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けんいちブログ

宇宙開発について

2002.10.15

「宇宙開発について」

日本版NASAの誕生。その意義と役割とは。
NASAという名前を聞いたことのない人はいないだろう。アメリカ航空宇宙局のことである。アポロ計画やスペースシャトルはあまりにも有名である。NASAはアメリカの非軍事部門の宇宙開発を一手に引き受けている。これに対し日本では宇宙開発を推進する機関が二本建てになっていた。宇宙開発事業団(NASDA)と宇宙科学研究所(ISAS)の二つである。H‐ⅡやH‐ⅡAなど大型のロケットを開発してきたのは宇宙開発事業団であり、1970年に日本初の人工衛星の打ち上げに成功したのは宇宙科学研究所だった。役割分担としては宇宙開発事業団が実用衛星の打ち上げを推進したのに対し、宇宙科学研究所は学術・研究に力点を置いてきた。ロケットの種類でいえば前者の主力が液体燃料ロケットであり、後者は固体燃料ロケットである。

所管官庁は前者が旧科学技術庁ならば,後者は旧文部省だった。 この両機関が今度統合される運びになった。より正しく言えばこれまで航空部門を中心に研究をしてきた航空宇宙技術研究所(NAL)も含めて三機関が統合され、新法人が設立される。行政改革の流れの中、関連する機関は統合し効率的な研究や開発を進めることになったからである。今後の日本の宇宙開発は新設される法人が一元的に管轄することになる。いわば日本版NASAの誕生ともいえる。新機関は宇宙航空研究開発機構(仮称)と呼ばれ、来年10月に正式に発足する予定である。 まもなく開会する臨時国会でその設置のための法案が可決される見込みである。これをきっかけとして日本の宇宙開発がますます進んでいくことを期待したい。

ところで宇宙開発というのは莫大な費用がかかる。それに見合うだけの意味があるのかという批判は常にある。端的にいえば「月に行ったからといってそれが何の役に立つのだ」という批判である。月着陸のアポロ計画もそうした批判を受け、縮小を余儀なくされた。当初の計画では10回の月面着陸を予定していたが、実際に月着陸船が打ち上げられたのは7回に終わった(うち一回は事故のため月面着陸しなかったので月に降りたのは6回)。そしてその後30年間、人類は月に行っていない。

もちろん宇宙開発に実用性がないわけではない。気象衛星・資源探査衛星・通信衛星などはすでに生活に役立っている。来年春には日本初の情報収集衛星の打ち上げも予定されているが、これは日本の安全保障や災害対策などに役立つはずである。さらにスペースシャトルなどで宇宙空間に出ることで無重力状態を利用して地球上でできないようなさまざまな実験を行うことも可能になる。また宇宙ロケットという最先端技術に投資することは関連産業の育成にもつながる。

それでも予算がかかりすぎるという批判がつきまとうのも事実である。費用対効果で見れば、宇宙よりももっと他の分野に投資した方が有効だという意見にも一理はある。そうした声を受け、宇宙開発事業団の予算額は3年連続減少し1476億円にとどまっている。だが宇宙開発とは単に目先の利益だけを追い求めて行なうべきものではない。真理の探求であり、人類の可能性の挑戦なのである。科学技術が実利だけを追求するので本当によいのだろうか。夢も必要である。古来、宇宙は人々の夢をかきたててきた。それを考えれば宇宙関連予算を削減する最近の風潮はおかしなものである。

まして宇宙開発には他の意味もある。宇宙への進出によって地球というものを見つめ直すことができる。つまり人類の意識革命につながりうる。日本を離れて外国の地に行くことで日本を見つめ直し、日本人であることを意識するということはよくある。それと同じように宇宙に出ることで地球を強く意識し、地球人であることの自覚を持つようになるはずである。今後ますます地球規模の視野で考え、取り組まなければならない問題が増えてくる。

温暖化をはじめとする環境問題に特にそれが顕著である。「かけがえのない地球」「宇宙船地球号」という認識を広めていくためにも宇宙開発は積極的に推進すべきだといえる。

恐るべき隣人・北朝鮮

2002.10.08

「恐るべき隣人・北朝鮮」

ついに拉致の犯行を認めた北朝鮮。この無法国家といかにつきあうべきなのか。

まったく恐ろしい隣人を持ったものである。北朝鮮のことだ。9月17日に小泉首相が訪朝した時、金正日総書記は日本人を拉致したことをついに認めた。しかもそのうち8人はすでに死亡したという。これでこの国の本質が「犯罪国家」「テロ国家」「人さらい国家」であることが白日の下にさらされることになった。

実のところ北朝鮮が異常な国だということは以前から周知の事実だった。鉄のカーテンに覆われた謎多い国とはいえ、亡命者の証言やこれまでの国際社会での振る舞いからして、どういう国かということはだいたい分かってはいた。拉致被害にあったのも日本人だけでなく韓国人やレバノン人にまで広がっていることも判明していた。 それでも実際に北朝鮮が犯行を認めたことの衝撃は計り知れないほど大きい。今までの日朝交渉で日本側が拉致問題に触れるだけで席を蹴って退出していたのは一体何だったのか。実際に拉致していたにもかかわらず、よくそういう態度をとってこれたものだと思う。 まったく日本を愚弄した姿勢だと言わざるをえない。まして死亡者の多さやその年齢の若さは北朝鮮という国への疑念を強く抱かせる。ガス中毒死、交通事故死、溺死、自殺、心臓病死、あげくの果ては墓地は洪水で流出などという北朝鮮側の説明に納得しろという方が無理である。

広く世界に目を向ければ国家機関による拉致が他にまったくないわけではない。日本が舞台になったものとしては韓国中央情報部による1973年の金大中事件が有名である。イスラエルはナチスによるユダヤ人虐殺の責任者アイヒマンを亡命先のアルゼンチンから拉致した。19世紀末には清朝がロンドンで反政府活動を行なっていた孫文を拉致しようとして未遂に終わったこともある。こうした事件を正当化することはできない。だが北朝鮮による今回の犯行はこれらの前例とも違う異常な事件である。 従来の拉致というのは反政府活動家や当該政府にとって好ましからざる人物を誘拐したというものである。事の是非は別としてまだ理解可能な犯罪といえる。それに対し北朝鮮による拉致の被害者たちは反北朝鮮の活動をしていたわけでも何でもない。たまたま海岸にいた普通の人たちを海の向こうに連れ去ったのである。そんな国が現在のこの地球上に存在してよいのだろうか。

だが現実にそういう国が存在するのである。しかも日本と海一つ隔てて向かい合っている。だからといって引っ越すというわけにもいかない。我々としてはこの無法国家とどうやって付き合っていくかを否応なく考えざるをえない。北朝鮮との関係の基本は「対話」と「抑止」を二本柱とすべきである。あたりまえのようだがこれが重要である。俗な言葉でいえばアメとムチを両方用意するということである。あえて対話を拒むことはない。対話によって北朝鮮を国際社会の一員に迎え入れられるのであればそれが最善だからである。しかし「話せば分かる」というような生やさしい相手でもない。日米韓の連携を密にして毅然とした態度を示すことも必要である。

ここで難しいのが「対話」と「抑止」のバランスである。その点、これまでの対北政策は対話に軸足を置きすぎていたのではないか。つまりアメを与えることに傾斜していた感がある。日朝の国交正常化交渉は1991年に始まった。この交渉が中断するたびにコメ支援などを実施して、対話再開の機運を醸成してきた。結局6回のコメ支援が行なわれている。しかしこうした支援は北の姿勢を軟化させることにつながらなかった。 それどころか待っていたのはテポドンの発射であり、拉致問題での梨のつぶての回答だった。いわば北朝鮮は日本から支援を食い逃げしたのである。

北への宥和的な姿勢が変化したのは小泉内閣が誕生してからである。小泉首相は一貫して「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」と言い続けた。安易な妥協はしないという姿勢を鮮明にしたわけである。今回まがりなりにも北朝鮮が従来の姿勢を転換しつつあるとすれば、こうした毅然とした外交姿勢があってのことだといえる。

ここでもう一度、従来の外交姿勢を反省してみる必要がある。もちろんこれは外務省の姿勢を問い直さなければならないということである。だが問題を外務省の責任だけに矮小化してはいけない。政治家やマスコミも含んだ国全体の問題と考える必要があるだろう。むしろ対北朝鮮外交を歪めてきたのは政党であり政治家だったといえる。北に擦り寄るような姿勢をとり続けたのは政治家の訪朝団だったのである。その最たるものが1990年の金丸信・元副総理率いるところの自民党・社会党の訪朝団だった。当時、北朝鮮は日本人船員2名を7年間にわたって不当に抑留していた。金丸氏らの訪問を機に2名は解放されることになるが、その時に小沢一郎・自民党幹事長、土井たか子・社会党委員長は「深い感謝の意」を表わす礼状を北朝鮮側に手渡している。不当な抑留に感謝するというのはどういうことだろうか。

ましてこの時は、戦後45年間についても日本が謝罪し償うことを約束をしている。戦前ならばいざ知らず戦後、日本が北朝鮮に被害を与えたということはない。むしろ被害者は日本側である。賠償するとすれば北朝鮮のはずである。こうしたおかしな交渉を議員外交の名のもとに政治家が行なってきたことは大きな失態といえる。

いま求められているのは抑止にしっかりと足場を持った交渉である。今から北朝鮮に言わなければならないことは山ほどある。拉致被害者の安否についてのさらなる情報提供、他に拉致されたと見られる人たちの安否、核開発の中止、ミサイル配備の撤去、通常兵力の削減、工作船の目的などどれをとっても重要なことである。それだけにこれらのことを主張する場が必要となってくる。話し合うのはよい。

だが言うべきことを言うという大原則を忘れてはならない。日本側の主張が通らないうちにあわてて国交正常化を進める理由はない。
実はこれは多くの国民の声でもある。小泉訪朝直後に朝日新聞が行なった世論調査では「北朝鮮と国交を結ぶ方がよい」とする人が59%、「そうは思わない」が29%となっている。だが選択肢に「(国交を)正常化すべきだが急ぐ必要はない」が加えられた読売新聞の調査では次のような結果になっている。

・できるだけ早く国交を正常化すべきだ 20.5%
・正常化すべきだが急ぐ必要はない 68.4%
・正常化する必要はない  5.5%
・答えない 5.7%

交渉して日本の主張をしっかりとすべきだが、安易な妥協はしてほしくないというのが世論の大勢だといえる。

北朝鮮という国との交渉では甘い幻想は禁物である。2年前に初の南北首脳会談が行なわれた時、これで朝鮮半島は敵対から和解への新時代に入ったという分析があった。だが実際はそこでの約束のほとんどは守られていない。北朝鮮が変化したという確証はまだない。ソ連が脅威でなくなったのは共産党一党独裁という体制そのものが変化したからである。 これに対し北朝鮮の独裁体制に変化は見られない。相も変わらず金正日の独裁体制が続いている。

もちろんペレストロイカもグラスノスチ(情報公開)も無縁なのである。国民は自国が犯罪国家であることなど知らされていない。それどころか北朝鮮は内外使い分けた勝手な宣伝を今なお続けている。こういう国との交渉は最大限慎重でなければならない。対話は行なうべきである。だが対話を請い願うことがあってはならない。まして支援などが先走ってはならないのである。

『一つの中国』は正しいか

2002.09.16

『一つの中国』は正しいか

一つの中国はフィクションである!日中関係の本質を衝く話題作。毎日新聞に掲載。

目下最大の外交上の話題といえば小泉首相の北朝鮮訪問だろう。電撃的な発表は大きな驚きをもって迎えられた。日本政府はこの北朝鮮と1991年以来国交正常化交渉を続けている。 北朝鮮はしばしば日本が国交を持たないほとんど唯一の国という呼び方をされる。しかし同じ東アジアにもう一つ日本が国交を持たない「国」が存在している。しかもこの「国」とは正常化交渉さえ行なわれることがない。それが台湾である。 台湾の人口は北朝鮮とほぼ同じ、経済力はタイやインドネシアをしのいでいる。これほど大きな存在であるにもかかわらず日本政府は国とは認めていない。政治的には存在しないかのように扱っているのだ。

私は今年の1月から外務大臣政務官をつとめていたが、この現状はあまりにも不自然だと考えた。そこで今夏政府の一員としての台湾訪問を希望した。残念ながらこれは外務省内で認められなかった。外交の根幹にかかわる方針で意見が違うにもかかわらず、ただ職に恋々とするわけにもいかない。結局先月末に政務官の職を辞することとした。

なぜ日本政府は台湾を認めないのか。なぜ私の訪台は認められなかったのだろうか。理由は実に簡単である。中国が怒るというだけのことである。中国は自国と国交を結ぶ国に対し、台湾を認めないように要求している。台湾はあくまでも自国の領土の一部だという建て前を堅持しているからである。いわゆる「一つの中国」という主張である。日本政府も1972年の日中共同声明でそうした中国の立場を「十分理解し、尊重」することを約束している。

だがそれから30年経ったいま、この見直しも必要ではないだろうか。なにしろ中国が一つだというのは現時点ではまったくのフィクションなのである。現にこの50年以上、中国と台湾は別々の道を歩んでいる。このフィクションに中国が固執している点にこそ東アジアの不安定要因がある。もちろん中国が将来の目標として統一を掲げるのは自由である。しかし日本など他国に対してまで「一つの中国を認めろ」と強要してくるとなると話は別になってくる。そして現実の中国は他国に「一つの中国」論を押しつけている。日本の選択肢として中国・台湾の双方と友好親善を深めるという道があって然るべきである。これを認めないと中国が言うのは行き過ぎといわざるをえない。

さらに中国は台湾への武力行使を時折ほのめかす。「一つの中国」という虚構を軍事力で維持しようとしているようにみえる。まず日本政府としては中国に対し「一つの中国」の押しつけをやめるように働きかけるべきである。武力行使の放棄を強く迫るのも当然である。日中関係は大切である。 だがすべて中国の顔色をうかがい遠慮をする必要もない。多額のODAを供与している以上、主張すべきことを主張するのは当然である。

外務省は対中外交のあり方について先例にとらわれず、幅広い議論をすべき時にきている。これは担当部局内だけでの狭い討議に終わらせてはならない。開かれた議論を行なうことこそ本当の外務省改革のはずである。鈴木宗男事件で反省すべきは北方領土のような重大事の意思決定が一部の人間の間でいつのまにか行なわれていたということである。外務省改革とは単に機構いじりをすることではない。外務省の体質そのものを変えていくことなのだから。

『台湾訪問を希望』との報道について

2002.08.12

『台湾訪問を希望』との報道について

このままでいいのか日本外交。抗議のため外務大臣政務官を辞任する直前に書いた憂国の論文。
私が台湾訪問を希望したということが報道されております。この件について多くの問い合わせをいただいていますので自分自身の考えを述べておきたいと思います。

私が外務大臣政務官として今夏に台湾を訪問することを企図し、それが外務省内で却下されたというのは事実です。まず訪台の狙いについて記したいと思います。台湾は日本にとって地理的にも近接した極めて重要な隣人です。経済関係の深さはいうまでもありません。さらに90年代に入り台湾の民主化は大いに進展し、自由や民主主義を奉じるという点でも我が国と共通の価値観をもっています。こうした台湾との関係を深めるというのはごく自然なことといえます。 時あたかも今年は日中国交正常化30周年にあたります。これは裏を返せば日本と台湾が断交してから30年ということに他なりません。正規の外交関係がないとはいえ、重要なパートナーとして歩んでいくという日本の意思を示すためにも外務省の一員として訪問するのは時宜を得たことだと考えたのです。

外務省には現在、大臣の下に副大臣二名、大臣政務官が三名おり、いずれも国会議員が勤めています。三名の政務官はそれぞれ担当地域を受け持つ形を取っています。具体的にいえば今村雅弘政務官が南北アメリカとアフリカ・南西アジア、松浪健四郎政務官が中東・中央アジア・ヨーロッパ、そして私が東アジア・ロシア・オセアニアとなっております。つまり中国・台湾は私の担当ということになります。それだけに自分が行くことがまさに政務官在任中の使命であると思ったわけです。

台湾を訪問すると中国が反発するのではないかと懸念する人がいます。日中関係が大切だということは言うまでもありません。しかしそれが台湾の切り捨ての上に立脚するものであってはならないのです。 台湾は人口2000万を超え、経済力もフィリピンやマレーシアを大きく上回る規模を誇っています。台湾という実態が現実に存在するにもかかわらず、あたかも存在しないかのように扱うことが正しい日本外交のあり方とは思えません。中国との関係は大切にしつつ、同時に台湾とも親善を進めるというのがあるべき姿です。 かつてドイツは東西に分裂していました。日本は西ドイツとは同じ自由主義陣営の国として友好関係にありました。しかし同時に東ドイツともきちんと外交関係を樹立していました。 日本政府の人間が東ドイツを訪問するからといって西ドイツが抗議するなどということはなかったのです。中国にもそうした寛容の姿勢を求めたいものです。

朝鮮半島も分断状況にあります。日本と韓国は1965年以来、外交関係を発展させています。その一方、日本政府は北朝鮮とも国交正常化交渉を続けています。しかもその北朝鮮は日本人を拉致し、ミサイルを発射し、核開発の疑惑まであるような国です。そういう国とでさえ外交的な接触をしているのです。これに対し台湾は拉致事件を起こしているわけでもなければ、ミサイルを撃ってきたわけでもありません。どうしてその台湾と政府レベルの接触をしてはならないのでしょうか。

もし中国が反発するというのであれば、そういう中国に対してこそ毅然として日本の言い分を主張すべきなのです。東西両ドイツと仲良くしていたように、台湾海峡の両岸とも友好関係を構築することが大切なのです。少なくとも台湾と友誼を結ぶことを中国側にとやかく言われる筋合いのものではありません。

政務官が台湾を訪問するとなればこれまでの日中・日台関係の転機となりうべき事態です。 それだけに台湾訪問に対し反対する意見があるのは当然でしょう。賛否両論があるのは世の常だからです。しかしそれならば訪台の可否についてしっかりと議論を行なうべきなのです。外務省では省議と呼ばれる幹部会があります。私は省議を招集し訪台問題をそこでの議題にすることを川口順子外相に求めました。残念ながら省議の開催は見送られそうな雰囲気です。省議による議論のないままに訪台拒否という結論だけが出されているのが実情です。本来、重要な問題であればあるほど徹底した議論を尽くすべきではないでしょうか。一片の決裁書によってこうした重大事が否決されるというのは得心がいきません。 私としてはあくまでも省議という公式の場で十分な議論を行なうことを求めているところです。

実を言えば過去に政府要人が台湾を訪問した例は皆無ではありません。近い例を取れば、昨年8月には厚生労働政務官だった佐藤勉衆議院議員が訪問し、今年1月には古屋圭司経済産業副大臣が葬儀への出席を名目に訪台しています。そうした中で何故外務省の場合は台湾に訪問できないのでしょうか。こうしたことをしっかりと議論するためにも省議が必要になってくると思います。

今、外務省改革ということが盛んに言われています。その目玉として大使への民間人の登用や組織改編など様々なことがあげられています。これらはもちろん大切なことです。しかし外務省改革という時に日本外交のあり方そのものを問い直すことは避けて通れません。本当に大切なのは外交改革なのです。そのためには政策についての徹底した討論が必要です。議論を封殺してしまっては改革の旗印が泣こうというものです。とりわけ中国関係については国民は高い関心を持っています。瀋陽総領事館事件の対応、対中ODAの必要性などは十分に検証しなければなりません。そうした一環として台湾訪問も闊達な議論が求められるところです。

