅されている。また関係する国会議員、県議会議員なども顧問に就任している。こうした顔触れをみると沼の浄化を討議するのに一番ふさわしい場である。ここで提唱した「印旛沼会議」を先取りした陣容ともいえよう。
しかしこの水質保全協議会には大きな問題点がある。沼の浄化に役立つことをしていないのである。言葉を換えれば機能していないのだ。実施していることといえば小中学生から印旛沼についてのポスターや標語を募集したり、ろ紙袋やポケットティッシュを配付している程度である。これはこれで啓発活動として意味があるのかもしれない。しかし肝腎の浄化のための具体策作りは何もしていないのである。せっかくこれだけのメンバーを集めて協議会を設置したからには、きちんとした議論を行ない、実際の政策に反映すべきだった。

この協議会が機能してこなかったのも浄化については国まかせの姿勢があったからである。だが建設省の計画が中止になった今、もはや国まかせにしているわけにはいかない。印旛沼の浄化に真剣に取り組む機関を立ち上げるべきである。もちろん既存の水質保全協議会を活性化してここで議論すべきだという声もあろう。それができれば何も「印旛沼会議」を新設して屋上屋を架す必要もない。そのあたりは柔軟に考えてよいと思う。大切なのは知事を先頭にして印旛沼の問題を県政の最優先課題に押し上げるような雰囲気をつくることなのである。

県はこの10月に「印旛沼流域水循環健全化会議」なるものを立ち上げた。ここで水質改善や治水について検討し来年3月までに計画を策定するという。だがこれは学者を委員長としたいわば専門家の討議の場であり、ほとんどの人はその存在さえ知らない。専門家による討議ももちろん必要である。しかし今、何よりも求められているのは、検討結果を即実行に移せるだけの気運の盛り上げである。そのためにも知事を中心とする「印旛沼会議」のようなものが必要なのである。

◆水の世紀にこそ印旛沼浄化を
21世紀は水の世紀といわれる。食糧危機がくる前に水の危機が深刻になると専門家は予測する。20世紀が石油をめぐって国家が争った時代とするならば、21世紀は水をめぐる争いが頻発するかもしれない。水は限られた資源だからである。

地球上の水は約14億立方キロメートルある。しかしそのうち97.5%は海水である。淡水は残る2.5%にすぎない。さらにそのうちの大部分は南極や北極の氷、あるいはアルプスなどの氷河である。人間がすぐに利用できる河川水や湖沼水は地球上の水のわずか0.01%にすぎない。

これだけ貴重な水を湛えた水瓶が私たちのすぐ隣にある。この印旛沼の環境を保全するのはわれわれの責務である。環境保全とは単にCODの数値を下げればよいというものではない。人間が水と身近にふれあえるような沼にすることが真の目的なのである。

注1)細かいことをいうと環境基準のCOD3mg/l以下というのは年平均値ではなく“75%値”である。75%値というのは測定したデータのうち良い方から順番に並べ75%目にあたる部分の値をいう。例えば印旛沼では年に24回水質を測定しているが、このうちきれいな方から75%(つまりきれいな方から18番目)の値を指す。これに対し、24回分を単純に足して24で割ったものが年平均値である。当然75%値の方が高めに出る。なお印旛沼のCODが年平均10mgというのは平成12年度の結果である。

ちなみに75%値だと11mgになる。前頁の「湖沼の汚染ワースト5」の表は平成11年度の結果である。印旛沼の12年度の結果はすでに千葉県が発表しているが、全国の湖沼についての統計は12月に環境省から発表される。そのため本稿執筆時点で平成12年度の全国の結果は未発表のためである。

注2)統計は琵琶湖南湖のもの。琵琶湖は北湖、南湖に分けられるが、南湖の方が汚染が進行している。

特集 地球温暖化・企業アンケート (資料編)

2001.11.23

「特集 地球温暖化・企業アンケート (資料編)」
地球温暖化対策の不備を浮きぼりにした話題作。豊富な資料をここに公開

◆調査対象
アンケートは東京証券取引所一部上場企業の全社(1488社)に対して実施した。調査方法は調査票を平成13年10月16日に郵送し、回答をFAXしてもらう形をとった。 回答は389社からあったので回収率は26.1%となる。 回答期限は11月6日としたが、期限よりも若干遅れたものは集計に含まれています。