「訪台に政務官としての進退をかけている」との報道もありました。現在政務官という政府の一員である以上、私がまず第一になすべきことは政府の方針に自分の意向を反映させるべく最大限の努力を傾けることだと思っています。そのためにも省議を開催し、訴えていきたいという意向を持っています。しかし努力はしたが、万策尽き果てたということもありえます。現にいまのところ台湾訪問は却下され、省議の開催さえ拒否されています。自説がまったく反映されないということであれば、やはりその政府の職に止まっていることはできないと思っております。自らの信念に反してまで政務官という職に恋々とするつもりはありません。

最後に誤解のないように付け加えておけば、私自身は川口外務大臣に対しては個人的には常に敬意を持ち続けております。僣越ながら強く親近感も抱いています。それは今なおまったく変わりありません。ただ残念ながら今回の一件についての考え方が違うというだけのことです。まずは意見の相違を埋めるべく努力をし、訪台を実現させたいと考えております。

今はまだ日台間に政府関係者の自由な往来がありません。しかし制約なく往来できる日がそう遠くない将来にくると信じています。またそうなるべきなのです。今回の行動がそのための第一歩になればと考えています。多くの方々に心情をご理解いただければ幸いに存じます。

あくまでも中国には陳謝を要求すべし (続・瀋陽総領事館事件)

2002.05.24

あくまでも中国には陳謝を要求すべし (続・瀋陽総領事館事件)

内外の注目を集めていた瀋陽総領事館事件に大きな転機が訪れた。中国武装警察によって連行された5名の北朝鮮人は中国から出国し、マニラ経由でソウルに到着した。亡命を求めていた彼らの希望が満たされたことをまずは歓迎したい。今回考えられる最悪の事態は5人が北朝鮮に送還されることだった。また中国官憲によって長期間拘留されることも望ましくない。結果として一家全員が自由世界に脱出できたことは良かったと思う。特に日本総領事館は庇護を求めてきた人を助けることができなかった。このまま彼らが非人道的な取り扱いを受ければ悔いを千載に残すところだった。その点でも出国できたことは喜ばしい。

だがこの問題はこれで終わりではない。一件落着という気運があるとすればそれは大きな誤りである。中国による国際法違反という重大問題が解決していないからである。この事件の本質は中国武装警察が無断で日本総領事館に侵入したことなのである。これは領事館の不可侵を定めたウィーン条約第31条に明らかに違反している。ところが中国側はいまだに謝罪もなければ責任さえ認めていない。この点を曖昧にしたままの幕引きは許されない。日本政府としてあくまでも中国に謝罪を要求し続ける必要がある。

ちなみに中国側は日本が警官の立ち入りに同意したと言い張っている。同意があったのだから違法性はなかったという理屈である。もちろん日本側が同意を与えた事実はない。だが百歩、いや千歩譲って中国の主張に一分の理があるとしよう。それでも中国が国際法違反を犯したという罪は免れないのである。仮に中国側の主張通り日本の副領事が同意を与えていたとしても、総領事館への立ち入りは認められることではない。ウィーン条約は「領事機関の長」の同意が必要だとしている。ちなみに瀋陽総領事館の場合は、総領事が長であり、その下に4人の領事、4人の副領事がいた。下位者である副領事が「入っていい」と言おうが言うまいが、総領事が同意していない以上、不法侵入であることに変わりはない。現場の邦人職員に恥ずべき行ないが多かったのは事実である。彼らの愚行は正当化しえない。しかしだからといって中国側の行為が正しいということにはならないのである。

中国の国際法違反は疑問の余地がない。ところが中国は謝るどころかかえって日本に対する批判を強めている。「中国の国際的イメージを悪化させた」と言い出してきた。まったく筋違いの批判である。イメージを悪化させるようなことをしているのは中国自身である。庇護を求める婦女子を力まかせに領事館から引きずりだしたのは中国の官憲である。他国の領事館に無許可で乱入したのも同国である。自らが国際的信用を失墜させることをしておきながら他者に責任をなすりつけることは許されない。

こうした問題では理非曲直を明らかにする必要がある。だからこそ日本政府は事件発生後まもなく5人の身柄引き渡しや中国の陳謝などを中国側に強く申し入れた。だがその後の政府の発言を注視すると微妙な変化が見られる。これらの要求を正面きって主張することを徐々に避けるようになってきたのである。まず身柄引き渡しの請求を事実上取り下げた。これはまあいい。国際法上は5人とも日本側に引き渡されるのが一番筋が通っている。だがあまりこの部分に固執すると拘束がいつまでも続くことになりかねなかった。庇護を求めてきた人を救うという人道的な観点からやむをえなかったと思う。

問題なのはいつの間にか陳謝のことまで触れなくなってきていることである。陳謝というのは当然すぎるほど当然の要求である。実は私個人は陳謝だけでは不十分だと考えている。国際法を犯した武装警官の処罰も中国に求めるべきだと訴えてきた。だが現時点の政府首脳の発言は武装警官の処罰どころか陳謝までも直接求めてはいない。実はこうした姿勢は理解できなくもない。5人が中国当局に拘禁され、事実上「人質」になっていたからである。「5人の安全確保のためには中国を刺激することは得策ではない」という意見も一定の説得力を持っていた。 だがついに5人は出国した。これで何のためらいもなく、主張すべきことを堂々と主張できるはずである。いまこそ再び陳謝要求を前面に打ち出すべき時である。

問題解決のために大局的見地から冷静に対処すべきだというという声もある。それはまったくもってその通りである。だがもしそれが“日中友好のためには些事に構うな。瀋陽事件はもう棚上げにしろ”という意味だとすれば賛成しかねる。私はむしろ大局的な見地から今回はあくまでも陳謝要求をすべきだと考えている。これまでの日中関係はとかく言うべきことを言わなかった。ここでそれを軟弱外交・弱腰外交と呼ぶことはしない。情緒的なレッテル貼りは健全な論議を損なうことが多いと思うからである。だがやはり日本の対中国外交に反省すべき点が多かったことは事実である。過ちは改めなければならない。

中国はいまや軍事大国である。東アジアの大きな不安定要因でもある。とりわけこの国が台湾への武力行使をほのめかすことは地域の安全保障上看過しえない。こうした中、中国に対し甘いことを言っていれば良いという時代は過ぎ去った。必要ならば苦言も呈していかなければならない。対中外交そのものを見直す必要がある。今回の事件はそのよい機会である。そのためにもあくまでも陳謝を求め続ける意味があるのである。

日本総領事館への中国武装警察の乱入 について

2002.05.13

日本総領事館への中国武装警察の乱入 について

瀋陽の日本総領事館に中国の武装警察が乱入した事件が大きな波紋を呼んでいる。庇護を求めて総領事館に駆け込んだ5人の北朝鮮人を取り押さえるため敷地内に踏み込み、5人全員を強制連行したのである。とりわけ映像の衝撃は大きかった。駆け込む女性を中国公安当局が力ずくで引きずり出す場面は何度見ても胸が締めつけられる。日本国内及び世界各地で憤激を巻き起こしているのも当然である。
まず指摘しなければならないのは、今回の中国の行為は重大な国際法違反だということである。領事館の不可侵権というのは古くから国際慣習法としてあった。1967年に発効したウィーン条約で明文化もされている。武装警官が勝手に立ち入ったということは許されることではない。加えて重大な人道上の問題でもある。5人の人々は北朝鮮の圧政を逃れ、自由に憧れて庇護を求めてきたはずである。まして北朝鮮に送還されれば悲劇が待ち構えていることは想像に難くない。 多くの人があの映像を見て怒りと同情を禁じえなかったのはこれが人道上の問題だということを直感したからに他ならない。

日本の総領事館の対応にも批判が集中している。駆け込む人々を保護するどころか逆に中国警察のために帽子を拾ってやっているのは何事かというわけである。私自身もそう思う。危機認識の欠如、人道意識の希薄さの表われと言わざるをえない。かつて日本の外務省には杉原千畝という偉大な先人がいた。杉原はナチスドイツがユダヤ人を迫害した時に、一身の危険を顧みずビザを発給し続けた。それによって多くのユダヤ人の生命が救われたという事実は日本外交史に燦然と輝いている。こうした先人の精神は今いずこにありやと嘆かざるをえない。外務省として我が身を振り返り、反省する点は反省し、処分すべき者は処分しなければならない。幸いにして川口外相は改革への強い意志を持ち、現在望みうる最高の外相である。その下で必ずや十分な措置が講じられるはずである。

だが、やはり最大の問題は中国にどのような姿勢で臨むかということである。「毅然たる態度で臨む」という表現がよく使われる。それはそれで結構なのだが、肝心なのは具体的にどのように毅然と臨むかなのである。現在、日本政府としては中国側に陳謝と連行された5人の身柄の引き渡し、さらに再発防止を要求している。これらは当然である。言わずもがなのことである。私はさらにそれに加えて領事館に侵入した複数の武装警官の処分も中国側に強く要求すべきだと考えている。彼らの行為は明らかな国際法違反である。何人も領事館の不可侵権を犯してはならないというのは外交の基本である。もちろん一般人もこれを犯してはならない。受け入れ国が警備をするのはその保障のためである。それが今回は警備に当たっている官憲自らが足を踏み入れてきたのである。論外と言わざるをえない。

自国の武装警官がそうした不法行為を働いた以上、きちんと処罰するのが中国政府のつとめである。日本としてもそれを求める必要がある。思い返すのは昨年のえひめ丸事件の時のことである。ハワイ沖で米原潜が日本の高校生を乗せた実習船に衝突した事件である。朝野の議論は原潜のワドル艦長の責任を追及しその処罰を求めるものだった。

結局、艦長は懲戒処分になるが、これでは不十分だ という論調が国内では強かった。だが今度は相手国の国家権力によって日本国の出先機関が侵されたという点ではある意味でそれ以上の重大事である。中国政府は責任を持って当事者の処罰をする必要がある。にもかかわらず米国に対しては艦長処罰を強く要求していた新聞ほど今回は処罰問題に触れないというのはどういうことだろうか。いずれにせよ日本政府としては中国に強く申し入れる必要がある。

私はいたずらに強硬論を唱えることばかりが良い外交とは思わない。悲憤慷慨するだけでは外交はできないとも信じる。しかしそれでもなおかつ言うべきことを言わねばならないこともある。今回がまさにそうである。日本の対中国外交は言うべきことも言わないという時代が長く続いてきたのではないだろうか。仮に言ったとしても奥歯に物の挟まったような言い方であった。中国の軍拡、核実験、民主化、チベット問題いずれもそうである。それどころか中国だけを特別扱いすることさえ目立った。円借款が好例である。日本は多くの国にODAを供与しているが、円借款供与の約束は原則単年度ごとである。ところが唯一中国に対してだけは5年分の円借款額を前もって約束することが続いていた。つまり別格に優遇していたわけである。ようやく昨年度からは他国と同様に扱うようになった。だが一事が万事、こうしたことが横行していたわけである。

このあたりで対中国外交全般を見直すべきである。これはなにも中国を敵視しろということではない。日中関係の重要性は今後も変わらない。ただ主張すべきことは当然に主張すべきなのである。その第一歩が武装警官の処分要求ではないだろうか。

経済産業省への挑戦状(下)

2002.04.01

「経済産業省への挑戦状(下)」
~温暖化対策日記(4月1日から議定書批准まで)~党内に渦巻く賛否両論の中、ついに議定書批准へ。温暖化に関心を寄せる人必読の貴重な記録。

◆4月1日
本日の朝日新聞に温暖化に対する世論調査の結果が出ている。興味深いのは産業界の主張に対する国民の厳しい視線である。例えば「経済界は経済成長にマイナスなどとして、議定書に反対しています。あなたは経済界の姿勢に納得できますか」という設問には、“納得できる”が20%、“納得できない”が62%である。「これ以上の省エネは無理」という産業界の主張に対してもやはり62%の人が“納得できない”としている。さらに産業界が主張する自主的取り組みでの温暖化対策で十分という人は12%にすぎない。国民の健全な感覚こそ大切にすべきである。

◆4月2日
朝9時40分から国会の院内第15控室で自民党国会対策委員会が開かれる。この会には党の国会対策委員長・副委員長らと衆議院当選一期の議員が出席する。一期生は全員が国会対策委員という肩書きをもらっている。ここでは国会の審議日程や新たに提出された法案の簡単な説明が行われる。法案の説明は所管官庁の大臣政務官が出席し行なう。新人議員にとっては国会の現況の勉強の場になっているともいえる。本日はここで京都議定書の説明が行われる。説明役は私である。今国会にこれまで提出された外務省関係の法案・条約は今村雅弘政務官が説明してきたが、京都議定書に関しては行き掛かり上、私の役回りになった。本日は京都議定書の他に環境省所管の地球温暖化対策推進法の説明も行われる。こちらの方は奥谷通環境大臣政務官が担当となる。ちなみに外務省は私を含め三人の政務官がおり、環境省は奥谷氏のみである。いずれも衆議院当選二回組である。国会対策委員会は部会のように議論や意見交換をすることを目的とした場ではないが、質問が出ることもないではない。本日は京都議定書にも温暖化対策推進法にも特段の意見は出されなかった。

次の問題は実際の審議にいつ入れるかである。法案・条約は関連する委員会に付託されて審議されるが、重要な案件の場合はそれに先立って本会議で趣旨説明が行なわれる。本会議趣旨説明を行なうか行なわないかは議院運営委員会が決める。だが京都議定書も温暖化対策推進法も重要法案なので衆議院本会議にかけられることはまず間違いない。そのあと普通にいけば京都議定書の場合は条約なので外務委員会、温暖化対策推進法は環境委員会で審議されるはずである。「普通にいけば」と断ったのは両法案は密接に関係するので外務・環境の両委員会の連合審査になる可能性も残されているからである。 いずれにせよ衆議院本会議での趣旨説明が最初に行なわれる。今日の時点では両法案とも12日の本会議で趣旨説明という話も流れている。だが国会日程ほど当てにならないものはない。我々としても審議促進に努力する必要がある。

本日午後1時から40分行なわれた本会議の終了後、古屋圭司・経済産業副大臣から「そろそろ情報開示について答えを出すから」という話を聞いた。情報公開請求の行方について新たな話を聞くのは久し振りである。

京都議定書を国会に提出するまでの間、自民党内にはかなり強い外務省批判があった。その背景には「条約を勝手に結んできても苦労するのは我々だ。外務省はその苦労が分かっていない」という不満があったようだ。だが本日、テーマが変われば立場が変わると思うことがあった。放射性物質の海上輸送についてである。午後、外務省内で科学原子力課からこの問題についてブリーフを受けた。原子力発電所からは使用済み燃料が出る。この使用済み燃料にはプルトニウムが含まれており、これを取り出せば再び燃料として使うことができる。使用済み燃料から有用部分を取り出す作業を再処理というが、日本は使用済み燃料はすべて再処理することを国策としている。ところが日本国内には再処理のための施設がまだない。そこで使用済み燃料はイギリスかフランスに送り、ここで再処理してもらっている。ここで有用部分と不要部分に分別して、これらを日本に返還してもらっているのである。不要部分というのは「核のゴミ」と呼ばれる高レベル放射性廃棄物なので、日本に持ち帰ってきても危険なだけで使い道はない。だがゴミだけ他国に置いていくわけにもいかないので、こちらも日本に持ち帰って国内で処分することになっている。こうした輸送は往復ともに海上ルートを使っている。より正確にいうと現在では日本から欧州に運ぶことはすでにやめているが、欧州から日本に帰ってくる船便はまだ残っている。

海上輸送ルートは大きく分けて3つある。パナマ運河ルート、喜望峰・南西太平洋ルート、ホーン岬ルートである。いずれにしても積み荷は放射性物質なのだからもちろん沿岸国は喜ばない。例えばパナマ運河を通れば周辺のカリブ諸国は懸念を抱く。輸送そのものに国際法上の問題はないが、やはり沿岸国の理解を得ないといけない。つまり外務省としてはそれだけ努力をしなければならない。経済産業省や電力会社が核燃料サイクル・全量再処理という方針を続けば続けるほど外交的なコストがかかるとも言える。どうやらテーマによっては外務省側が「我々の苦労を分かっていない」と言いたくなる時もあるようである。

ちなみに私は原発そのものには反対しないが、再処理するという方針には疑問を持っている。最初から再処理という選択肢を採らなければ海上輸送の問題も起きなかった。しかしひとたび海上輸送をする以上は安全に運ぶ必要がある。政府として安全輸送と沿岸国の理解を得るための努力を惜しんではならないと思う。 ただ現行の原子力政策のもとでそういう外交上の負担があるということを電力会社や経済産業省側にも理解はしてもらいたい。

◆4月4日
本会議終了後、自民党の大臣政務官が院内第15控室に招集される。国会対策委員長・副委員長から法案成立のために政務官は努力しろという指示を受ける。法案の円滑な審議のためには野党の協力も必要となる。平たくいえば政務官はそのために汗をかけということである。この話になると外務省の政務官としては肩身の狭い思いがする。他省庁の法案に比べても外務省関係の条約の審議が遅れているのは事実だからである。 外務省は今国会に2本の法案と18本の条約を出している(条約のうち3本は未提出なのでこの時点では15本)。

法案2本はすでに成立しているが、条約の審議は遅々として進んでいない。成立したものはもちろんなければ、審議に入ったものでさえわずか3本である。今国会中も外務省はNGO排除問題、田中外相更迭、ムネオハウス等々、話題に事欠かなかった。 その分、本来審議すべき条約が委員会でもなおざりになっている。京都議定書もまだ審議入りの目途が立っていない。政務官としてはなんとかしなければならないと自戒する。

資源エネルギー庁の川上敏寛・省エネルギー対策課課長補佐が議員会館に来る。私が2月1日に行なった情報公開請求への対応について説明を受ける。開示できるものは開示するという発表がそろそろ出されるのは間違いないようである。公開請求をした企業のうちだいたい半分くらいは全部開示しても構わないと言っているようだが、中には開示されては困るという企業もあるという。そういう会社にはなぜ困るのかということを各経済産業局で照会しているらしい。開示決定の遅れはそのあたりに時間を取られているためだという。

◆4月5日
午後7時15分から2時間半にわたり環境省内で気候変動に関する日米ハイレベル協議が開かれる。これは日米の閣僚級の協議で昨年7月に第1回目が開かれており、今回が第2回目になる。出席者は日本側が環境省の大木浩大臣、外務省から朝海和夫・地球環境担当大使、その他経済産業省、農水省、国土交通省の事務方などである。アメリカ側がドブリアンスキー国務次官、コノートン環境評議会議長、他に環境保護庁からの出席もある。私は参加していないが、週明けの8日に岡庭健・外務省気候変動枠組み条約室長から報告を受ける。また会議についての記録も読む。

詳細を明らかにすることはできないが、大木大臣は米国の京都議定書への参加問題について踏み込んで発言している。少なくとも2月18日の日米首脳会談で小泉首相が表明した「米国の建設的な提案を評価する」という姿勢にとどまっているわけではない。もう少し主張すべきことをきちんと主張している。だが米国側の態度は硬そうだ。気候変動枠組み条約の締約国として交渉には参加するが議定書には参加しないという構えである。「議定書に入れ」「入らない」と押し問答をしているだけでは埒があかないのでその他の実務的な話にもなる。ここでも産業界に排出削減を強制することに反対する経済産業省の姿勢が目についた。強制に反対するだけならともかく強制を想起させるあらゆることに反対するのだからたまらない。

◆4月8日
本日11時に外務省内で第1回省内国会対策会議を開催する予定になっていた。これは条約審議のための大臣政務官と官房長、総括審議官らの作戦会議のようなものである。ある事情でこの会議は延期されたが、私は省内の国会担当者と審議状況を分析する。京都議定書については与党側は温暖化対策推進法と共に12日の本会議での趣旨説明を求めているが、野党側が難色を示している。重要法案を一緒に趣旨説明するのは無理があるから別々にやれということらしい。 そのため温暖化対策推進法の趣旨説明が先に行なわれ、京都議定書が後日になりそうな雰囲気になってきている。もっとも複数の重要法案の趣旨説明を同日に行なった例は過去にもある。地球温暖化対策推進法と京都議定書は極めて密接な関係にある。そもそも京都議定書の内容を国内的に担保するのが温暖化対策推進法という位置づけなのである。一緒に審議する方がよっぽど合理的と思うのだが、国会日程はそんなに理屈通りには進まない。

野党側は政府・与党に対し様々な要求を突き付けている。外務省関係でいえば鈴木宗男疑惑に関する資料請求や東郷和彦オランダ大使の参考人招致などである。あまりにも国会審議がすんなりと進むと交渉の駆け引きの道具がなくなってしまうと思っているのだろう。我々としても道理の通る要求にはできる限り誠実に対応したい。それを理解してもらって京都議定書の早期審議入りに協力してもらいたい。
本日、各経済産業局から「行政文書開示決定通知書」が郵送されてきた。私が請求した文書のうち一部について部分開示を決定したことになる。だが資料そのものがまだ出てきたわけではない。通知書の別表に掲げられているのは開示できる文書の一覧である。実際に資料を入手するためにはこの別表に基づいて新たに請求することになる。この時点ではまだどこが不開示になるかもよく分からない。情報公開請求から2か月待って、開示できるメニューリストがやっと出てきたということになる。今からメニューに基づいて注文するというわけだ。なかなか手続きがややこしい。

以下、代表的なものとして関東経済産業局から来た通知書の内容を掲載する。
平成14・03・28公開関東第3号        平成14年4月5日
行政文書開示決定通知書
水野賢一事務所様
関東経済産業局長 名尾良泰

平成14年2月4日付けで、別添(写し)のとおり請求を受け付けました行政文書の開示請求について、下記のとおり、その一部を行政機関の保有する情報の公開に関する法律第9条第1項の規定に基づき開示することとしましたので通知します。
また、残りの文書については、平成14年8月5日までに決定を行い通知します。

なお、開示決定をした行政文書の開示の実施の方法等の申出については、この通知書を受け取った日から30日以内に、同封した「行政文書の開示の実施方法等申出書」によって行ってください。また、「行政文書の開示の実施方法等申出書」は開示を受ける希望日の7日前までには当方に届くようにご提出願います。


1 開示する行政文書の名称
エネルギーの使用の合理化に関する法律第11条に基づく定期報告書(平成12年度実績分で、様式第4及び第5の第2票以下を除く)[開示する定期報告書に係る第一種エネルギー管理指定工場の名称を別表1に示します。]

2 不開示とした部分とその理由
別表2に示します。
※この決定に不服がある場合は、この決定があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第5条の規定に基づき、経済産業大臣に対して審査請求をすることができます。

3 開示の実施の方法等
(1)開示の実施の方法等 ※同封の説明事項も必ずお読みください。
別表3に記載した開示の実施の方法から希望する方法を選択することができます。

【別表3全ての行政文書を開示する場合の基本額合計】
①閲覧 300円
②複写機により複写したものの交付 4380円
(注)上記基本額は、同一開示方法ごとに数量を合計した上で算出していますので個々の行政文書ごとの基本額の合計と必ずしも一致しません。
※開示実施手数料は、基本額(複数の実施方法を選択した場合は、それぞれの合計額)が300円までは無料、300円を超えた場合は、基本額から300円を差し引いた額となります。(上記の場合、①閲覧の場合は無料、②複写機により複写したものの交付の場合は4080円となります。)
以下、細かな手続きなので省略する。
肝心の別表1という開示されるものは、次のようになっている。
・東京電力株式会社 鹿島火力発電所の熱管理に関するもの
・東京電力株式会社 鹿島火力発電所の電気管理に関するもの
・鹿島共同火力株式会社 鹿島共同発電所の熱管理に関するもの
・鹿島共同火力株式会社 鹿島共同発電所の電気管理に関するもの
・株式会社日立製作所 日立事業所 日立勝田発電所の熱管理に関するもの
・株式会社日立製作所 日立事業所 日立勝田発電所の電気管理に関するもの
・東京電力株式会社 玉原発電所の電気管理に関するもの

このような調子で158項目が続く。冒頭に発電所が集中しているだけで、その他、東京ガスもあればNECもあれば森永乳業もカルピスもある。

別表2の「不開示とした部分とその理由」というのが気になるところである。これを引用すると158のすべての文書に関して「①氏名、職名及び印影については、特定の個人を識別することができる情報が記録されており、法第5条第1号に該当するため、これらの情報が記録されている部分を不開示とした。②民間企業の印影については、法人に関する情報であり、法第5条第2号イに該当するため、これらの情報が記録されている部分を不開示とした」とある。

本日、私のところに郵送されてきたのは関東経済産業局の他に、北海道経済産業局、東北経済産業局、中部経済産業局、近畿経済産業局、四国経済産業局、九州経済産業局からの通知である。いずれも内容は大同小異といえる。

◆4月10日
中国経済産業局からも通知が簡易書留で届いたのでこれで8経済産業局からの通知がすべてそろった。今後はこれらをどのように扱うかが問題である。明日から東チモールに出張するので帰ってきたらゆっくり考えよう。

衆議院外務委員会の野党筆頭理事の中川正春議員(民主党)に京都議定書の早期審議入りを要望する。昨日も同様のことをお願いした。中川氏も決して後ろ向きなわけではない。「環境問題はむしろ我々野党の方が熱心だから」と言っていた。本日の外務委員会理事会でも京都議定書の審議入りについて言及してくれている。ただ審議入りするためには自分たちの要求にも外務省がきちんと応えてほしいという意向はあるようだ。私の方からは8~9月の環境開発サミット(WSSD)に間に合わせる必要があるという日程上の問題も説明した。

午後、第1回省内国会対策会議が開かれる。当初は8日の予定だったが本日に延期されていた。衆議院外務委員会の定例日は毎週、水、金の二日だが、外務省側としては二日とも条約審議に充ててもらいたい。ところが野党側は一日が条約審議で、もう一日は一般質疑(外交や国際情勢一般についての質疑)にすべきだと主張している。こうなると審議ペースが遅くなってしまう。このあたりの状況分析をした。

本日の議院運営委員会の様子などを聞くと12日は本会議そのものが開かれなくなりそうだ。つまり同日と思われていた温暖化対策推進法の趣旨説明も延期ということになる(実際、12日には本会議は開催されなかった)。

◆4月11日
本日から15日まで四泊五日で東チモールに公務出張になる。東チモールはインドネシアに支配されていたが5月20日に独立する。21世紀になって初の独立国誕生である。現地に展開しているPKOには自衛隊も参加している。また初代大統領を選ぶ選挙が4月14日に実施される。その選挙監視要員としても日本から8名が参加する。私も現地で彼らと共に投票所を見ることになっている。

朝、成田空港に向かう途中、環境省の奥谷通政務官に電話をする。温暖化対策推進法の本会議趣旨説明は18日になりそうだということを聞く。私の方からは京都議定書・温暖化対策推進法を外務委員会・環境委員会の連合審査にすることは外務省としては望んでいないことを伝えた。これは純粋に国会の審議日程上の都合である。もっとも京都議定書の遅れにより両法案の審議入りの時期にズレが生じたため、わざわざ伝えるまでもなく連合審査にはなりそうにないが…。 それにしても国内担保法である温暖化対策推進法が京都議定書に先立って審議されるのは論理的には首を傾げざるをえない点もある。

◆4月16日
衆議院本会議の定例日は火、木、金である。今日以降連休までに開催される可能性があるのは5日間ということになる。自民党国会対策委員会の話によると今後の審議予定は次のようになりそうである。

18日(木)…温暖化対策推進法の趣旨説明
19日(金)…健康保険法の趣旨説明
23日(火)…園遊会があるので開催しない方向で調整中。仮に開催しても委員会で可決された法案を処理するだけで重要法案の趣旨説明を行なうことはしない。
25日(木)…有事法制の趣旨説明
26日(金)…個人情報保護法案の趣旨説明

cf. 25日と26日の予定は入れ替わることもありえる

この分だと連休前に京都議定書の審議入りは難しいようだ。だが連休後になると有事法制の審議が連日行なわれることになる。これは特別委員会を設置して審議する予定だが、おそらく外務大臣はこちらに出席しなければならなくなる。そうなると外務委員会の審議時間が取りづらくなり、条約審議も進まなくなる恐れがある。このあたりが深刻な問題である。

外務省の省議のあとで植竹繁雄・杉浦正健の両副大臣、今村政務官と私、さらに北島信一官房長、坂場三男官房総括審議官、粗信仁官房参事官で国会対策の打ち合わせ。18本の条約の重要度についても議論する。いずれの条約も重要なのだが、自ずから優先順位というものがある。内々、4段階に分ける。京都議定書はもちろん最優先のうちの一つである。

午前中、ロシアのパノフ大使が外務省にやってきた。私の方からは京都議定書をロシアが早期に批准するように要望した。
夕方、川口順子外相と大臣室で話した時、大臣も京都議定書の審議入りの遅れについて心配されていた。

◆4月18日
ついに本日、衆議院本会議で温暖化対策推進法改正案の趣旨説明と質疑が行なわれる。3月7日の項などで詳しく述べたが、私の立場は「京都議定書の批准は積極的に賛成」「温暖化対策推進法の改正案は不十分だと思いつつも改正されないよりはましなので賛成」というものである。特に温暖化対策推進法改正案に企業に対するCO2排出量公表義務が盛り込まれていない点には大いに不満を持っている。それでもここに至るまでの曲折を思えば「やっとここまできた」という感慨はある。

大木浩環境大臣が趣旨説明をした後、鮫島宗明(民主党)、樋高剛(自由党)、藤木洋子(共産党)の各氏による質疑が続く。 本会議の所要時間は1時間45分だった。鮫島議員の質問はなかなかユーモアがあって他党ながら面白かった。森林吸収枠は詐欺的な計算方法だという部分も説得力があった。私がかねてから主張している各事業所にCO2の排出量を把握・報告の義務を課すべきだということは藤木氏だけが触れた。私は共産党嫌いでは人後に落ちないつもりだが、この点だけは賛成できる。 政府がCO2等の排出抑制実行計画を未だに作成していない点を問題にした人はいなかった。

それにしても本会議の空席が目についた。小泉首相はそもそも本会議に出ていなかった。各党党首級も質疑の後半になるとほとんど姿を消した。民主党・鳩山由紀夫代表はいたが、公明党・神崎武法代表、自由党・小沢一郎党首、社民党・土井たか子党首、保守党・野田毅党首らは軒並み、出席の印として自席の木札だけは立っているが姿は見えなかった。共産党も不破哲三議長、志位和夫委員長ともにいないのだからあまり偉そうなことはいえない。

◆4月23日
連休前の衆議院外務委員会の日程がほぼ確定した。明日24日の委員会で日韓関係の2本の条約(日韓犯罪人引渡し条約と日韓投資協定)の提案理由説明をして、26日(金)に審議・採決という段取りである。結局、連休前の京都議定書審議入りはできなかった。委員会審議の前段階である本会議の趣旨説明にも入れなかった。どういう順番で審議をするかは外務省側が決めるわけではなく、委員会の理事会で決まる。政府はお願いする立場であり、決定権者ではない。 審議入りしていない条約の中では京都議定書が際立って重要度が高い。我々としては連休明けには早速この審議入りをお願いしなければならない。

◆4月25日
連休前の京都議定書審議入りは無理になったが、連休明けまもなく審議されることはほぼ間違いない雰囲気になってきた。
京都議定書については与野党ともに賛成すると思われる。ただここで少し注意を払っておかなければいけないのが附帯決議である。法案や条約を通す場合、委員会の附帯決議を付ける場合がある。附帯決議を要求するのは主に野党である。「法案は容認する。だがこの部分には留意すべきだ」というようなことを決議しろというわけである。京都議定書が審議される外務委員会でも附帯決議が付く可能性がある。そこで本日の衆議院本会議中に外務委員会の野党筆頭理事の中川正春議員の席に行き、附帯決議についての私なりの考え方を伝えておいた。中川氏のもとにも各方面から附帯決議案が寄せられているようだ。

◆4月26日
中川正春議員には本日も京都議定書の早期審議入りを頼んでおいた。そして本日、経済産業省の各経済産業局に対し行政文書の開示の実施を申し出た。2月1日に始まった情報公開の試みも新たな段階に入ってきた。この“温暖化対策日誌”も情報公開の顛末記として書き始めたはずである。それがだんだんと横道にそれて京都議定書の批准問題が中心になってきた。早期審議入りこそ外務大臣政務官としての私の職務なのでどうしてもそのことに力点を置いて書いてきたが、久しぶりに本道の情報公開の話題である。この話も少し間が空いてしまったのでこれまでの経過をもう一度整理してみたい。

・2月1日…全国の各事業所がどれだけの燃料や電気を使用しているかの資料を経済産業省に情報開示請求した。ある工場がどれだけの石炭を燃やし、重油・軽油・ガソリン・LPGなどを使っているかが分かれば、二酸化炭素の排出量が判明する。各企業には省エネ法に基づいて燃料や電気の使用量を経済産業省に報告する義務がある。つまり同省はこうした資料を保有しているわけである。それを自分たちで溜め込むのではなく広く公開しろと要求したわけである。

・3月上旬…経済産業省側から開示するか不開示にするかの決定を延期する旨の通知がある。情報公開を請求された役所は原則として30日以内に開示か不開示かの決定を行なわなければならない。ただ例外も認められている。今回はその例外措置を講じてきたことになる。

・4月上旬…一部の企業については情報開示が可能という通知が経済産業省からくる。例示をすると東京電力姉崎火力発電所、本田技研鈴鹿製作所、富士通長野工場、ヤンマーディーゼル尼崎工場、アサヒビール博多工場、京セラ鹿児島川内工場などについては可能というわけである。残りの企業については態度がまだ未定である。

こういう経緯をへて、開示が可能とされた分について本日開示の実施を申し出た。閲覧という方法もありえるが、そのためには北海道経済産業局や九州経済産業局まで出向かなければならないので、コピーを郵送してもらう方法を選択した。コピー代と郵送代は自己負担となる。8経済産業局合計でコピー代は34020円、郵送代は6020円となる。約1週間以内に、これらの企業の使用燃料・電力のデータが入手できるはずである。だがこれで終わりではない。今回開示可能とされたのはあくまでも一部企業にすぎない。その他の企業の情報が開示されるかどうかは追って連絡があるはずである。

◆5月7日
ゴールデンウィークを利用して小泉首相はオーストラリアとニュージーランドを訪問した。首脳会談では京都議定書の批准についても取り上げられた。オーストラリアのハワード首相は議定書への態度を鮮明にしていないが、米国・途上国の参加がないままの締結には消極的である。一方、ニュージーランドのクラーク首相は8月までに締結したいと明言した。ちなみにニュージーランドの場合、排出する温室効果ガスの4割以上は羊や牛がげっぷなどで出すメタンガスというのだから国それぞれである。

◆5月10日
連休明けの衆議院本会議開会は5月7日に次ぎ2回目である。ついに京都議定書の趣旨説明が行なわれる。趣旨説明を行なうのは川口順子外相だった。ただ冒頭に一昨日の瀋陽総領事館事件について外相から説明があった。この時の議場は怒号に包まれた。こうした騒然たる雰囲気の中で議定書の趣旨説明と質疑が行なわれたのは残念だった。
4月26日に行なった経済産業省への情報開示の実施申し出に対して各経済産業局から資料が届き始めている。かなり膨大な量になるのでこれについては改めて報告したいと思っている。

◆そして京都議定書の批准へ
この「温暖化対策日誌」もいよいよ最終段階に入ってきた。京都議定書の批准も近づいてきた。その国会審議の経過を振り返ってみよう。

国会で京都議定書の審議が始まったのが5月10日である。この日ついに衆議院本会議で趣旨説明・質疑が行なわれた。議定書の国内担保法である地球温暖化対策推進法改正案は4月18日に衆議院本会議で趣旨説明が行なわれ、翌19日から環境委員会で審議入りしているのでこれに遅れること約3週間である。法案にせよ条約にせよ大抵はいきなり委員会で審議され、本会議にかかるのは採決の時だけだが、重要なものに限って本会議でまず趣旨説明・質疑を行ない、それから委員会に付託される。京都議定書も重要な案件なのでそういう扱いになった。

本来ならばこのあと委員会で詳細にわたる審議が行なわれるはずなのだが、実はそうでもなかった。外務委員会での議定書の審議は5月17日の午前中の3時間だけだった。これまで一日も早い成立のために各方面に働きかけてきた私からすると不思議な気持ちである。延々と審議が行なわれ、成立が遅れるというのは避けたいところである。とはいえこれだけ重要性の高い京都議定書がほとんど審議のないままに委員会を通過してしまうのもどうかという気がする。しかもこの日の質疑は京都議定書を議題としながら実際には瀋陽総領事館事件の対応をめぐる質問ばかりだった。国会質疑というのは実際にはかなり柔軟で、法案審議と銘打ちながら他の事項を取り上げることは往々にしてある。それにしてもこの日は本題の京都議定書関連の質問があまりにも少なかった。つまり3時間の審議時間といっても議定書に関わる正味はずっと少なかった。

政務官である私は答弁に立つ場面こそなかったが、この委員会には最初から最後まで出席し、一部始終を聞いていた。ちなみに私自身、外務政務官であると同時に衆議院外務委員会の一員でもある。結局、京都議定書は5月17日の昼12時50分頃、衆議院外務委員会において全会一致で可決された。

個人的な日程をいうと同日の午後、環境団体の世界自然保護基金(WWF)の会合で講演をすることになっていた。これは「気候変動対策と企業の取り組み」と題するシンポジウムで、私は“京都議定書批准をめぐる国会の動き”との演題で話をした。この場で「数時間前に衆議院外務委員会で可決されたところです」ということが報告できたのはタイミング的に良かったと嬉しく思っている。

京都議定書の審議時間そのものは短かった。しかし裏面ではいろいろな動きがあった。外務委員会で採決する時に附帯決議をつけようという動きがあったのである。附帯決議というのは普通は野党側が要求する。法案には賛成するが、一定の条件みたいなものを附帯決議という形で課すわけである。附帯決議には法的拘束力はないが、それでも委員会の意思を示すという意味はある。今回の附帯決議の動きが異例だったのは、これが自民党から提起された点である。私の関係した範囲でこの顛末を記してみたい。

京都議定書の委員会採決を翌日に控えた5月16日の午後6時過ぎ、私が外務省の政務官室にいると環境省の奥谷通大臣政務官から電話がかかってきた。「明日の委員会の附帯決議の件はいったいどういうこと」と奥谷氏。そう言われても私の方は何のことやらよく分からなかった。奥谷政務官はさらに続けた。「まだ聞いてない?変な決議案が出てきたから環境省は上に下にの大騒ぎしてるよ。今すぐその案をFAXするから見てみてよ」。そこで送られてきたFAXを見ると確かにひどい。

決議案は三項目からなっている。
・一、法的拘束力を伴う遵守制度の導入は、京都議定書発効後の第一回締約国会合において決定されることとなっているが、その交渉において我が国は、米国の京都議定書参加が得られるまではいかなるコミットメントも行わないこと。
・二、次期約束期間に関わる交渉においては、米国の参加及び中国、インド等主要途上国の参加を確保する
こと。
・三、次期約束期間に関わる交渉においては、GDP当たりの排出量や省エネ努力の水準等、締約国の経済活動を勘案した負担の衡平性を確保すること。