◆アンケート依頼文の全文
調査票を送るにあたって同封した依頼文は以下の通り
-------------
地球温暖化問題についてのアンケートご協力のお願い

拝啓
時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。 さて地球温暖化は21世紀の人類が抱える最大の問題の一つだといわれています。そこで日本でもこの温暖化の防止を目的として1999年4月には「地球温暖化対策推進法」が施行されました。この法律によって、各事業者は温室効果ガスの排出抑制のための計画を作成することが努力義務とされています。しかし残念ながら法律施行後2年経った今なお、多くの事業者が未だにこの計画を策定していないのではないかとの声もあります。そこで今回この法律がどのくらいの実効性をあげているかを調査すべく、以下のようなアンケートを送付させていただきました。ご多忙中のところを恐縮に存じますが、ご協力いただければ幸甚に存じます。
敬具

衆議院議員・自民党環境部会副部会長 水野 賢一
*このアンケートは東証一部上場の全企業に送付しております。
*なお調査結果は回答・無回答を問わず企業名とともに「水野賢一ホームページ」に掲載させていただく予定です。

◆アンケートの全文
アンケートそのものの全文は以下の通りである。
「地球温暖化対策推進法についてのアンケートお願い」
・各設問ごとに選択肢を一つ選び、該当する番号に○をつけてください
・回答はこの用紙に直接ご記入ください
・記入後はお手数ですが、水野賢一事務所までFAXでお送りください

問1)地球温暖化対策推進法で、事業者が温室効果ガスの排出抑制計画を作成することが努力義務とされていることをご存じでしたか。
1 知っている
2 法律の存在は知っているが努力義務であることは知らなかった
3 知らなかった

問2)貴社は同法に基づく計画を作成されましたか。
1 すでに作成した
2 企業としては作成していないが業界団体などで共同して作成した
3 企業全体としては作成していないが事業所などで作成した
4 まだ作成していない
5 その他(                  )

問3)(問2で1を選ばれた方にのみ)貴社はその実行計画を公表していらっしゃるでしょうか。
1 公表している(さしつかえなければ公表方法をご記入ください(例)インターネット、環境報告書、記者会見など)
2 公表していない
3 その他

問4)貴社全体での二酸化炭素の総排出量はどのくらいになるでしょうか。 算出していればご記入ください。
1 算出している(  トン-CO2 )
2 算出しているが公表していない
3 算出していない
4 その他

cf. 温室効果ガス全体の総排出量(t-CO2 )も算出していればご記入ください。(                  )

問5)地球温暖化への対策についてご意見・ご感想などございましたらご自由にご記入ください。
-------------
この後に企業名、記入者の名前、所属部署などについて書いてもらった

◆アンケートの結果
問1)
①知っている317社(81.5%)
②法律の存在は知っているが努力義務であることは知らなかった61社(15.7%)
③知らなかった11社(2.8%)

問2)
①すでに作成した 163社(41.9%)
②企業としては作成していないが業界団体などで共同して作成した54社(13.9%)
③企業全体としては作成していないが事業所などで作成した 25社(6.4%)
④まだ作成していない107社(27.5%)
⑤その他 47社(12.1%)
cf. 無回答の企業や一社で複数の番号に丸をつけている会社もあるので合計は100%にならない。

問3)
①公表している 123社(75.5%)
②公表していない33社(20.2%)
③その他 8社(4.9%)
cf. 問2で1以外を選んだ会社の中で回答してきたものもあったが、統計上はこれは除外した。

問4)
①算出している205社(52.7%)
②算出しているが公表していない48社(12.3%)
③算出していない109社(28.0%)
④その他 25社(6.4%)

特集 地球温暖化・企業アンケート(本編)

2001.11.20

「特集 地球温暖化・企業アンケート(本編)」
~抜け道だらけの温暖化対策推進法~

企業はどの程度温暖化防止につとめているか。マスコミ等でも話題沸騰の初の実態調査

◆地球温暖化対策推進法の制定
地球温暖化が問題になってきたのは1980年代のことである。もちろんそれ以前にも地球が温暖化しつつあると警告する炯眼の学者はいた。しかし一方で地球は寒冷化に向かっているという説も強かった。「再び氷河時代がやってくる」という声さえ聞かれたのである。
だが今では大気中の二酸化炭素が増大し、地球が温暖化していることは定説になっている。温暖化防止こそが21世紀の人類にとって最大の課題の一つである。そこで1997年には京都会議が開かれ、各国が温室効果ガスの排出を削減することを申し合わせた。日本も2010年前後には1990年比で6%削減することを約束した。