いささかなりとも環境問題に取り組んでいる者ならばこんな附帯決議など飲めるわけがない。特に第三項目目のGDP当たりの排出量云々などはCO2の排出総量を削減するという京都議定書の精神とまったく相反する。まったく経団連の主張そのものである。
すぐさま外務省の国会対策を担っている坂場三男総括審議官、条約局の林景一審議官らに連絡をとり、状況の把握に努める。その結果、この日開かれた外務委員会理事懇談会で与党側筆頭理事の石破茂氏(自民党)がこの決議案を提案し、野党側も持ち帰ったことが分かった。

私も翌17日に議定書の審議採決が行なわれることは知っていたが、決議案のことはまったく聞いていなかった。省内の関係者に対しては「なぜこんな大切な話を上げてこない」ということはきつく注意しておいた。ちょうど瀋陽総領事館事件でも大臣・副大臣などへの第一報が遅いということが問題になったが、外務省の情報伝達には改善すべき点が大きい。外務委員会で起こっていることについて外務省の政務官たる私が外務省ではなく環境省側から話を聞いたというのは明らかに不自然である。

さてこの決議案だけは阻止しなければならない。まず石破茂氏に電話した。聞いてみると石破氏がこの決議案を強く主張したというわけでもなさそうである。石破氏は自民党内きっての防衛政策通である。安全保障問題ならば強い信念があるだろうが、温暖化問題にこだわりがなくてもそう不思議なことではない。「確かに私がこの案を野党に提示はしたけれども、別に私個人としては積極的にこの決議案を推奨しているわけではない。伊藤達也・経済産業部会長から連絡があって『自民党内はこの決議案でまとまっている』というから提示しただけ。私は与党筆頭理事として条約が通れば良いというそれだけだから」と石破氏。翌日、伊藤達也氏に聞くと「議論のたたき台として案は出したが、まさかこれがそのまま自民党案として提示されるとは思っていなかった」という。意思疎通の微妙な行き違いがあったというのが真相だろう。

そして両者を含む関係者の話を総合すると近藤剛参議院議員がこの決議の採択を強く働きかけたことは間違いない。近藤議員は経団連などの推薦により昨年の参議院選で初当選している。また麻生太郎政調会長の影もこの決議案の背後にちらついている。いずれにせよ私は石破氏に「どうしてもこの附帯決議を出すというならば、私は採決で反対する」ということを伝えておいた。先に述べた通り私は政務官であると同時に外務委員会委員でもあるので、起立採決の時に座ったままでいればいいわけである。

私としてもこの案が採択される可能性は極めて低いと思っていた。まず野党が反対するはずだからである。自民党でも私を含め反対論者はいる。附帯決議は全会一致が慣例である。反対の声が多い中、この決議案が採決に付されること自体、常識では考えにくい。だが油断は禁物だった。この夜、連絡をとった環境省幹部が次ように言っていた。「本来ならこんな内容の決議案ならば自民党でも党内に持ち帰れば紛糾して通らないでしょう。まして野党が認めるはずがない。だけど野党の委員でも外務委員会の現場にいる人が必ずしも環境に精通しているとは限らない。だからポテンヒットのように何かの拍子で可決されてしまうのが怖いんです」。私もまったく同感だった。

翌17日の午前中も水面下で附帯決議をめぐるやりとりは続いた。山本公一・自民党環境部会長も「この決議案は困る」ということを外務委員会理事たちに働きかけてくれた。こうした中、大勢は決まった。附帯決議は無しという方向で話が進んだ。決議案の文言を一部修正することで可決に持っていこうと模索する人もいた。しかし原案があまりにもひどい内容である以上、微修正を加えて糊塗するよりも、きれいさっぱり決議などなくしてしまった方がすっきりする。結局、12時50分に京都議定書が全会一致で可決された時には、一切の決議がつくことはなかった。

委員会で可決された京都議定書は5月21日の衆議院本会議に上程されることになった。実は私は前日の20日夕方から下関に行っていた。捕鯨問題についてのIWC総会に外務大臣政務官として出席するためだった。20日の夜は春帆楼に宿泊した。日清戦争の講和条約を伊藤博文と李鴻章が交渉したことで有名な宿である。

陽総領事館の件で日中関係に焦点が当たっている時に独特の感慨もある。欲をいうとせっかく下関まで来たので少しはゆっくりと壇ノ浦などの史跡を見学したり河豚でも食べたりしたいところである。だが本会議で京都議定書の採決とあればこれに必着で帰らなければならない。21日の朝すぐに下関を発ち、午後1時からの本会議に間に合うように帰京した。本会議では「異議なし」の声のもと全会一致で可決された。ようやくここまで辿りついたとの感がある。

一方、環境委員会で審議されていた地球温暖化対策推進法改正案は5月21日朝の委員会で全会一致で可決され、この同じ本会議に上程された。これまた全会一致の可決だった。こちらは委員会採決の時に野党側が修正案を出している。一定規模以上の事業者に温室効果ガス排出抑制のための計画策定と排出実績の公表を義務づけるというものである。なかなか良い修正案だとは思うが賛成少数で否決されている。ちなみに私は環境委員ではないのでこの採決には参加していない。

修正案が否決された代わりに環境委員会では10項目の附帯決議がついた。これは外務委員会の場合と違い、意味のある決議だった。特にその第4項目目は「実効ある地球温暖化対策を推進する上で、各主体毎の温室効果ガスの排出量の把握が重要となることから、国及び各地方公共団体、事業者等からの温室効果ガス排出量の把握、公表及び評価のあり方について検討を進め、必要な措置を講ずること」というものであり、これは私が日頃から唱えていることと重なる。

ともあれこれで京都議定書批准に向けて大きな山は越えた。条約については憲法で衆議院の議決の優越が定められているからである。衆議院さえ通過すればあとは参議院が議決しなくても30日経てば成立する。これがいわゆる自然成立である。つまり条約である京都議定書はこれでどんなに遅くても1か月後には国会承認されたということになる。参議院でも可決されることは間違いない。

そんな中、唯一心配なのは余計な附帯決議である。衆議院の時のような気苦労は繰り返したくない。まして衆議院の時はいざとなれば「(起立採決時に)私は立たない」と言って身を挺して反対もできるが、私は参議院には籍がないのでそういうこともできない。しかも参議院の審議時期には私は国内にいない。外務政務官として5月27日から6月1日までAPECの会合に出席するためにメキシコに行くことになっている。そこで「変な決議はくれぐれも認めないでくださいね」ということを参議院外交防衛委員会理事の山本一太氏など要路には頼んでおいた。
幸いにして私が不在の間も参議院の日程も順調に進んだ。
京都議定書の審議は次の通りだった。

5月24日 参議院本会議で趣旨説明・質疑
5月28日 外交防衛委員会で提案理由説明
5月30日 外交防衛委員会で質疑・採決(全会一致で可決)
5月31日 参議院本会議で可決(賛成229/0反対)

cf. 参議院本会議は押しボタン式なので票数が 明示される
心配していた附帯決議はなかった。

他方、地球温暖化対策推進法改正案の審議は以下 の順序をたどった。5月22日 参議院本会議で趣旨説明・質疑
5月23日 環境委員会で提案理由説明
5月29日 環境委員会で質疑
5月30日 環境委員会で質疑・採決(全会一致で可決)
5月31日 参議院本会議で可決・成立 (賛成228/0反対)

こちらは衆議院の時と同様のまともな附帯決議がついている。
これで京都議定書関連の国会審議はすべて終了した。後は6月4日の閣議で京都議定書を受諾することが決定され、同日ニューヨークの佐藤行雄国連大使が国連事務総長宛に京都議定書の受諾書を寄託した。これで批准の手続きは完了した。ついに日本も京都議定書の締約国になった。74か国目である。米国に加えロシアやカナダなどの批准の遅れのため、当初期待されていたヨハネスブルク・サミットまでの発効は絶望的になった。しかし日本が締約国になったことは間違いなく大きな前進である。外務政務官として京都議定書批准という重要課題に直接関与できたことを嬉しく思っている。

*なお経済産業省への情報開示請求の行方については現在執筆中の「経済産業省への挑戦状(完結編)」で述べる予定です。

経済産業省への挑戦状(中)

2002.03.31

「経済産業省への挑戦状(中)」
~温暖化対策日記(3月末まで)~どうなる情報公開請求の行方。そして京都議定書をめぐる自民党内の攻防は・・・

◆02年1月22日
自民党の温暖化対策特命委員会が開かれる。この委員会は昨年12月に自民党政調会長の下に設立され、その名の通り地球温暖化問題についての党内論議の場になっている。亀井久興衆議院議員が委員長、鴨下一郎衆議院議員が事務局長をつとめている。その他20数名の委員がおり私もその一員である。もっとも委員以外の議員が参加することも可能である。出入り自由という点は自民党の他の部会と同じである。

この特命委員会は昨年中に2回開かれたが、今年になってからは初の開催となる。本日はまず温暖化問題に取り組んできたNPOから意見の聞き取りをして、そのあと質疑・意見交換に入った。3人のNPO関係者が招かれており浅岡美恵氏(気候ネットワーク代表)、江尻京子氏(多摩リサイクル市民連邦事務局代表)、米本昌平氏(三菱化学生命科学研究所)の順に意見を述べる。私は質疑応答の中で浅岡氏に対し次のような質問をした。「日本の産業界は十分な省エネ努力をしており、もうこれ以上二酸化炭素削減の余地がないという声がありますが、私は必ずしもそうは言えないのではないかと思っています。浅岡さんの示された資料でも日本のエネルギー効率が他の先進国に比べて良いのは、運輸・民生部門が良いからで、こと産業部門に限って言えばそれほど良いとはいえないとありますが、この点についてもう少し詳しくご説明ください」。

だが私以外の議員の発言で大勢を占めたのは「産業界は十分な努力をしている」「現状では京都議定書批准には慎重であるべきだ」という声だった。ちなみに私の名前も、後で発言した3人の議員から否定的な形で引用された。「さきほど水野さんは~と言ったが、それは間違った認識だ」というような具合である。3人とは伊藤達也・党経済産業部会長、近藤剛参議院議員、甘利明・党筆頭副幹事長だがいずれも経産族・商工族と目される人たちである。ちなみに伊藤議員とはこの数日前に一緒に北京に行っている。環境問題への造詣も深い方だと思うが、どうもこの問題では微妙に意見が違うようだ。

終了後、浅岡氏と電話で話す。「小泉首相の施政方針演説にはぜひとも議定書の早期批准が盛り込まれるようにしてほしい」という趣旨のことを言っておられた。

◆1月23日
環境省・中川雅治事務次官が就任の挨拶として議員会館に来る。中川次官や竹内恒夫・地球温暖化対策課長と温暖化の国内対策などについて話す。

◆1月24日
某省幹部と温暖化問題について話す。地球温暖化対策推進法の改正案に各企業にCO2の排出量の公表を義務づけることが盛り込まれなさそうな現状について話す。さらに話が省エネ法に及んだ時、この某幹部が「情報公開法を使うという手があるんじゃないですか」と言う。なかなか面白い考えだと思った。だがこれまでに情報公開法を利用したことはもちろんない。また私自身も1月8日に外務大臣政務官を拝命し、政府の一員という立場にもいる。政府の一員が政府に対して公開を請求をするのが適当かという思いもある。いずれにせよ情報公開法を利用するということを考え出したのはこの時からである。三人寄れば文殊の知恵というが、多くの人と議論しながらその知恵を活用することの大切さを改めて痛感した。

温暖化対策特命委員会の鴨下一郎事務局長を議員会館の部屋に訪ねる。 昨年秋に私が行なった企業アンケートの資料を渡し、各企業にCO2 排出量の公表を義務づけることが必要だという私の持論を説いた。またこれは決して極端な意見ではなく、産業界にとってもマイナスではないとも話す。

◆1月25日
午前10時から党本部704で開かれた温暖化対策特命委員会に出席。ここで亀井久興委員長が出席者に「地球温暖化対策について」と題した文書案を示す。これを叩き台として正式な文書を作り、委員会として小泉総理宛に申し入れたいという。この案は6項目から成るが、見れば見るほど産業界への配慮がにじみ出ている。もっともこれは亀井委員長の責任ではなく、この委員会の出席議員の発言の多数がそうだったのだからそれを受けて取りまとめればこうならざるを得ないとも言えよう。

例えば第3項目で民生・運輸部門については「対策を強力に進めること」としながら、第5項目で産業部門については「これまでの産業界の努力にかんがみ、引き続き産業界の創意工夫と自主的な取組を尊重し、かつ促進するような対策を図ること」という具合である。産業部門に対してだけはこれまでの取組みを褒め上げたうえ、強力な対策については触れないのである。そもそも議定書の批准が今国会に上程されようとしている時に、批准についてひとことも触れていないのも気になる。

そうした中で、第4項目に排出状況の把握・評価という文言が入っている。昨日、鴨下事務局長に話したことが直接影響したのかどうかは分からないが、私の主張の一端が入っていることはありがたい。それにしてもその同じ項目の後段に「安直に規制などを課す手法を採らないこと」とこれまた産業界が喜びそうな一節が入っているのはどういうことだろうか。

結局、この文案の取り扱いは亀井委員長に一任されることになる。文言について一つ一つ言い出せばきりがなくなるので私も一任に賛成する。もはやこの時点では特命委員会の議論よりも情報公開請求を自分の主戦場にしようと考えていたこともある。
この特命委員会からの帰り際に省庁側からの出席者として参加していた経済産業省の澤昭裕・環境政策課長に、情報公開請求を考えていることをチラッと言った。

ちなみに特命委員会から小泉首相への申し入れは、1月31日に行なわれた。この時点では先の6項目は8項目に増えていたが、上述した部分については文言の変更はなかった。

◆1月29日
議員会館の私の部屋に経済産業省の関総一郎・地球環境対策室長、資源エネルギー庁の平野正樹・省エネルギー対策課長らが来る。私の方からは、経済産業省が保管している全国主要工場のエネルギー使用量の報告書について情報公開法に基づいて開示請求しようと考えていることを伝える。さらに地球温暖化対策推進法改正についての経済産業省の姿勢を改めるように求めた。 つまり経済産業省としても企業のCO2 排出量公開義務づけに協力するように要望したわけである。さらにこの問題で前向きな姿勢が見られなければ、あくまでも情報公開を請求すると言明しておいた。こういう言い方は些か取り引きみたいな感じがして、あまり好むところではないが、この際そういう物言いになった。

ただ相手側は企業への排出量報告の義務づけなどはとても飲める話ではないという雰囲気だった。恐らく各省との水面下の交渉の中で今国会の温暖化対策推進法の改正にはそういう事項は盛り込まないことが合意されているのだろう。 このあたりは役所同士で折衝しているため我々にも全貌は明らかになっていない。

だがそれならばせめてもの抵抗として情報公開請求に踏み切らなければならないと思う。もっとも資料を入手する方法としては質問主意書を使うということも考えた。質問主意書とは書面による国会質問のようなものである。当然、政府側には回答義務がある。国会議員には質問主意書を出す権利があるが、私を含めほとんどの自民党議員はその権利を行使したことがない。そういう制度の存在さえ知らない人もいるかもしれない。これの利用も一案だとは思ったが、まずは情報公開法を使ってみることにする。普通の国民が政府の情報にアクセスしようとした場合、どういう手続きを踏むかを体験するのも悪くないと考えたからである。

夕方、経済産業省別館の1階109の行政情報センターに行く。情報公開の手続きについて聞くためである。もちろんここに来たのは初めて。吉田泰彦・情報公開推進室長が出てきて手続きについて丁寧に説明してくれた。気になる費用の方は請求に300円、あとは資料を紙で貰うならばコピー代は1枚20円の実費請求になるという。もっともこれも馬鹿にならない。燃料・電気の使用量を経済産業省に報告している工場は全国で約4100。しかも燃料と電気の報告用紙は別なので報告書はその倍(実際には倍まではいかないのだが)になる。そうすると8000枚×20円=16万円。これはあくまでも1年分の情報である。エネルギーの使用量で重要なのはその推移である。燃料を大量に使っているから悪いというわけではない。産業によってエネルギー多消費型の産業があるのは仕方がない。 肝腎なのは削減の努力をしているかどうかなのである。そうすると数年分の資料を請求しなければならない。例えば10年ならば160万円になってしまう。かなり高いなあと思いながら、経済産業省をあとにした。

この日、深夜遅くに衆議院本会議が開かれ平成13年度第二次補正予算が可決された。そして散会後、30日午前0時すぎに田中外相更迭のニュースが流れる。私は小沼士郎秘書官(大臣政務官には役所の方から一人の秘書官と一人の外務事務官がついている)からの電話連絡で知った。「すぐにNHKをつけてください」というのでテレビをつけたら外相更迭について報じていた。

◆1月31日
午後5時半から首相官邸で小泉首相の出席のもと第9回IT戦略本部の会議が開かれる。私も外務大臣政務官として外務省を代表して出席した。ちなみに田中外相は昨日更迭され、この時点では外相は事実上空席だった(形式上は小泉首相が兼務)。約1時間の会議が終了したあと、車に乗り込もうとする平沼赳夫経済産業大臣に「情報公開法に基づいて経済産業省に情報開示の請求をしようと思っています」と告げた。大臣も「?」という顔をしていた。これまでの経緯を言わずにいきなり「情報開示の請求をしようと思っています」と言っても何のことだか分からないのは当然だろう。説明不足な言い方を反省する。

平沼大臣は私の中学・高校の大先輩(27歳も違う!)で、選挙の時は応援に駆け付けてくれるなど日頃たいへんお世話になっている。また人品骨柄からいっても総理大臣にふさわしい人だと思ってもいる。その平沼先生が大臣を務める経済産業省に情報公開請求をするというのは、なにやら挑戦状を突き付けているようで心苦しい思いもしていた。それだけに大臣にまったく断りなく請求するのも申し訳なく思い、顔を見たら前置きないまま、咄嗟に情報開示請求のことを言ってしまった。この場を借りて「いきなり変なことを言ってすみませんでした」とお詫び申し上げたい。

◆2月1日
午前10時前、奥谷通・環境大臣政務官を訪問。奥谷政務官は自民党内の数少ない環境派の一人である。また衆議院本会議場でもずっと席が隣ということもあり親しくしている。そこで情報開示請求について事前にひとこと言っておいた方がいいと思い、議員会館の彼の部屋を訪問し趣旨を伝えた。

午前10時、経済産業省の澤昭裕・環境政策課長、関総一郎・地球環境対策室長が議員会館の私の部屋に来る。経済産業省としては各企業にCO2 排出量公開を求める方向に踏み出すつもりはないという。予想通りなので驚くことはないが、これで情報開示請求を行なうことを最終的に決断した。ちなみに新外務大臣に川口順子環境大臣が内定したとの報はこの会談の最中に知った。

11時に日本工業新聞の松田宗弘記者が議員会館に来る。昨年秋に温暖化について企業アンケートを実施した時、結果を環境省の記者クラブで発表したが、その時に会っている。温暖化についての取材の一環だという。特命委員会での議論の様子などについて知っている範囲のことを話す。情報公開請求をするつもりだということも別に隠し立てする必要もないので話した。

3時半頃、経済産業省別館の行政情報センターに行く。再び吉田室長が出てくる。省エネ法の担当者としては資源エネルギー庁省エネルギー対策課の富永潤一課長補佐も来ていた。この場で情報公開請求の書類に記入する。最終的に請求した行政文書は「最新年度の省エネ法第11条に基づく定期報告書(燃料等・電気共に第2票以下を除く)」である。