そして日本では98年に地球温暖化対策推進法が制定された。当時の環境庁はこれは温暖化防止に狙いを定めた世界初の法律と喧伝していた。 しかし今、この法律では不十分だといわれている。京都議定書を批准し、本当に6%削減を実行するためには新たな法整備が必要だという声が強い。私もそう思う一人である。環境省も来年の通常国会には新法案を提出する構えでいる。

だがその前にもう一度、地球温暖化対策推進法を検証してみたい。この法律のどこに欠点があり、どういう不備があるかを精査することで、新たな法律づくりにも役立つと思う。法律とは作りっぱなしではいけない。過去の法律がどの程度の実効性をあげてきたかを検証することで、いま何をすべきかも見えてくるのではないだろうか。そのためにもあらためてここで地球温暖化対策推進法について振り返ってみたい。

◆地球温暖化対策推進法とは
地球温暖化対策推進法の柱は、国・地方公共団体・事業者がそれぞれ温室効果ガスの排出抑制計画を作るということである。例えば大阪府は1998年度に37.0万トン(CO2 換算)の温室効果ガスを排出した。これを2004年度には5%削減しようという計画をもっている。ちなみに37万トンというのは大阪府全域から排出される温室効果ガスではなく、あくまでも府の施設から排出されるガスのことである。府庁舎で消費するエネルギーや府の公用車などが出すもののことである。つまり一つの法人としての府が排出する量を指している。他にも東京都港区は99年度に20181トンの温室効果ガスを出しているが、これを2004年度には3%減らすことを目指している。

地球温暖化対策推進法とはこうした計画を国やすべての地方公共団体、事業者に作ることを求める法律なのである。つまりこの法律は排出をどれだけ減らせと強制しているわけではない。あくまでも現状の排出量を把握し、自主的に排出抑制計画をつくれという法律だといえる。ただし国、地方公共団体の場合は計画の作成が義務なのに対し、事業者の場合は努力義務になっている。

◆削減計画の作成状況
では、国、地方公共団体、事業者は法律通りにこの計画をつくったのだろうか。実態はお寒い限りである。なにしろ国自身が作成していないのだ。同法が施行されたのが99年4月である。それからすでに2年半が経過しているにもかかわらず、未だに作業が完了していない。率先垂範すべき国がまだ作成していないことは大いに批判されるべきである。

その点、都道府県は比較的成績がよく今年の4月1日時点で47のうち40都道府県が作成している。ちなみに未作成は群馬県、千葉県、神奈川県、富山県、長野県、滋賀県、京都府である。市区町村になると作成率はずっと低くなる。3249のうち412である。わずか12%にすぎない。国、地方公共団体はいずれも作成が義務である。にもかかわらずこれが現状なのである。

◆企業アンケートの実施へ
計画の作成が努力義務とされている企業の場合はどうだろうか。企業の場合も対応はまちまちである。環境問題への意識の高い企業は環境報告書をつくってかなり詳細な情報を公開している。どのような温室効果ガスをどれだけ排出し、削減のために何をしているかを具体的に提示している企業もある。一方でほとんど情報公開をしていない会社もある。

ではどれだけの企業が温室効果ガスの排出抑制計画を作成したのだろうか。以前、環境省が三菱総研に委託して企業アンケートを実施したことがある。これによると“作成した”というものが51.8%で、“作成していない”が45.6%だった。ちなみに回答したのは1306社で回答率は18.7%だった。

ただこのアンケートはまったくの匿名調査だったためにどの企業がどのような取組みをしているのかが不明だった。ましてどこが何トンの二酸化炭素を出しているのかという肝心な点も分からなかった。

そこで私は「衆議院議員 水野賢一事務所」として企業アンケートを行なうことにした。狙いは各社が計画を作成しているかどうかを調査することと、それぞれが何トンの温室効果ガスを排出しているかを把握することだった。調査対象は東京証券取引所一部上場の全1488社とし10月16日に調査票を郵送した。回答は389社からあったので回答率は26.1%となる。業種別にみると回答率が高かったのは「電力・ガス業」(14社中12社)、「ゴム製品」(10社中5社)、「輸送用機器」(58社中28社)などで、逆に低かったのは「鉱業」「証券業」「保険業」「不動産業」「サービス業」などである。個々の企業の回答結果についてもホームページで公開することを通知しておいたので、この拙文の後ろに“資料編”として掲載した。