省エネ法第11条によって一定以上のエネルギーを使用する工場は原油、揮発油、ナフサ、灯油、軽油、A重油、B重油、C重油、原料炭、一般炭などの燃料別使用量や電気の使用量を定期報告している。これを請求したわけである。そして請求したのはこの個別のエネルギーの使用量に関する部分だけとした。これが「第2票以下を除く」の意味である。実は定期報告は燃料の場合が第9票まで、電気の方は第7票まであるのだが、すべてを請求するといかんせん膨大な量になってしまう。また出費もかさむ。もちろんこれらもすべて省エネには関係する情報ではあるのだが、本来求めていた個別のエネルギーの使用量は第1票だけで分かるので、あとはこのさい諦めた。ちなみにここで試算してみると、第1票のコピー代だけでも約48万円くらいになりそうである。1月29日の試算はちょっと甘かったようだ。これでもし5年分請求したら240万円になってしまう。とりあえず請求は1年分ということで「最新年度」と限定した。現在だと最新年度は平成12年度になるという。とりあえずこれで請求する。さらに必要ならばそれこそ質問主意書などを利用することも含め、追々考えていこうと思う。

ところで経済産業省に情報公開を請求したといったが、厳密にいうと全国8か所の地方支分部局に請求したのである。情報公開の請求はどうやらその文書が存在しているところに出すものらしい。今回の場合、定期報告書は地方支分部局ごとに集計されているらしい。地方支分部局とは聞き慣れない言葉だが、関東経済産業局、近畿経済産業局などというものを指す。経済産業省の場合、これが8つあるので請求はそれぞれの局長に対して行なった。請求先は平沼大臣ではなく、関東経済産業局長たちであった。少しはホッとした気もする。ただ細かいことを言えば請求手数料300円がそれぞれにかかるので2400円分の収入印紙を買うことになった。また沖縄にある工場だけはこれらの地方支分部局の管轄外なので内閣府に情報公開請求をしなければならないという。そのため沖縄についての請求も今後の課題とした。

さて情報開示の請求者は「水野賢一」個人名ではなく「水野賢一事務所」にした。 どちらでも違いないとは思うが、一応、政務官という立場もあるのでワンクッションはおいたつもりである。もっとも情報公開請求というのは訴訟ではない。政府の一員が政府を訴えるというのではちょっとおかしいかもしれないが、私が行なっているのは単に行政文書の開示請求である。あまり気にする必要はないと思うが、つまらない批判を避けるために一応は配慮したつもりである。

◆2月3日
昨日から情報開示請求の経緯について『経済産業省への挑戦状』と題して原稿書きをしている。本日は成田山新勝寺で恒例の節分の豆撒きがある。毎年、地元代議士ということでお招きに預かり、大相撲の人気力士やNHK大河ドラマ出演者と豆を撒くのだが、今年は風邪をこじらせたので欠席する。その代わりにひたすら原稿を書いていた。

◆2月4日
『経済産業省への挑戦状』を脱稿する。さっそくホームページに掲載する。400字詰め原稿用紙にすると30数枚分だから結構書いたという実感がある。

本日、衆議院本会議で行なわれた小泉首相の施政方針演説には「今国会における京都議定書締結の承認と、これに必要な国内法の整備を目指します」との一節が入った。これによって議定書そのものを葬り去ろうという試みは一応沈静化するだろう。だがこれから大切なのはしっかりとした国内対策をすることである。まだまだ気は抜けない。

◆2月5日
経済産業省に情報公開請求したことについて関係するマスコミに資料を流したりする。いくつか電話取材もあったのでそれに対して答える。

◆2月6日
NGOの気候ネットワークの浅岡美恵代表と平田公子氏が議員会館に来る。このたびの情報公開請求を知って来訪したという。この両名にはちょうど今回の件について知らせる手紙を書いていたところだった。しかしまだ投函していなかったので「どうして情報公開請求のことを知ったのですか」と聞いたら、平田氏が私のホームページを見て知ったとのこと。ご覧になっていただける方がいるというのはありがたいことだ。

浅岡代表によればアメリカでも情報公開制度が導入された約40年ほど前に真っ先にこれを活用したのは議員だったという。一面では党派間の政争のために制度を利用したという面もあるにせよ、議会人の利用が情報公開の定着に寄与したという。こういう話を聞くと勇気づけられる。また今回私が請求した各工場の燃料別の使用量などは企業秘密に該当しないので開示されて当然だという。 ちなみに浅岡さんは弁護士なので、このあたりの発言にも説得力がある。

夕方、環境省・岡沢和好・地球環境局長と竹内恒夫・地球温暖化対策課長が議員会館に来る。温暖化対策推進法の改正や地球温暖化対策推進大綱の改正について話す。私の方からは新しい大綱には産業・民生・運輸といった部門別の削減目標を明記することの必要性を強調しておいた。

私がそう主張するのには理由がある。実は98年に定められた現在の大綱は産業部門からの二酸化炭素を2010年までに90年比7%削減することを前提として策定されている。つまり産業界がよく言う「産業部門からのCO2 排出量は伸びていない」という論法は本当は説得力に欠けるのである。確かに産業界からのCO2 排出量は伸びてはいない。最新の統計である99年度の場合、90年度比0.8%の増にとどまっている。だが伸びていないというのは自慢にならないのだ。7%減らすことが本来の目標値である以上、減らしているならばまだしも横這いで胸を張るというのはおかしいのである。だが現実はこのおかしな論法がまかり通っている。

これはなぜか。その最大の理由は、産業界が7%削減する約束になっているということをほとんどの人が知らないことにある。京都議定書反対を声高に叫ぶ自民党商工関係の議員もその例に洩れない。その責任の一端は経済産業省にあると私は思っている。彼らが「ご説明」として政治家のもとにくる際、7%削減が前提となっているということはまず説明しない。都合の悪いことをわざわざ自分から言う必要はないからだろう。現に経済産業省が作成する資料で「7%」のことに触れているものはほとんどない。

だがもう一つの背景として、現在の大綱にはこれが明記されていないということがあげられる。大綱に掲げられた全体計画は産業界がCO2 を7%削減することを前提として成り立っている。だが大綱そのものの中に「産業界は7%削減すること」と書き込まれているわけではない。7%という数値が登場するのは大綱に先立って出された政府審議会の報告書にすぎないのだ。この点、抜け穴になってしまっているとう見方もできる。それだけに今回、新大綱を策定するにあたっては、ここにしっかりと留意する必要があると私は言ったわけである。

さらに新大綱ではどのくらい原発増設を想定しているのかも問うた。ちなみに現行の大綱は2010年までに原発が20基増設されることを前提として策定されている。私はとりたてて反原発論者でもなければ積極的な推進論者でもないが(ちなみに再処理には疑問を持っている)、好むと好まざるとにかかわらず原発の増設はもはや困難だと思っている。原発への賛否を別にして、客観的に見てそういう社会状況なのである。それだけに原発の大幅な増設を前提として大綱を作れば、虚構の上に計画を作成することになってしまう。 原発問題について私は局長らとなごやかに意見交換をしたが、これが野党などだったら大変だろう。このあたりはよほどきちんと詰めておかないと、国会審議で追及されたときにちょっと厳しいのではないかなあという印象は持った。

◆2月7日
外務省の朝海和夫・特命全権大使が外務大臣政務官室に来る。朝海氏は地球環境問題等の担当。ワシントンで1月末に行なわれた米国政府の環境担当者との会談の内容について聞く。

ブッシュ政権が京都議定書への不支持を表明して約1年になるが、これを翻意させるのは至難の業である。かといってアメリカが関与しなければ温暖化対策の効果が大きく減殺されてしまう。米国には仮に議定書に参加しないことになっても意味ある温暖化対策を取るように強く働きかけていくしかない。一方、国内には米国の不参加を口実にして果たすべきことを果たさないで済まそうという勢力もある。これに対して厳しい眼を注ぐことも忘れてはならない。

◆2月8日
気候ネットワーク代表の浅岡美恵氏からFAXが送られてくる。情報公開について有益なご示唆をいただいた。また中央環境審議会での議論についてもご教示いただいた。なお米国の情報公開法についての説明(2月6日の項参照)については別の件と混同していたので不正確な点があったとのこと。

外務省の岡庭健・気候変動枠組条約室長から温暖化の国際交渉の現状について聞く。地球温暖化問題では米国をどうやって京都議定書に復帰させるかというのが大問題である。日米間では閣僚級のハイレベル協議があり働きかけをしている。また事務レベルの協議も行なわれており、今月末にも再び実施される予定になっている。一方、EUとアメリカの間では同様の協議はない。 昨年6月のヨーテボリ(スウェーデン)でのEU・米国の首脳会議ではハイレベル協議を実施することで合意したが、結局開催されていない。話し合いの場さえ持てないのである。温暖化をめぐるEUとアメリカの溝は思った以上に深いようだ。

◆2月13日
朝8時からホテルニューオータニでイギリス政府の気候変動問題の担当者と朝食をとる。英国側からは今回の訪日団長である環境省のサラ・ヘンドリー氏や貿易産業省の責任者が出席。日本側としては私の他に清水嘉与子元環境庁長官、田端正広・公明党環境部会長、大木哲氏(大木浩環境大臣の子息であり秘書)が出席した。

京都議定書の批准の問題などを中心に幅広く環境問題の意見交換をした。京都議定書への米国の参加を求めることでは一致した。説得といっても簡単なことではないが、諦めずに働きかけていくことの必要性で合意。その点17日からのブッシュ米大統領の訪日時の首脳会談は重要である。

イギリス側はロシアの対応についても心配していた。アメリカに加えてロシアまでが批准しなければ議定書の発効は不可能になってしまうからである。たしかにロシアの態度には曖昧なところがある。批准に前向きだったかと思うと、逡巡しているような気配もある。実を言うと私もロシアの姿勢についてはよく分からない。ロシアは京都議定書に参加すれば排出量取引きによって儲けを得ることが確実視されている。それだけに論理的に考えれば喜んで参加するはずなのだが、どうもそうでもない。駆け引きを狙っているのか、それとも他の狙いがあるのか、はたまた温暖化問題にはあまり関心がないのか不分明である。今後その動きを注視していく必要がある。

イギリスでは今年4月から国内での温室効果ガスの排出量取引きが始まる。参加を希望する企業だけが自発的に参加するという仕組みらしいが、先駆的な試みとして注目される。本日の意見交換で概要については説明を聞いたが、今後きちんと調べる必要があると思った。

◆2月14日
午後1時から自民党本部で党地球温暖化対策特命委員会が開かれる。本日はTBS「報道特集」の取材ということで、審議の内容までテレビカメラの前に公開された。自民党の部会・調査会の場合、冒頭の頭撮りという形でテレビカメラが入ることはあっても、議論の内容まで取材させることは珍しい。今日はその例外ということになる。

まず亀井久興委員長、鴨下一郎事務局長が先日の小泉首相への申し入れについて説明をする。そのあと小川洋・内閣審議官が昨日の地球温暖化対策推進本部での決定について説明し、出席議員による質疑に入る。

政治家の発言を聞いているとそれぞれのこだわりが見えてきて面白い。例えば鳩山邦夫衆議院議員は必ず森林吸収源の話をする。本日も「森林吸収源はグロスネット方式という訳の分からない方法で計算されている。これは1990年には日本には木が一本もなく、2010年には木があるという政治的な仮定に基づいたものだ」と言っていた。 これはたしかにその通りで、京都議定書というのはいろいろな妥協の上に成り立っているため、細部に立ち入ればおかしな点はたくさんある。ただ注意しなければいけないのはこうした論法はとかく議定書に反対する勢力に援用されがちだという点である。「京都議定書には不備がある」→「だから議定書の批准はすべきでない」という形で利用されてしまう。これに対し私の考えの基本は「京都議定書には不備がある」→「だがこれに代わるものがない以上あくまでも批准と実施に向けて最大限の努力をすべきだ」というものである。誤解のないように言うと、鳩山氏自身は京都議定書を否定する側に立っているわけではまったくない。むしろ同氏の主張の力点は「議定書はあくまでもほんの第一歩にすぎない」という点にあることを付け加えておく。

谷洋一衆議院議員も口を開けば林業の話になる。本日も「今の木材価格は昭和30~35年と同じくらい」と力説していた。奥山茂彦衆議院議員は自身が関わっている日中韓の環境問題の議員連盟の話をよくする。加納時男参議院議員は必ずといっていいほど産業界の自主的な努力を称賛する。この点、私とは考え方の違いがある。しかし加納氏の例え話や口調はユーモラスで面白く、聞くだけの価値はある。

そういえば私も毎回同じことを言っている気がする。「現行の地球温暖化対策推進法は不十分だ。産業界にもっと厳しくのぞむべきだ」ということである。なんとかの一つ覚えみたいな気もしないではない。私はなにも産業界叩きをしているわけではない。ただ自民党内には産業界にさらなる努力を求めることを躊躇する雰囲気があり、他に言う人が少ない。そのためあえてそれを説き続けているだけのことである。そして私の力不足もあるのだろうが、その主張が十分に理解されていないから何度も同じことを言うはめになっている。

本日の私の発言は以下の通り。 「日本の国際的地位や日本外交の立場から考えれば、一番最悪の事態というのは、京都議定書を批准して6%削減を国際的に約束したにもかかわらず、それが達成できないということです。ですから批准をする以上は是が非でも達成できるようなしっかりとした国内対策をやっていただきたい。では先程の説明にあったような国内対策で足りるのかというと、私は不十分だと考えています。例えば地球温暖化対策推進法の改正を一番目の柱として掲げていますが、ここには現行の地球温暖化対策推進法の欠点への反省が生かされていない。現行の地球温暖化対策推進法とは何かといえば、この法律は国や地方自治体や事業者がそれぞれ温室効果ガスの排出抑制計画を作るというものです。ところがその排出抑制計画を国も作っていなければ、地方自治体も大部分は作っていなければ、事業者も大部分作っていないというのが実態なわけです。だからここをどうやって作らせるかというのが大切なのに、改正案はそのことにまったく触れていない。これは私は極めて不十分だと思いますし、その部分は政府でもしっかりと検討していただきたい。しっかりとした国内対策をしないで、日本が約束を果たせないなどということになればこれは国辱ですから、しっかりとした対策を望みたいと思います」

私は地球温暖化対策推進法の改正では企業に対し排出抑制計画の作成を義務づけるべきだと考えている。またその前提として各企業にCO2 排出量の公表義務づけも求めるべきだと確信している。ところが今回の改正案にはこうしたことはまったく含まれていない。改正案の主な内容は、地球温暖化対策推進本部を法律に基づく機関にするということや政府が京都議定書目標達成計画をつくるということである。だがこの程度のことでは現状と何の変化もない。例えば地球温暖化対策本部というのはすでに1997年から存在している。ただ現在は閣議決定に基づいて設置されているのを、法律に基づく組織に格上げしようというわけである。これは悪いことではないが、本質的な問題ではない。つまり今回の改正というのはどうでもいい部分は改正して、肝心な部分には手をつけないものだと言えよう。 私の発言中、古屋圭司経済産業副大臣はきちんとメモを取りながら聞いてくれていた。真摯な姿勢には感謝している。同省の方針に反映してくれればもっと感謝するのだが…。なお古屋副大臣には本日、この『経済産業省への挑戦状』をプリントアウトしたものを渡しておいた。

◆2月15日
ブッシュ米大統領が独自の温暖化対策を発表した。本日の各紙はこの米国案について一面で扱っている。柱となっているのはGDP単位あたりの温室効果ガスを2012年までに18%削減するということである。18%というとかなり大幅な削減のようだが、GDP比というところに問題がある。経済成長が続きGDPが大きくなった場合には、温室効果ガスの排出量が増えても構わないということになってしまう。やはりGDP単位あたりという発想ではCO2 の削減にはつながらない。現に90年代の米国はGDP単位あたりのCO2 排出量は12%減少したが、排出総量でみれば15%増加している。ある試算によれば今回発表の「18%減」が守られたとしても排出総量は2012年に90年比で30%も増える可能性があるという。これでは排出総量を削減していこうという京都議定書の精神とは大きくかけ離れたものと言わざるを得ない。つまり今回発表された対策なるものは何もしないよりはまだましというだけのことである。内容そのものは不十分このうえない。

この案に対して外務大臣談話が発表された。私も現在、外務大臣政務官という立場にあり外務省の一員ではあるが、この談話の内容は発表後に知らされた。一読して苦心の作だなと思った。書き出しは「米国が2月14日(米国東部時間)、気候変動政策を発表したことは、米国が地球温暖化問題に対して真剣に取り組む姿勢を示すものであり、我が国としてはこれを評価する」という文で始まる。内容に評価する点がないから、発表したことを評価するというわけだろう。

それにしても談話の中で一言くらいは米国の京都議定書への復帰を求める表現があってもよかったのではないか。最大の排出国である米国が参加しなくては温暖化防止の効果が損なわれてしまうからである。また今後、中国などCO2 を大量に排出している途上国に参加を求める際にも説得力が失われてしまう。だからこそ昨年3月にブッシュ政権が京都議定書不支持を表明した時の河野外務大臣談話では「わが国としては、米国が京都議定書を締結することが重要と考えており」と言っているのである。その後も政府は米国への働きかけを続けることを繰り返し明言している。

しかし京都議定書への参加・復帰を求めるという直裁な表現は次第に姿を消していく。今回の談話でも復帰を求める文言はどこにもない。「米国が気候変動交渉に積極的に参加することを期待する」という表現があるだけである。これでは明らかに不十分である。交渉への参加というだけならば、現時点でも米国は交渉には参加している。マラケシュで開かれたCOP7にも出席はしている。問題なのは交渉には参加しているが、条約に参加しない点なのである。京都議定書に拘束されないという点にこそ問題の本質がある。米国の交渉への参加ということは何も日本が特別に要望しなくても実施されている。だからこそ日本が主張すべきなのは議定書への復帰である。復帰を求めたからといってそうは簡単に実現しないだろう。それは私も重々承知している。しかしそれでも降ろしてはいけない旗があると私は思う。

外務大臣談話といってもその原稿作りには事務方の官僚が大きく関わっていることは間違いない。そこで小町恭士官房長、岡庭健気候変動枠組条約室長らには私の意見を強く伝えておいた。ちなみに川口順子外務大臣とは衆議院予算委員会の合間をぬって午後、二人で20分ほど話したが、この時は温暖化問題の話はしなかった。現在、世間注視の的になっている外務省改革についての意見交換をしたからである。ただ経済産業省に情報公開請求をしたことはまだ大臣には直接言っていなかったので、この時に説明した。

川口大臣も外相就任以来の二週間は連日のように国会で質問を浴びている。本日も民主党議員による外務省への質疑で予算委員会が2時間も中断した。 もっと核心を突く質問ならばともかく、ただ声高な調子で攻撃しているだけという印象がある。追及するだけの材料を揃えていないことを声の大きさで補おうとしている感じだ。大臣の職責とはいえこういう質問に長時間拘束され、一方で資料に目を通したり外交日程もこなさなければならないということを考えると川口大臣は本当に偉いと思う。そうした中で疲れた様子もみせずに堂々と答弁しているのは流石である。

本日、午前中には内閣官房の伊藤哲夫参事官が議員会館の私の部屋に来た。地球温暖化対策推進法の改正案について話をする。温暖化対策は環境省、経済産業省、外務省、国土交通省、林野庁など多省庁に関わる問題なので内閣官房で調整をしているのである。もっとも伊藤氏はもともとは環境庁の出身である。私は温暖化対策推進法の改正案は不十分だとの持論を言った。

夜、国際研修交流協会という財団が主催する夕食会に出席した。衆議院議員は自民党が私を含め3人、民主党から2人出席する。中華料理なので円卓だったが、同じテーブルに経済産業省の日下一正産業技術環境局長がついた。産業技術環境局といえば経済産業省の中で地球環境問題を扱っている。その局長は言うならば私の主張への反対派の巨魁みたいなものである。偶然とはいえちょっと驚いた。様々な話が出て楽しい雰囲気の会だった。お開きのあと日下局長と地球温暖化対策推進法の改正についてちょっと話したが、この部分の意見は一致しないようだ。

◆2月17日
TBSの「報道特集」を見た。2月14日の党温暖化対策特命委員会に取材として来ていたからである。番組そのものには特別な感想はないが、あらためて特命委員会とは何だったのかを振り返ってみるきっかけにはなる。

実は昨年末にこの委員会が設置された時、私はこの委員会は温暖化防止のための国内対策を議論する場だと思っていた。私にとってはまもなく京都議定書が批准されることは自明のことだったからである。そうは言っても6%の削減というのは簡単なことではない。そこでこの特命委員会で効果的な削減策を議論するのだと考えていた。例えば温暖化対策推進法をどう改正するのか、環境税を導入するのか、低公害車や省エネ住宅の普及をどうやって図るのかということが主題になると思っていた。

ところが実際の特命委員会の雰囲気はまったく違った。京都議定書そのものに対する反対論が噴出したのである。勢いそれに対抗する環境派の発言も「議定書の批准は必要だ」というところに力点が置かれることになった。いまさら議定書そのものの是非を問うというのはなんとも馬鹿馬鹿しいことだった。昨年4月に衆参両院が国会決議として早期批准をうたっているのである。もちろん自民党もこの決議に賛成している。批准するかどうかというのはすでに決着済みのはずなのだ。それを再び蒸し返したのは商工族とされる人々である。議論の焦点が議定書は是か非かという点になってしまった分、温室効果ガスを削減するための具体策についての議論はほとんど深まらなかったように思える。

2月4日の小泉首相の施政方針演説に今国会での議定書批准の方針が盛り込まれたことで、批准そのものへの反対は影を潜めるようになった。だが経済界や商工族は今後も削減のための措置を骨抜きにしよう策動し続けるだろう。 温暖化対策には息の長い取り組みが必要である。批准ができそうだということはまだその第一歩にすぎない。長期的な視野を持って取り組まなければならないことの決意をあらためて強くしている。

◆2月18日
本日の読売新聞朝刊に私が経済産業省に情報公開請求をしていることが載った。今朝は地元の千葉県佐倉市から東京に向かったが、佐倉で見た同紙の見出しは「外務政務官が開示請求 地球温暖化資料 経産省拒否で」だった。それが東京の議員会館で読んだ見出しは「政府の一員なのに…経産省資料提供拒否で政務官、開示請求」になっていた。遅版になった時に変わったのだろう。記事そのものは事実関係を淡々と伝えている。

夜6時から首相官邸で訪日中のブッシュ大統領を迎えてのレセプションがあった。田中真紀子元外相が「招待状が来なかった」と騒ぎたてたあのレセプションである。この時、石原伸晃行革担当相が「今日新聞に出てたねえ」と言うので、なぜ請求に至ったかの概要を説明した。情報公開請求の流れについての話にもなる。もし不開示になったら不服申し立てができ、その結果にも不満ならば地方裁判所に提訴できる仕組みになっている。すると一緒に歓談していた杉浦正健外務副大臣が「訴訟になったらただで応援してやるよ。ただほど高いものはないよ」と(もちろん冗談で)言った。ちなみに杉浦副大臣は弁護士でもある。

◆2月22日
本日はモンゴルの首都ウランバートルにいる。モンゴルを訪問するのは初めての経験である。外務大臣政務官として日本・モンゴルの外交関係樹立30周年記念式典に出席するための訪問である。昨日、成田空港を発ち北京に一泊し、本日ウランバートルに入った。日本からの直行便は関空からはあるが、成田からはない(4月に成田~ウランバートルの直行便が就航予定)。

本日の最高気温はマイナス7℃、最低気温はマイナス21℃である。それでも今年は暖冬だという。昨年、一昨年と雪害がひどく家畜が死亡するなどの被害が出たことに比べ今年はずっと良いらしい。バドボルド外務副大臣と会談した時に「モンゴルでは温暖化は歓迎すべきことなんでしょうね」と冗談半分に言ったら「バランスが大事です」という返答だった。

温暖化対策にカナダが消極的になってきたとの声も聞こえてくるが、寒い国に住んでいるとどうしても世論はそちらに傾くのかもしれない。一方、世界には温暖化すると水没してしまう島国もある。多国間交渉の難しさをあらためて考える。

本日は他にエルデネチョローン外相とも会談したが、ここでは温暖化の話はしなかった。モンゴルの街で一番印象的だったのは漢字をまったく見ないことである。使われているのはすべてキリル文字である。ロシア語にNをさかさまにしたような文字があるが、あれである。漢字だらけの北京からモンゴルに入っただけに特にそれが目についた。

◆2月25日
内閣官房の小川洋審議官、伊藤哲夫参事官らが外務大臣政務官室に来る。 今国会に提出予定の温暖化対策推進法改正案についての話をする。しっかりとした温暖化対策を求める声と経団連や自民党商工族などの間で板挟みになった内閣の苦しい立場は分からないでもない。その中でまとめられるぎりぎりの限界がこの法案だという事情もある程度は分かった。だが私としてはこの法案が不十分であるという意見に変わりはないし、自説は今後も曲げるわけにいかないと伝えておいた。

外国訪問中の21日に自民党の「世界規模の森林の違法・不法な伐採及び輸出入等から地球環境を守るための対策検討チーム」の会合が開かれていたが、それに関する資料に目を通す。ここでは主として「温暖化を防ぐためには森林の果たす役割が重要である。だから林業を守らなければならない」という感じの議論が多いらしい。ちなみにこのチームの座長は農林族の実力者として知られる松岡利勝衆議院議員である。

今こうした人々が京都議定書の批准にかなり熱心である。最近はいろいろな立場の人々が環境の旗印を掲げている。だがすべてが全面的に一致するとは限らない。私とこの会の場合もそういえるかもしれない。京都議定書の批准に賛成という結論は同じでも、若干のニュアンスの差はある。私は温暖化を防ぐための王道は二酸化炭素の排出削減だと考えている。森林がCO2 を吸収するのは事実だが、あまりそれに頼りすぎると排出削減への努力がおろそかになるのではないかとの危惧を持っている。もちろん私も森林保全や違法伐採の禁止は必要だと考えている。だがそれを温暖化問題の中心に据えるとなると「ちょっと違うのではないか」という気がする。まして中には温暖化対策に名を借りた林業保護ではないかと疑いたくなるような発言もある(この対策検討チームで聞いたわけではないが)。そうなると違和感はますます募る。

そうは言っても京都議定書に反対する勢力がいる中で、批准に賛成してくれるということ自体はありがたい。この対策検討チームは京都議定書の早期批准を求める署名を党内で集めていた。私はいささか思うところあって署名しなかったが、21日の時点で衆議院議員103名、参議院議員45名の合計148名から署名が集まったということである。理由はどうあれ多くの議員が早期批准を求めることは心強い。奥谷通・環境大臣政務官がこうした農林関係議員の動きについて「思わぬ援軍」と言っていたが、まさに同感である。「同床異夢」と言えなくもないが。

◆2月26日
これまで私は繰り返し、各企業にCO2 の排出量の報告を義務づけるべきだと主張してきた。これは決して突飛な考えではないとも述べてきた。PRTR法では似たようなことをやっているではないかと書いたこともある。PRTR法とは1999年に成立した法律で、化学物質を排出した企業に対してその報告を求めるという内容である。化学物質を出すことそのものを禁じるのではなく、排出することはある程度やむを得なくても、排出量をしっかりと把握して届け出よという法律である。今日あらためてこのPRTR法を読んでみる。同法では健康を損なう恐れがある化学物質と並んでオゾン層破壊物質の排出量の把握も義務づけている。

オゾン層を破壊するフロン類は健康に直接有害なわけではない。オゾン層を破壊することで地球環境に有害なのである。そういう点ではCO2 に似ている。二酸化炭素も直接人体に悪影響を及ぼすものではない。だが地球環境を破壊するという点では問題のある物質である。オゾン層破壊物質の排出量に届け出の義務があるならば、二酸化炭素の排出量にその義務を課すのは少しもおかしくないと思うのだが。

◆2月27日
朝8時30分から党本部702号室で環境部会が開かれる。本日の議題は①温暖化対策推進法の改正案、②鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の改正案、③自動車リサイクル法案だった。ちなみに②にカタカナを使ったのは現行の同法がカタカナ書きのためである。改正の狙いの一つは条文のひらがな書き・口語化にあるという。

温暖化対策推進法の改正については環境省側が現在検討中の法案の概要を説明した。以前述べたように政府が京都議定書目標達成計画を作成し閣議決定するとか、法定の温暖化対策推進本部を内閣に設置するなどといったことが柱になっている。他には家庭などにおける取り組み推進のため地球温暖化対策診断を実施する、地域での取り組みのため「地球温暖化対策地域協議会」を設置するなどがうたわれている。また森林整備等による吸収源対策を推進することも含まれている。いずれにせよ私が主張している各企業のCO2 排出量の公表義務は盛り込まれていない。

本日の部会では私は発言しなかった。ずっと聞き役に回っていたが、温暖化に対しては「森林の保全が重要だ」という意見が多かった。これは決して間違いではないが、次から次へと森林の重要性ばかり聞かされると疑問なきにしもあらずである。CO2 の排出削減こそ温暖化対策の本筋のはずだからである。 その本筋の議論をおろそかにしたまま吸収源の話ばかりするのはいかがなものだろうか。

◆2月28日
いよいよ2月も終わりである。経済産業省に情報開示請求をしたのが今月1日だから約1か月が過ぎた。情報公開法によれば請求を受けた省庁は30日以内に開示か不開示かの決定をしなければならない。その決定が出るのもまもなくだろう。しかし請求以降、経済産業省側からは何の連絡もない。

そう思っていたところ昼に古屋圭司経済産業副大臣と会った。「情報公開請求については事務方から報告を受けているけど、作業にそうとう手間がかかるようだ」と言っていた。そうかもしれない。私が請求した資料は頁数で万の単位になるのでコピーするだけでも大変だろう。その上、なにやら一社一社確認の作業をしているらしい。つまり開示・不開示の決定が遅れそうだということみたいである。原則30日以内の決定ということだが、例外は法律上も認められている。「作業をする上でどうしても時間が掛かるというのであれば仮にそうなってもまあ仕方ないな」と思う。要は情報が公開されることが大切なのだから。

そういえば一昨日の26日夜、若手の国会議員数名で人を招いててんぷら屋に行ったが、その時にも谷本龍哉衆議院議員に「水野さんが情報公開請求したので経済産業省は大変みたいだよ。準備作業に時間が取られちゃって」と言われた。

請求する時点で私も「多分、膨大な作業なので官庁側はたいへんだろうな」とは思っていた。しかし役所に嫌がらせをしているつもりはまったくない。 経済産業省側がすっきりと最初から地球温暖化対策推進法の改正に賛成してくれればよかったのにと思っている。そうすればあえて情報公開請求はしなかったのだから(このあたりは1月29日の項を参照)

◆3月4日
2月1日に経済産業省に情報開示請求をしてから今日で32日が過ぎた。いよいよ開示・不開示について同省の態度が示される時である。本日、議員会館の私の事務所に北海道経済産業局から通知が郵送されてくる。消印は3月2日である。結論から言えば、開示するかどうかの決定を先送りするという内容である。情報公開法は原則として請求から30日以内に態度を決定することを定めている。ただし例外も認められている。同法第10条2項、11条にはその例外が規定されている。今回はこの第11条を行使したというわけである。参考までに北海道経済産業局からの通知の全文を掲載する。

平成14・2・28開示北海第1号
平成14年3月1日
開示決定等の期限の特例規定の適用について                          (通知)
水野賢一事務所様
北海道経済産業局長 高橋はるみ
平成14年2月1日付けの行政文書の開示請求については、下記のとおり、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第11条の規定(開示決定等の期限の特例)を適用することとしたので通知します。

1 開示請求のあった行政文書の名称
エネルギーの使用の合理化に関する法律第11条に基づく定期報告書(様式第4及び様式第5の第2表以下を除く)平成12年度分(平成13年5月提出分)
2 行政機関の保有する情報の公開に関する法律第11条の規定 (開示決定等の期限の特例)を適用することとした理由
開示請求に係る行政文書に複数の法人(第三者)から提出されてきた情報が大量に含まれており、当該法人に対する意見照会のための期間を十分に与える必要があるほか、提出されてくる意見を踏まえた開示・不開示の検討を慎重に行う必要もあり、期間内に開示の可否についての決定を行うことが困難なことから、そのすべてについて60日以内に開示決定等を行うことができないため。(当局の場合、開示請求に係る行政文書について、該当する法人(第三者)の数は108にわたる。)
3 開示決定等する期限
(平成14年4月5日までに可能な部分について開示決定等を行い、残りの部分については、次に記載する時期までに開示決定等する予定です。)平成
14年5月7日(火)
 
*担当課等:北海道経済産業局環境資源部エネルギー対策課
電話 011-709-2311 (内線)2635
以上が北海道経済産業局からの通知である。このような通知が7日までには各経済産業局から続々と届いた。東北経済産業局、四国経済産業局からは書留配達証明で来た。中部経済産業局と中国経済産業局は簡易書留である。近畿経済産業局、北海道経済産業局は速達、関東経済産業局、九州経済産業局は普通郵便である。
文面はほぼまったく同じなので、異なる部分だけを表にまとめてみた。
開示決定等の期限 該当する法人数
北海道経済産業局 5月7日 108 東北経済産業局 6月4日 約300 関東経済産業局 8月5日 約1500 中部経済産業局 7月4日 約680 近畿経済産業局 7月4日 約660 中国経済産業局 6月4日 約340 四国経済産業局 5月7日 約144 九州経済産業局 6月4日 約330

cf. いずれも4月5日までに可能な部分の開示決定等を行い、残りの部分  については上記の期限までに決定するとしている。

◆3月5日
朝9時から党本部706号室で外交部会・外交調査会合同会議が開かれる。外務省側からは事務方の他に、私と今村雅弘衆議院議員の二人の大臣政務官が出席した。本日の議題は今国会に提出予定の条約についてである。外務省は今国会にすでに8本の条約を提出している。そしていま新たに7本を追加して提出しようとしている。この7本の提出について自民党内の了解を得るのが本日の主題である。

京都議定書もこの7本の中に含まれている。京都議定書は条約扱いなので自民党内では外交部会で議論され、国会では外務委員会で審議されることになる。一方、6%削減のための国内法は党内では別の関係部会で議論される。例えば地球温暖化対策推進法は環境部会、省エネ法の改正は経済産業部会という具合である。ちなみに本日の外交部会に上程された残りの条約とは受刑者移送条約、テロ資金供与防止条約、実演・レコード条約、世界知的所有権機関設立条約改正、エネルギー憲章条約、エネルギー効率等に関するエネルギー憲章議定書の6本である。

外務省の林景一条約局審議官がこれらの条約について概要を説明した。本来ならばこのあと出席議員たちから様々な質疑応答があるはずである。まして京都議定書は注目度が高い。賛否両論も渦巻いている。私も一悶着はあるかなと覚悟はしていた。もちろん私は「いかに反対があろうと批准を断行すべきだ」という考えのもと、この会議に臨んだ。ところが7本の条約の説明が終わると何の異論もないままに、あっさりと「異議なし、了解」となった。

というのも外務省は昨日、鈴木宗男衆議院議員による不当な圧力について調査報告書を発表した。「ムネオハウス」に加えて国後島の桟橋工事にまで鈴木氏が介入していたことが明らかになった。皆の関心はこちらに集中していたのである。本来、今日の会議では鈴木議員の件は正式の議題ではなかった。だがほとんどの参加者はこれについて議論したがっていた。 そのため他の案件はさっさと切り上げたいという雰囲気だったのである。京都議定書があっさりと承認されたのはいささか拍子抜けだった。ただ異論がないままにすんなりと了承されたこと自体は喜ばしい。ともあれちょっと妙な気分でもある。

午前中、環境省の地球温暖化対策課の竹内恒夫課長が議員会館にくる。温暖化対策推進法の改正について話す。話をしている中で東京都のCO2 への取り組みに興味を引かれたのであとで調べてみた。東京都は環境確保条例によって都内にある一定規模以上の事業所に対して「地球温暖化対策計画書」の作成・提出を義務づけている。この条例は昨年4月に施行され、今年4月以降は1100の工場などが実際に計画書を作成しなければならない。もちろんこうした事業所は現状の温室効果ガスの排出状況も把握・公表することになる。まさに私がこれまで繰り返し主張していることを自治体レベルでやっているのだ。三重県でも昨年10月に施行された「生活環境の保全に関する条例」に基づいて同様のことが実施されている。すでに先進的な自治体はこうした取り組みをしているのである。なぜ国はやろうとしないのだろうか。

◆3月6日
京都議定書の今国会での批准は小泉内閣の方針である。与党のうち自民党外交部会は昨日これを了承している。公明党も同様である。ただ保守党内では井上喜一・政務調査会長がかなり強く異論を唱えているらしい。どこの党にもこういう人がいるようだ。

◆3月7日
朝8時半から党本部707号室にて環境部会が開かれる。私を含め20名ほどの議員が出席。正面には環境部会長の山本公一衆議院議員、部会長代理の西野陽衆議院議員、党環境基本問題調査会長の自見庄三郎衆議院議員、環境大臣政務官の奥谷通衆議院議員が座る。本日の議題は地球温暖化対策推進法の改正案と鳥獣保護法の改正案である。両法案の国会提出の了承を得ることが狙いだった。

最初に加納時男参議院議員が発言したあとに私が発言する。少々長くなるが、自分の発言を引用する。 「地球温暖化対策推進法の改正についてですけれども、私は一言で言うならばこの改正案に賛成しかねると思っています。理由は簡単に言えば不十分だということであり、もっと言うならば法律を改正するにあたっての基本的な心構えが間違っていると思うわけです。どういうことかというと法律を改正する以上、現行法に問題点があるからこそ改正するのだから、現行法の問題点を調べてそれを改正するというのが基本的なあり方だと思うわけです。では現行の地球温暖化対策推進法の何が問題かというといろいろある。その中で最大の問題点は守られていないということです。では守っていないのは誰か。はっきりいえば政府が守っていないんですよ。例えば現行のこの法律は政府に対して温室効果ガスの排出抑制のための実行計画を作れと定めているわけですね。この計画を作っていますか、局長どうですか。イエスかノーかで答えてください。(岡沢和好・環境省地球環境局長が「作っていません」と答える)作っていないわけですよ。数年前にできたこの法律で政府は計画を策定することを義務化されているにもかかわらず作っていないわけですよ。この部分というのは現行法の枝葉ではなく、一番メインの柱の部分であるにもかかわらず作っていない。その問題にまったく触れていない。先程の説明の中でさえ何も触れていない。そういう改正案というものが果たして十分なのかというのは疑問に思っています。

他の部分についても言えば、現行の地球温暖化対策推進法は企業・事業者に対しても温室効果ガスの排出抑制計画を作ることを努力義務として求めています。ではどのくらいの企業が作成していますか。分からないはずです。きちんと調べていないんだから。こういうことを是正することこそ改正案に盛り込むべきなのに盛り込まれていない。私は基本的にこの改正案は不十分だと思っています。ではどういうふうに改正すべきかといえば、例えば事業者に対しては温室効果ガスの排出抑制計画を作成することを明確に義務化するとか、期限を決めて明文化すべきだと思う。もちろん政府が自分自身で実行計画を作るのは言わずもがなのことです。

私が今いっていることは決して突飛なことではない。例えば東京都は石原都知事のもと今年の4月から環境確保条例で私がいま言ったようなことを都独自にやることになっている。環境確保条例は去年施行されていますからね。だから決して突飛なことを言っているわけではない。そういうことがなぜ法律の改正案に盛り込まれなかったのかをお伺いしたいし、このままでは了承することにいささか疑義があることを申し上げたいと思います」