◆アンケートの結果
アンケートでは4つの質問をした。最初の質問では地球温暖化対策推進法の内容を知っているかどうかを問うた。質問文は次の通りである。“地球温暖化対策推進法で、事業者が温室効果ガスの排出抑制計画を作成することが努力義務とされていることをご存じでしたか”結果は、
・知っている 81.5%
・法律の存在は知っているが努力義務であることは知らなかった15.7%
・知らなかった 2.8%
これを見ると同法の内容についての理解は総じて高いといえる。ただし「銀行」「倉庫・運輸」「サービス」の業種においては“知っている”の割合が半数に届かなかった。
続く問2は“貴社は同法に基づく計画を作成されましたか”というものだった。これに対しては、
・すでに作成した 41.9%
・企業としては作成していないが業界団体などで共同して作成した 13.9%
・企業全体としては作成していないが事業所などで作成した 6.4%
・まだ作成していない 27.5%
・その他 12.1%
との結果だった。ちなみにこの法律では共同で計画を作成することも認めている。

企業における作成率は都道府県ほど高くはないが、市町村よりはかなり進んでいるともいえる。ただしこの結果が企業全体の縮図であるとは言えない。調査対象は東証一部上場という日本を代表する企業に限られている。逆に言えば、その大企業にしてまだ3割は未作成だともいえる。さらに環境への取り組みに自信を持っている企業の回答率が高いのに対し、そうでない企業は回答してこないということは容易に推定できる。おそらく一部上場に限っても全体での作成率がもっと低いことは間違いないだろう。

第三の質問は、問2で“作成した”と答えた企業に対して、その計画を公表しているかどうかを尋ねた。法律の第9条では「計画を作成し、これを公表するように努めなければならない」とある。

・公表している 75.5%
・公表していない 20.2%
・その他4.9%

公表方法としてはホームページや環境報告書をあげた会社が多かった。

そして最後に、会社としてどれだけの二酸化炭素を排出しているかを聞いた。これに対しては、年間9220万トンとした東京電力を筆頭に様々な回答があった。“資料編”にすべてを掲載したので参照していただきたい。 日本全国の総排出量が12億2500万トンなので東京電力の場合、その7%を一社で排出していることになる。もっとも「排出しているから悪い」という考えは早計である。業種によっては排出せざるをえない業種もある。電力や鉄鋼業などがそうである。本調査でもそうした企業が排出量の上位を占めている。ただそうした業種の会社ほど排出量をきちんと把握している傾向も明らかになった。全体の結果は次の通りである。

・排出量を算出している 52.7%
・算出しているが公表していない 12.3%
・算出していない 28.0%
・その他  6.4%

そして業種別にみると「電力・ガス」「パルプ・紙」「化学」「電気機器」「輸送用機器」などが排出量を明記する割合が高かったのに対して、「建設」「卸売」「小売」「サービス」などでは算出していない企業が多かった。特に「銀行」など金融関係企業からの排出量の回答は皆無だった。

◆温暖化対策推進法の問題点

こうした結果をみると残念ながら地球温暖化対策推進法は十分な実効性をあげたとはいえない。日本を代表する企業の間でさえまだまだ計画を作成していない場合が多いのである。さらに問題なのが自社の温室効果ガスの排出量を算出していない企業がかなりあるという点である。今後削減していくためにも、まず現在どのくらいのガスを出しているかを把握するのは大前提である。これなくしてただ削減計画をつくるといっても砂上の楼閣にすぎない。

ちなみに今回のアンケートでは問2で排出抑制計画を作成したとしながら、問4では現在の排出量は算出していないという企業も散見された。 こういう回答は矛盾である。今の排出量が何トンであるかが分かっていてはじめて今後の計画が立てられるはずだからである。ただ結果を集計する時には矛盾のあるなしに関わらず、回答通りに集計した。
ではこの地球温暖化対策推進法のどこに問題があったのだろうか。一つは事業者・企業に対しては計画の作成が努力義務にすぎない点である。やはり義務ということを明確化しないと作成しない事業者が多くなるのは当然だろう。さらに同法の事業者についての規定は実に曖昧である。法律の第7条を見ると「温室効果ガスの総排出量が相当程度多い事業者」を特に念頭に置きながら計画の作成を求めている。だが「相当程度多い」という定義も曖昧ならば、計画を企業単位で作るべきなのか事業所ごとに作るべきなのかもよく分からない。こうした点は明確にすべきである。

では「努力義務」を「義務」に格上げすれば解決するのかといえば、事はそれほど簡単ではない。現に作成が義務であるはずの市町村の作成率が低いのはすでにみた通りである。その理由としては期限が設けられていないことがあげられる。期限がない以上、未作成だからといって違法だとは言い難くなる。現行法の大きな抜け穴といえよう。

さらに現状では企業の発表している排出量が正しいかどうかを判断する術はない。何トン排出していると言われればそれを信じるしかない。そのためアンケートでも妙なことが起きている。回答の中には“排出しない”というものがあった。しかし常識で考えて排出がゼロということはありえない。同法の施行令では電力消費に伴う二酸化炭素排出もカウントするからである。企業である以上、電気くらいは使うだろう。 そうすればゼロになるはずはない。排出しないと回答した方はおそらく「わが社は石油も石炭も燃やしていない。だから二酸化炭素は排出していない」という思い込みがあったのだろう。いわば単純な誤解に基づくものと思われる。だが誤解であれ意図的であれ間違った排出量を発表しても現在の制度ではそれを検証することができない。

排出量の報告が正しいかどうかを検証できる制度を設けることが必須である。また誤解が生じたのも政府の啓発不足の証左ともいえる。なお一層の啓発が求められることも言うまでもない。

◆何をなすべきか
以上、アンケート結果に基づきながら現行法の問題点を指摘してきた。今後の温暖化防止立法の中でこうした反省点を生かさなければならない。

まず企業にも排出抑制計画の作成を義務づけるべきである。この時に作成期限を設定しないと実効性に欠けるのはすでに見た通りである。 それに加えて絶対に必要なのは各企業に現在の温室効果ガス排出量の公表を義務づけることである。こうした義務化はむしろ当然のことである。現に他の分野ではすでに実施されている。例えば99年にPRTR法が制定された。この法律は環境汚染の恐れのある化学物質を排出した企業はその排出量を把握して届出なければならないというものである。 これによって約2万社の企業が化学物質の排出量について届出をすることになった。二酸化炭素についても同じことができないはずがない。ただし企業といっても日本中の企業は165万社もある。一定以上の規模の企業に限定するのはやむをえないだろう。PRTR法においてもこうした“裾切り”は行なわれている。

企業に対して義務を課すというと、とかく経済界を中心に反発が起きるのが常である。しかし私がここで言っているのは特別に産業界に負荷を課そうというわけでもなければ、生産量を制限しろというのでもない。あくまでも排出量をきちんと報告する制度を作り上げるべきだと言っているのである。しっかりと情報公開をしろというだけのことである。これは本来ならば現行の地球温暖化対策推進法の下でも行なわれているべきことなのである。むしろ穏健すぎるほどの提案である。

こうした制度を確立することの意味は単に情報公開の推進という点だけにとどまらない。効果的に温室効果ガスを削減するためにも必要なのである。ガスを効率的に削減するためには市場原理を利用する排出量取引が有効である。いずれ国内でも排出量取引が行なわれる可能性があるだろう。現にイギリスでは来年4月から実施するという。だが排出量取引を行なうためには各社が現在どれだけ排出しているかを把握することが大前提となる。これなくして排出量を取引きすることはできないからである。そういう意味でも排出量の報告制度をいま作っておく必要がある。
当然のことながら先に述べたように報告が正しいかどうかの検証システムも確立すべきである。また虚偽報告への罰則も必要だろう。

◆確実な第一歩を
産業界の人はよく二酸化炭素の排出量は増えていないと胸を張る。「産業部門の排出量は増えていない。むしろ増えているのは民生・運輸部門だ。だからそちらにメスを入れるべきだ」という声はしばしば聞かれる。これはある意味で正しい。しかしそれでも日本の二酸化炭素の総排出量のうち40%が産業部門なのもまた事実である。 民生部門が25%、運輸部門が21%なのに比べてもやはり大きい。これだけ膨大な排出源を手付かずのままにしておくわけにはいかない。まして増えていないというならば個々の企業も排出量を堂々と公表すればよいのである。

もちろん地球温暖化対策はこれだけではない。産業界に対しては義務だけではなく削減のためのインセンティブも必要だろう。さらには民生・運輸部門からの排出の抑制も喫緊の課題である。そのためには環境税・炭素税の導入も必要だろう。こうした諸々のことを議論していかなければならない。私がここで主張してきたことはむしろ第一歩にすぎない。 だがその第一歩を確実に踏み出すことが明日の人類のために必要なのではないだろうか。

最後にこのアンケートにご協力いただいた多くの方々に心から感謝を申し上げたい。

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