実は私は同法の改正案に頭から反対なわけではない。現行法より一歩は前進したと思っている。ただ三歩進むべきところを一歩しか踏み出していないという不満を持っているのである。逆に改正案が潰れてしまってはその一歩さえ踏み出さないことになってしまう。本音のところではそれも避けたい。

私の意見に対して、環境省の岡沢地球環境局長が答弁した。だが十分満足できる答えとは言いがたかった。私はさらに次のように発言した。「私は何もこの法律が全部間違っていると言っているわけではない。方向性がまったく間違っているとは言わないけれども、踏み込み方が甘いと言っているわけですよ。そういうことを念頭に置いた上で今後しっかりと対応してほしい。なにも『この法案を通さない』と言っているわけではないのであって、しっかりとした対応を求めているのだ。例えば現行法でも政府に義務づけられている排出抑制の実行計画を早急に作るべきです。またさっき指摘したように東京都も各事業者に温室効果ガスの排出状況を報告させることをやり始めようとしているわけですから、それをしっかりと研究し、踏まえた上で前向きに対応してもらいたい」

これに対して山本部会長が「今の水野先生のご指摘は極めて重要なことだと思います。これから目標達成計画などがありますが水野先生の意見を十分考慮して作業してもらえばと思います」と受け、岡沢局長もこれを約束したので、私も法改正を了承した。

このあとも数名の議員が発言したが、本日は「環境省よ、もっとしっかりしろ」という類の発言が多かった。1時間ほどの議論を終えて、環境部会としては地球温暖化対策推進法と鳥獣保護法の改正案を了承した。  環境部会で了承された地球温暖化対策推進法は本日の政調審議会(政審)にかけられることになった。御存じの方も多いとは思うがここで自民党の意思決定システムについて簡単に触れておく。政府が国会に提出する法案は与党である自民党で三段階の了承を経てから提出されるのが慣例となっている。 これが最近話題になっている法案の事前審査制度である。第一段階は部会である。自民党には外交部会、国土交通部会、経済産業部会など12の部会がある。通常、部会長は当選3回くらい(衆議院議員の場合)の議員がつとめる。次が政審である。これは政務調査会長もしくは政調会長代理が出席しての会議である。そして最後が総務会である。これは日常業務に関する党の最高意思決定機関であり、党五役はすべて出席する。

京都議定書は昨日の外交部会で了承され、地球温暖化対策推進法は今朝の環境部会で了承されたので、これらが第二段階目の政調審議会の審査にあげられたわけである。ところが異変はここで起こった。外交部会から上ってきた7本の条約のうち6本はすんなりと了承されたが、京都議定書だけが了承されなかったのである。部会と違って政審は誰でも参加できるというわけではない。基本的にはメンバーだけが出席する。私はこの構成員ではないので出席していない。そのため詳しい状況は分からないが、出席者によると麻生太郎政調会長自身が本日の了承に待ったをかけたようである。他にも慎重論を唱えた人がいた。慎重派の論拠は次のような点である。

・米国、中国が参加しない中で日本が議定書に束縛されるのはおかしい。日本経済に悪影響を与える。 ・米国などに対して十分な外交的働きかけをしたのかが疑問 ・5日の外交部会で事実上、なんの議論もなかった もちろん反対論一色だったわけではない。臼井日出男衆議院議員や鈴木恒夫衆議院議員などは批准を推進する立場から発言している。だが結局は本日の京都議定書了承は見送られることになった。温暖化対策推進法の方は内容面では問題なしとされたが、京都議定書が了承されないのにこちらだけ認めるのはおかしいということで政調会長預かりという形になった。

政審を通過しなかったという報はすぐに入ってきた。環境省の奥谷大臣政務官からも外務大臣政務官室に電話がある。この段階ではまだ多少情報も錯綜している。外交部会に差し戻しになったという話もあれば、政審で了承されなかっただけで差し戻しではないという声もある。もし差し戻しならば外交部会の了承をもう一度やり直すことになる。いずれにせよ巻き返しに転じなければならない。

4時から党本部704号室で温暖化対策特命委員会が開かれる。これにも出席する。亀井久興委員長から本日の政調審議会に関して話がある。この場の議題も京都議定書や地球温暖化対策推進法についてである。特命委員会は了承機関ではないが、各部署で十分に審議を尽くせということなのだろう。議定書批准を積極的に求める声と慎重な声は相半ばするというところだった。慎重派も必ずしも「批准絶対反対」と言っているわけではない。

「私は批准に反対なわけではありませんよ。ただし…」という論法が多い。加納時男参議院議員がよく使う表現で言えば“Yes,but…”なのである。そしてbutから先が長いのが特徴である。この席での私の発言の大意は次の通り。
「いまや京都議定書の批准というのは日本の環境政策を占う象徴的な問題になっている。政府も議定書に署名をした、首相も早期批准の方針を打ち出している、国会も衆参両院で昨年の4月全会一致で早期批准を決議している。それにもかかわらず批准ができなかった、もしくは遅れたということになれば日本の環境政策は大幅に後退したというように世界に見られてしまう。私はあくまでも早期批准を求めます。

確かに京都議定書というのは妥協の産物であり100%完璧なものではないでしょう。いろいろと問題点を指摘することもできるでしょう。しかしこれに代わる国際的合意がないというのもまた事実です。議定書にあれこれ言いたい人たちの主張もまったく分からないわけではない。ただ日本がそれを言い出せば、日本だけでなくどの国も自分たちの理屈を言うはずである。ちょうどアメリカが京都議定書には不備があると言って出てしまったように。どの国も自分の都合を言い出してしまえば結局、温暖化対策というのは成り立たないのです。私は早期批准を求めます」

5時半に外国からの客が外務政務官室に来る予定になっていたので途中で退席する。最後までいた人から内容を聞くと、本日の会で特別結論めいたことを出したわけではないようだ。

◆3月8日
3月7日の項に書いた通り、昨日自民党の政調審議会で京都議定書が了承されなかった。これは憂々しい問題である。私は初当選以来、環境問題に力を注いできたつもりである。その点、まずは一人の政治家として非常に残念に思う。それと同時に私はいま外務大臣政務官という職にある。この職務上からも大変深刻な事態だと受け止めている。京都議定書というのは国際的な条約である。しかも日本が議長国になって取りまとめた約束である。もちろん日本政府は署名している。98年4月28日のことである。それを批准できなかったということになれば、国際的な背信行為との謗りを免れない。 日本外交の汚点になってしまう。

それだけに大臣政務官として批准のため全力を尽くしていく覚悟である。各方面に働きかける努力も惜しまないつもりだ。ただこのホームページ上でその活動のすべてを書くことは難しくなってきた。経済産業省に情報開示請求をして以来、この「温暖化対策日誌」にできるだけ詳しく地球温暖化への取り組みを書き綴ってきた。情報公開請求はあくまでも水野賢一個人の行動だったのでそれで問題なかった。だが政務官としての仕事となるとやや違ってくる。職務上知り得たことをすべて書くわけにもいかない。また反対勢力も多い中で手の内をすべて明かすわけにもいかない。書いてしまうことが批准にマイナスに働くということを今の時点では何よりも恐れる。しかし一方でこれだけ重要な問題である。また国民の関心も高い。できる範囲で状況の報告を続けていきたいと思っている。

本日、河本英典外交部会長はじめ昨日の政審に出席していた議員や関係者の数名に会う。だいたいの様子を聞いた。どうやら外交部会への差し戻しが決まったというわけではないようだ。ちなみに昨日の政審で了承された京都議定書以外の6本の条約は本日11時からの総務会に上程されここでも了承され、党内手続きは完了した。総務会で京都議定書についての話はなかったという。

本日午後1時から党本部で今度新たに発足する予定の「低公害車等普及推進議員連盟」の発起人会が開かれる。この時も顔を合わせた環境派の議員とは昨日の政審の話になる。その他、外務省幹部、環境省幹部、NPOの人たちと会ったり電話で話したりする。

◆3月9日
今朝の読売新聞の一面トップ記事として政府の地球温暖化対策推進大綱の新案の内容が出ている。これによれば2010年度には90年度比で産業部門のCO2 排出量を7%削減、民生部門で2%削減を目指すことになる。2月6日の項にも書いたが私は新大綱には部門別の削減量を明記すべきだと考えているのでこれは歓迎すべきことである。ただ7%、2%といった具体的な数値については初耳である。
夕方、私の選挙区の千葉県八街市の人の結婚式に出る。臼井日出男衆議院議員と隣の席になったので一昨日の政審の話をする。批准に前向きな姿勢は実にありがたい。

◆3月11日
外務大臣政務官として京都議定書の「ご説明」として何名かの自民党議員のところを歩く。要は反対派を宥め、賛成派を増やす根回しである。こうしたことはあまり好むところではないし、得手でもないが、この際好き嫌いは言っていられない。議定書批准のためである。下げたくない頭を下げることも必要とあればせざるをえない。法案でも条約でも反対する理由として、中身が気に入らないということはもちろんある。だがそれ以外に「事前に説明がなかった」ということで妨害されることも往々にしてある。「俺は聞いていない」という反対論である。こうしたことを防ぐためにも丁寧な説明が求められる。この点、どうも外務省には丁寧さが欠けていたようにも思える。京都議定書の場合は外務省・環境省の双方に深く関係しているが、環境省に比べても要所要所への根回しが足りなかったような気がする。もちろん私一人で関係者すべてを回れるはずもないので手分けはする。各議員から出た意見などは夕方、川口大臣に会った時に伝えた。

それにしても産業界は「議定書は経済に悪影響を与える」として反対・慎重論を説くが、本当にそうなのだろうか。京都議定書の経済的影響については様々な試算があるが、GDPへの影響は最大に見積もっても年率にすれば0.1%足らずのものである。そのうえ排出量取り引きを利用すれば経済への影響はもっと小さくなるとも言われている。もちろん環境ビジネスの創出など経済へのプラス要因も勘案すべきである。環境規制が産業界に負の影響のみを与えるというのは早計である。かつて日本の自動車産業はマスキー法という米国の排ガス規制によって窮地に立ったかに思われた。しかし技術者たちはこれに対応した自動車を生み出し、かえって輸出競争力を増したことがある。今回もいたずらに議定書を恐れるのでなく、むしろ新たな好機と捉える心構えが産業界に求められている。

◆3月12日
自民党総務会が開かれる。京都議定書は政調審議会で止まったままなのでまだ総務会の正規の議題にあがっているわけではない。しかし後藤田正純、野中広務の両総務から京都議定書に前向きの対応を求める発言があった。ちなみに私は現在、総務会のメンバーではないので以上の話は関係者から聞いたものである。総務会は毎週火、金の2回開かれる。私も党の青年局長をつとめていた昨年5月から今年1月まではこれにオブザーバー参加していたので、だいたい雰囲気は分かるが、ここでの発言は重い意味を持つ。こうした発言を受けて山崎拓幹事長が議定書に慎重な姿勢を示す議員に電話をして説得したらしい。こうして党内調整は徐々に進んでいく。
一方、私も昨日に引き続き政調審議会のメンバーの数名の部屋に行き、議定書への理解を求める。

夕方、議員会館で『環境新聞』という専門紙のインタビューを受ける。温暖化対策推進法の改正や情報公開請求について話をした。このインタビューは同紙3月20日号に掲載される。他の新聞記者も取材に来たので温暖化問題について持論を言う。

◆3月13日
引き続き党所属国会議員のところを回り議定書への理解を求める。もっとも本日私自身が訪問したのは一名だった。もちろんこうした「ご説明」のために回るのは私だけではない。とてもでないが一人で回れる人数ではない。

行く対象になったのは政調審議会、総務会、温暖化対策特命委員会のメンバーや国対・議運幹部、さらにはその他の党幹部などに及ぶので自民党議員だけで100名は超える。もっとも中には「わざわざ来なくても賛成するから大丈夫」あるいは「資料だけ貰えればそれで結構」という人もいるから全員のところを訪ねるわけではないが、それでも数が多い。そこで私や事務次官、外務省条約局、国際社会協力部、経済局などの人間が手分けをして回った。

議定書の批准が経済に悪影響を与えると懸念する人に対しては、私の方からは特に次の二点を力説した。
①温暖化対策は新たなビジネスチャンスにもつながる
②仮に経済にいくらかの悪影響をあるとしても、温暖化が進行してから対  策を講ずるともっと深刻な経済的影響が出る。病気と同じで早期に手当  てすることが大切。
こうした動きの甲斐も多少はあったのかもしれないが、だいたい今後の日程が見えてきた。19日の党政調審議会で再び京都議定書を議題として取り上げ了承し、引き続き同日行なわれる総務会に諮り了承を得るという流れである。この分でいけば当初の予定よりは10日余り遅れるが、なんとか自民党の党内手続きが終わり、国会提出への目途がつきそうだ。

◆3月14日~28日
多忙を言い訳にしてはいけないのだが、ついついこの温暖化対策日誌にも合間があいてしまった。3月14日から28日までにかけての2週間の動きをここでまとめて書いてみたい。ちょうどこの時期が京都議定書を国会に提出するまでの過程にあたる。予定よりも大幅に遅れたがなんとか国会提出にはこぎ着けた。それを振り返ってみる。

毎年1月に開会される通常国会の会期は150日である。今年は1月21日に召集されたので会期は6月19日までになる。通常国会は前半で来年度予算案を集中的に審議する。予算は新年度に間に合うべく3月末には成立することが望まれるからである。今年の場合は予算案の審議中に田中真紀子外相の更迭、鈴木宗男疑惑の浮上という波乱があったが、3月27日に予算は成立した。予算の可決後が後半戦である。ここでは重要法案の審議が行われる。

そこで政府が国会に法案を提出する時期も大ざっぱに分けて二段階に分かれている。予算関連法案は2月15日までに提出し、一方、予算関連以外の法案・条約は3月15日までに提出するのが目途となっている。先に述べたように国会は6月まで開催されてはいる。だが会期末ぎりぎりに法案が提出されても審議時間が足りないということになりかねない。審議未了で廃案という事態を避けるためにも期限を守って早めに法案が出されることが望まれている。

京都議定書は条約の一つであるが、予算関連ではないので3月15日までに国会提出することが求められていた。そして実際には少し余裕を持って3月12日に閣議で決定し、国会に出すという道筋を描いていた。それに間に合わすために3月5日の自民党外交部会での了承、7日の政審、8日の総務会での了承という予定だったのは前述した通りである。ところが 日の政審で了承されなかったことから予定が大きく狂ってきた。

この日誌の3月7日の項で触れたが、現在、政府が国会に提出する法案・条約は与党で事前に承認を得る慣行になっている。これがいわゆる法案の事前審査制である。この事前審査は法的に根拠があるわけではないが昭和37年から慣行として行なわれ、現在では完全に定着している。最近では小泉首相がこれを改めようとして話題を集めている。余談になるが私は以前はこの事前審査制の廃止には疑問を持っていた。だが京都議定書の場合、事前審査の段階で与党内の抵抗を受け、遅延を余儀なくされた。 こうした事例を目の当たりにすると事前審査という慣行についても考え直さなければならないと思い始めている。

京都議定書の与党審査で一番早く反応したのは公明党である。公明党は7日に党内手続きを終えた。問題は自民党と保守党だった。自民党では7日の政調審議会で了承されなかった。そのため12日の閣議には間に合わなくなってしまった。閣議は毎週火曜日と金曜日の週2回開かれる。そこで12日(火)の次の閣議は15日(金)となる。そこで最初は15日の閣議決定に間に合わすことも模索されたが、一度党内で待ったがかかった以上、そんなに簡単にことが運ぶはずもない。15日という線はすぐに消えた。

この時点での党内の雰囲気を振り返ってみると、さすがに「議定書は絶対に通さない」という人はほとんどいなかったと思う。議定書に反対・慎重の立場をとる人たちでさえ、批准はやむなしと考えていたはずである。ただ「通すことはやむを得ないがすんなりと通したくはない」という気運が満ち満ちていたというのが正しいところだろう。商工族と呼ばれる人たちの心境を代弁すれば、議定書潰しには走らないまでも一言いっておかなければ気がすまないというものだったのだろう。まあ私自身が地球温暖化対策推進法の改正案に対しては同じような姿勢だったからあまり人のことは言えないのだが(3月7日の項参照)。

議定書批准に向けての党内手続きが停滞した最大の理由はもちろん政策的なものである。京都議定書は経済成長にマイナスだと考える議員が多くいたためだともいえる。だが単に政策論だけではない面もある。いわゆる「根回し」が不十分だったことも指摘される。特にその点で批判の矢面に立ったのが外務省である。

政界では「俺は聞いてない」と誰かが言い出すと進む話も進まなくなってしまうことはしばしばある。内容の議論にはいる前に手続き論で止まってしまうわけだ。それだけに事前の根回しが重要となる。根回しが重要などというといかにも旧態依然とした政治手法を推奨しているようだが、この場合外務省の根回し不足を批判する議員の言い分もある程度は分かる。彼らは言う。「京都議定書の内容を履行するためには国内で多大な努力が必要となる。嫌がる産業界も説得しなければならない。それなのに外務省はそういう努力をしていない。条約を結ぶだけで、あとの難しい国内対策は人任せにしている。自分たちはそういう難しい部分を請け負っているのに、その自分たちに挨拶にも説明にも来ない」という理屈である。

温暖化対策特命委員会の亀井久興委員長が自民党機関紙『自由民主』(4月2日号)で「京都議定書の取り扱いについては、党内で慎重な議論が行われました。そのなかで大きな問題として、外務省に対する批判があったと思います。外務省の姿勢は、極端な言い方をすると『外交交渉の技術屋』のようになってしまい、ただうまくまとめればいいという姿勢が目立ちました」と述べているのも軌を一にする批判といえよう。こうした主張が100%正しいかどうかは別として、外務省としても謙虚な気持ちで批判を受け止めることが必要だろう。

さらに話をややこしくしたのが外務省メモの流出だった。議定書の自民党内審査について触れたメモがどういうわけか一部自民党議員の間に流出した。メモは省内の国際社会協力部関係者が作成したと見られるが、正規の行政文書ではなく私的メモにすぎない。実を言うと私もこのメモは流出後に初めて見たが、特段重要なことが書いてあるわけでもない。私は大臣政務官という職務上、外務省内で様々な“極秘”“秘”などの文書を見ているが、それに比すればたいした内容のものとはいえない。しかしメモの中で「慎重派」などと名指しされた議員からすれば不快に思ったのも無理からぬことだろう。「自分の発言の片言隻句を捉えて慎重派などと勝手にレッテル貼りをするのはけしからん」として外務省への反発を強めた。折しも鈴木宗男疑惑で外務省メモに世間の関心が集まっている時だった。メモによって鈴木氏の入札介入や北方領土不要論が明らかになり同氏を追い詰めたばかりである。多くの政界関係者がメモに対して過敏になっていた。それだけに温暖化をめぐるメモ流出は外務省への風当たりを強めることになった。私からも省内関係者に対してメモ等の情報管理はしっかりとするように指示をしておいた。

繰り返しになるが自民党の法案・条約の事前審査には三つの段階がある。部会・政調審議会・総務会である。京都議定書の場合、この二段階目で了承されずに店晒しになってしまった。そこであらためて政調審議会に諮り、ここで了承される必要がある。以上のような混迷をきたした末、19日(火)の政調審議会で京都議定書は再び取り上げられた。政調審議会は毎週火、木の午前10時から開かれる。ちなみに総務会は毎週火、金の午前11時からである。前回の7日の政審の時には河本英典・外交部会長が説明をしたが、今回は亀井久興・温暖化対策特命委員長が説明をした。そしてついに了承された。ただこの時も麻生太郎政調会長らがメモの話を持ち出し、そのことは翌日の読売新聞でも報じられた。最終段階の総務会にも同19日すぐに諮られた。 ここで京都議定書と温暖化対策推進法が了承された。私自身は政調審議会も総務会もメンバー外なのでこれらの会合には出席していない。こうして最大の問題の自民党の党内手続きは終了した。

だがまだ保守党が残っている。政府側としては当初、保守党の党内手続きは8日に終えてもらうことを期待していた。だが8日の保守党の政調の会合は京都議定書を議題としなかった。15日の政調合同部会では議題として取り上げられるが、了承は得られなかった。それどころかかえって党内に新たに「京都議定書に関する委員会」なるものを立ち上げ、ここで再度議論することになった。このため了承は延び延びになる。この委員長には海部俊樹元首相が就任し、20日に第1回会合を、26日には第2回会合を開いた。いずれも経済界の代表者を招き意見交換をしている。そして同委員会は26日に政府に対して地球温暖化問題についての見解を求める17項目の質問状を提出し、28日朝までの回答を要求してきた。

この質問書の内容自体には特別目新しいものはない。冒頭で温暖化防止を「今日の我々の歴史的使命」と呼びながら、具体論に入ると米国・中国などが不参加の中で日本が6%削減すると競争力の低下や産業の空洞化を招くのではないかと心配し、産業界への規制・税負担を批判し、原発の推進を求めるなどだいたい産業界がこれまで主張してきたことの鸚鵡返しである。ただ一つ気になったのは質問の第4項目と第5項目である。それぞれ次のようなものである。「COP7では、議定書批准国への法的拘束力はないとしているが、その担保はあるのか」「政府は法的拘束力については留保しているが、引き続き、留保する方針か」。 これだけ読むと、保守党は京都議定書には法的拘束力はないと解釈しているように見える。もしそうだとすればとんでもない誤解である。もしくは理解不足である。京都議定書は条約である以上、法的拘束力があるのは当然である。日本が6%、EUが8%といった削減目標を守るのは単なる道義的責任ではなく法的義務なのである。

「COP7では、議定書批准国への法的拘束力はない…」というのも誤解を招く表現である。昨年秋のCOP7では削減目標の約束を守ることができなかった国はどうするかということが話し合われた。不履行の場合にはなんらかの罰が必要になる。そこでそういう国に対しては排出超過分の1.3倍を次期約束期間の割当量から差し引くことが実質合意された。2008~2012年に約束を達成できなかった国は、2013年以降により 多く削減することになるわけである。ただこの1.3倍ということについてはまだ法的義務にするかどうかは国際的な合意をみていない。法的拘束力がない(というよりもまだ未決着)のは、あくまでもこの遵守制度と呼ばれる部分についてであり、議定書そのものには法的拘束力があることは繰り返し強調しておきたい。当然のことながらこのことは政府から保守党に対する回答にも明記してある。

さて政府は保守党の質問に対して28日に回答した。回答は外務事務次官、農林水産事務次官、経済産業事務次官、国土交通事務次官、環境事務次官名で行われた。外務大臣政務官である私のところには回答内容は事後報告だった。
これを受けた保守党はさらに28日に10項目の要請を決議した。主な内容を要約すれば次のようになる。経団連などの意向に忠実なものといえる。 ・政府は米国や途上国の参加に向け最大限努力をすべきだ
・努力しても米国が参加する見通しがなければ、米国を含む世界のすべての国が参加できる新たな国際的枠組みの構築も考慮すべきだ
・遵守義務違反に対する法的拘束力の導入は承認すべきでない
・環境と経済の両立を基本として、規制や新たな税負担を課してはならない。産業界の自主的取り組みを積極的に支援すべき。
・国は地方と協力して原子力の新増設に責任ある支援措置を講じることが重要

法的拘束力の問題にも触れているが、ようやくこれは遵守制度に関してのことだと分かったらしい。
この日は川口順子外相、大木浩環境相が保守党の部屋を訪ねるなどして理解を求めてもいる。だが同党はさらに政府に申し入れをしてきた。 この決議に対しての外相など関係閣僚の見解を書面で欲しいというのである。結局、この要求に対しては政府側は応じなかった。福田康夫官房長官が拒否をし、保守党側も納得した。こうして保守党の了解も得られたということになり、ようやく29日の閣議に京都議定書がかけられることになった。

それにしても長くかかった。今月初旬には1週間くらいで与党内手続きを終え国会に提出できればと計算していた。それが実際には4週間かかったわけである。紆余曲折を経ながらも国会提出にこぎ着けられた背景には、地球環境を守らなければいけないと思う多くの人たちの声があった。そして実際には日本が議長国としてまとめた条約をつぶすわけにはいかないという意識がかなり強く働いたと思われる。日本の都市の名前が付いた議定書を日本が批准しないのはおかしいという感情である。京都出身の野中広務氏が議定書批准に熱心だったのもその一つの表れかもしれない。奥谷通・環境大臣政務官が私に「もしこの議定書に京都という名前が入っていなかったら国会提出まで行かなかったんじゃないか」と言ったが、そうかもしれないと私も思う。ちなみに京都議定書の正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」で英語では“The Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change ”となる。

国会提出の遅れにやきもきしたのにはわけがある。現在、京都議定書を8月末に南アフリカのヨハネスブルグで開催される環境開発サミット(WSSD)に間に合うように発効させようというのが国際社会の目標になっている。環境開発サミットの最終日は9月4日である。議定書は発効要件を満たしてから90日で発効することになっている。それを逆算すると日本としては6月6日までに締結文書をニューヨークの国連本部に寄託しなければならない。そのためには遅くとも5月下旬には国会で成立させる必要が出てくる。その後、締結文書を作成し内閣法制局で精査したり、閣議決定をする時間が必要だからである。つまり会期末までに成立すればいいという一般の法案・条約と違って成立のタイムリミットがあるのだ。もっとも日が経つにつれ、環境開発サミットでの発効という見込みは残念ながら薄くなってきてしまった。これは日本の責任というよりもロシアの動向によるところが大きい。このへんの事情については後述する。
一方、新しい「地球温暖化対策推進大綱」が19日に決定した。これは政府の地球温暖化対策推進本部(本部長・小泉首相)が策定したもので2010年までの温室効果ガス6%削減のための具体策を定めたものである。部門別の削減目標も産業がマイナス7%、民生がマイナス2%、運輸がプラス17%と明記された。

具体的な施策については数が多いのでいちいち論評しないが、重要なのは大綱作成ではなく、二酸化炭素の排出削減である。大綱を作るだけで終わってしまってはならない。旧大綱は98年6月に作られているが、その後、温室効果ガスの排出削減が進んだとは言い難い。現にこれまでの取り組みでは不十分なことは新大綱で認めている。 政府自身が「現行の対策・施策だけでは、2010年の温室効果ガスの排出量は基準年比約7%程度増加になると予測され」と言っている。今後の徹底した対策が必要である。

さて国際社会の中ではロシアの動きが注目された。というのもロシアが加入しないと京都議定書が発効しないからである。京都議定書の発効要件は俗に“55か国、55%”と言われる。まず55か国以上が締結することが必要になっている。これは2月の時点ですでに47か国が締結しているので、要件を満たすのは時間の問題であり、あまり心配する必要はない。懸念されているのが二つ目の条件、つまり55%というものである。これは締約した先進国(条約上は附属書?国という)の1990年の二酸化炭素排出量の合計が先進国全体の90年の二酸化炭素総排出量の55%を超えることが必要だというものである。ここはちょっとややこしい。1990年の先進国(附属書I国)の二酸化炭素排出量を100とすると、そのうち米国が36.1%を占めている。EUが24.2%、ロシアが17.4%、日本が8.5%、カナダが3.3%となる。これらのうち京都議定書に参加する国の排出量を足して55%を超えなければならないという意味である。逆に言えばアメリカが不参加を表明している現在、残る先進国がすべて参加すれば100-36.1=63.1%で条件を満たすことができる。だがアメリカ・ロシアの両国が不参加になってしまえばこの条件がクリアできない。議定書の発効要件は“55か国、55%”の双方を満たすことなので、ロシアが参加せず二番目の条件が満たされなければ京都議定書は死文と化してしまう。

そこで環境に関心を持つ多くに人々がロシアの行方について注視することになった。川口外相もイワノフ外相に3月13日付で書簡を出し、早期の議定書締結を求めた。どうもロシア国内ではこの問題について省庁間の対立があるらしい。水理気象環境モニタリング庁が批准に慎重で、経済発展貿易省、天然資源省などは前向きということである。こうした中、3月14日に閣議を開き政府としての姿勢を打ち出すと見られていた。しかし結局、この閣議は延期される。こうして早期批准は遠くなったという雰囲気が強まっていく。 実を言うと与党内手続きに遅れが出ている時、私が真っ先に懸念したのはロシアなど諸外国に与える影響だった。どこの国にも温暖化対策に消極的な人はいる。日本が批准に逡巡しているという印象を持たれると他国の批准反対派に絶好の口実を与えることになりかねない。「アメリカに続き日本も消極的である以上、わが国だけが突出して条約を批准する必要はない」という声を助長してしまう。そうなると悪循環である。日本の手続きの遅延がロシアの消極姿勢を招いたとは思わないが、結果としてこうした事態に至っているのは残念なことである。

3月27日の読売新聞夕刊は“露の批准、今秋以降に”という記事を載せた。これはあくまでも同紙記者にロシア政府の当局者がそういう見通しを語ったというだけで、ロシア政府として新たな発表をしたわけではない。だがこのまま行くとヨハネスブルクサミットで京都議定書を発効させるというのは極めて難しくなってきた。

その他、3月27日には京都議定書について博士論文を書いているという東京大学大学院研究生のドイツ人女性がインタビューに来た。お役に立てたかどうかは分からないが、昨年の国会決議や最近の党内手続きなどについて答えた。  ところでこの日誌を書き始めたのも元はと言えば経済産業省への情報開示請求からだった。だが3月14~28日までの間には情報公開請求関係では特に動きはなかった。

◆3月29日
ついに本日朝の閣議で京都議定書の承認案が決定された。同時に京都議定書の達成を担保するための国内法、つまり地球温暖化対策推進法も閣議決定された。双方ともにすぐに国会に提出された。あとは衆議院での審議開始を待つだけである。といっても国会というところは法案が提出されたらすぐに審議が開始されるとは限らない。審議開始を促さなければならないのだ。成立までの道はまだ半ばである。
一方、自民党本部では朝、久し振りに温暖化対策特命委員会が開催された。本日の議題は19日に決まった温暖化対策推進大綱についてである。全体で十数名の議員が発言した。まず最初に出た意見は「温暖化対策の最強の四番打者は原子力発電。この推進を怠ると6%削減の計画は崩壊してしまう」というものだった。続いて森林の保全・林業育成を求める声が複数の議員から出た。これに対しては亀井久興委員長から「こうした特命委員会の声を受けて総理の2月の施政方針演説には森林の話を入れてもらった」と応じた。原田義昭衆議院議員からは「踏切で自動車が一時停止することをやめればかなりのCO2削減になる。これは一銭もかけないでできる温暖化対策だ」との意見が出た。山本公一衆議院議員(環境部会長)は石炭火力発電所について重要な指摘を行なった。「CO2を多く排出する石炭火力が増えている。その背景として国内炭の保護ということが言われてきたが、いまや輸入炭の時代になった。その中で石炭火力が一基でも新設されるようなことがあれば問題だ」という発言だった。

その他、玉石混淆いろいろな意見が出た。米国・途上国の参加問題や民生分野の対策の重要性といったお決まりのものもあれば、今後の国会審議のやり方、さらには飛行機の飛び方まで様々な声があった。飛行機の飛び方というのは大阪選出の衆議院議員から出てきたものである。関空に着陸する前の航空機が上空を旋回しているのは燃料の無駄使いなので工夫すべきだということらしい。多方面にまたがりいろいろな意見が出るというのはそれだけ温暖化対策が経済社会全般に関わってくることの証左といえるかもしれない。私自身は本日は聞き役に回り発言はしなかった。
 

経済産業省への挑戦状(上)

2002.02.04

「経済産業省への挑戦状(上)」
~情報公開請求へ~CO2の排出量を公開せよ!温暖化対策に消極的な経産省を水野賢一が撃つ。

◆省エネ法の情報公開を請求
2002年2月1日、情報公開法に基づいて経済産業省に対して情報開示を請求した。情報公開法は昨年4月に施行されている。経済産業省の情報公開推進室によれば、年末までの9か月間で同省関係の開示請求は700件余りあったそうである。ただし国会議員からの請求は今回が初めてだという。その点、私の行動は奇異に受け止められたかもしれない。だがこれはやらざるを得なかったとも思っている。

私が請求したのは全国の主要工場がどれだけのエネルギーを使用しているかの資料である。例えば新日鉄(別に東芝でもトヨタでもいいのだが)の○○工場がどれだけの原油や石炭、さらには天然ガスや電気などを使用しているかといった情報の提供を求めたのである。一定の規模以上の工場は省エネ法によって燃料や電気の使用量を経済産業省に報告する義務がある。だがこれらの数値は経済産業省が抱え込んだまま公表されていない。そこでその開示を求めたわけである。

◆公開請求の理由
なぜこうした資料を請求したのか。話は地球温暖化に関係してくる。地球温暖化は21世紀の最重要の環境問題となっている。温暖化を食い止めるには二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出削減が不可欠である。そのためには各界各層の努力が必要である。とりわけ産業界は国内の二酸化炭素排出量の約4割を占める最大の排出源となっている。この産業界からの排出削減が喫緊の課題であることはいうまでもない。

ところが現在どの企業がどれだけの温室効果ガスを出しているかは必ずしも明らかではない。公表の義務がないからである。排出量が分からないということは、どこがどれだけ削減努力をしたかも分からないわけである。もちろん自主的に公表している例はいくらでもある。例えば旭化成は年間520万トン、日立製作所は306万トンの二酸化炭素を出していることを明らかにしている。だが公表していない企業が多いのもまた事実である。

本来、こうしたデータは公開されて然るべきである。公開したからといって急に排出量が減少するというわけではないだろう。それでも野放図に排出することへの心理的歯止めにはなりうる。そこで私は公表の義務づけを主張し、各方面に働きかけてきた。しかし残念ながら今のところこの意見が現実化する目途はたっていない。

とはいえ現行の制度でも各社の二酸化炭素排出量を推定する道がないわけではない。省エネ法によって主要工場はエネルギー使用量を経済産業省に定期報告している。エネルギーの使用量が分かれば、事実上、二酸化炭素の排出量を把握できる。何をどれだけ使ったかが分かれば、それに一定の係数を掛けることによって二酸化炭素排出量に換算することができるからである。ところが経済産業省はこの資料を保管したままで外部に出すことを拒否している。私も一国会議員として資料請求をしていたが、経済産業省の姿勢は変わらなかった。そこで今回、法に基づく情報公開請求に踏み切ったわけである。

◆守られていない温暖化対策推進法
以上述べたように、今回の情報開示請求は代替策といえる。企業に二酸化炭素排出量の公開義務がない中で、燃料・電気などの使用量によってこれを推計しようというわけである。私の考えの基本はあくまでも企業に温室効果ガスの排出量の公表を義務づけるべきだというものである。企業に公表を義務づけるためには地球温暖化対策推進法の改正が必要になってくる。このあたりについてやや詳しく述べてみたい。

1998年、地球温暖化対策推進法が成立した。京都会議の翌年のことである。この法律は第9条で、事業者に温室効果ガスの排出抑制計画を作成するように求めている。きちんと計画を立てさえすれば、エネルギーの使い方に気を配るようになり、省エネにも努めるだろうという発想である。ただし計画の作成は明確な義務ではなく、努力義務とでもいうべき規定になっている。法律の文言は「計画を作成し、これを公表するように努めなければならない」となっている。つまり計画を作成することを求めてはいるが、作らなくても違法とは言い難い。ちなみに作成期限も定められていない。
こうした規定の下で実際にどれだけの企業が計画を作成したのかに私は興味をもった。そこで昨年秋に水野賢一事務所として実態調査を行なった。東証一部上場の全社にアンケート票を送付し、計画を作成しているかどうかを尋ねたのである。結果は次の通りだった。
・すでに作成した 41.9%
・企業としては作成していないが業界団体などで共同して作成した 13.9%
・企業全体としては作成していないが事業所などで作成した 6.4%
・まだ作成していない 27.5%
・その他 12.1%

アンケートの回収率は26.1%だった。決して高い数字ではないが調査票を郵送する手法を採った割にはまずまずの率だともいえる。だがこういう調査では環境への取り組みに自信を持っている企業ほど回答率が高いのに対し、そうでない企業は回答してこないということは容易に想像できる。つまり「まだ作成していない」企業は先にあげた27.5%を大きく上回っていると考えられる。
東証一部上場といえば日本を代表する企業である。そうした企業の間でさえ、計画を作成していない会社が多く存在することが明らかに

なった。温暖化対策推進法の理念は十分に生かされていないのである。 (このアンケート調査については『水野賢一ホームページ』の“水野賢一の主張”01年11月20日、11月23日の項に詳説してあるのでご参照いただきたい)

◆CO2 排出量を把握していない企業も
さらにこの調査によって多くの企業が自社の排出しているCO2 の量さえ算出していないことも判明した。これは極めて憂々しい問題である。現在どれだけ排出しているかを把握することは削減の大前提といえる。削減計画を作ろうにも現在どれだけ排出しているかを把握していなければ、計画の立てようもないからである。しかしこれが現実なのである。

そこで私はまず地球温暖化対策推進法を改正して各企業に排出量の把握と公開を義務づけるように主張してきた。もちろん温暖化対策は多岐にわたる問題である。これだけで事足れりというはずもない。排出量の把握というのは基本的な第一歩にすぎない。だがこれさえできていない以上、せめてこの程度のことは早急に実施すべきだと考えたのである。

このことは決して私だけが言っている突飛な案ではない。地球温暖化を心配する多くの人が賛同してくれている。環境省も昨年秋のの時点ではこの方向で動いていた。さらに企業が公表する数値が正しいかどうかを検証しうる第三者機関を設置することも検討されていた。

◆骨抜きになった改正法案
今年1月に開会した通常国会では京都議定書の批准に向けての審議が行なわれる。批准は日本が温室効果ガスの6%削減を国際的に公約することを意味する。そこで政府も温暖化対策推進法の改正に動きだした。二酸化炭素の削減に向けて対策を強化するためである。しかしこの改正案には肝腎の各企業の排出量公表は盛り込まれなかった。昨年秋の時点からみれば大きな後退である。 これでは骨抜きの改正案としか言い様がない。

企業の公表義務が見送られた背景には、経済産業省と産業界の猛烈な反発があった。推進派の環境省と絶対反対派の経済産業省のせめぎあいの中で、とりあえずは後者の主張が通ったといえる。関係者の話を総合すると、環境省としては今国会では京都議定書の批准が絶対の命題であり、そのためには他の部分で譲歩することもやむなしと考えていたようである。企業の義務に固執し続けると、経産省・産業界のさらなる反発を呼び起こし、批准そのものまで危うくなりかねないという判断があったものと思われる。確かに産業界や自民党内の商工族議員は京都議定書自体への攻撃を強めている。環境省の危惧も分からないではない。議定書の批准という大局的な勝利のためには小さな後退はやむをえないという考えを咎めるつもりもない。

だが環境省は環境省、水野賢一は水野賢一である。私は一人の議員としてあくまでも自説を貫いていくつもりである。法改正によって制度そのものを改めることが頓挫したのであれば、現行制度の枠内で次善の手を打つしかない。それが今回の情報公開請求なのである。

◆説得力に欠ける産業界の論理
ところでなぜ産業界はCO2 の排出量公表の義務化に猛反発するのだろうか。実を言うと私にもよく分からない。例えば炭素税・環境税といった新税を課すというのならば彼らが反対するのはまだ分かる。新たな経済的負担が生じるからである。またエネルギーの割り当て制のようなことに反対するのも産業界からすれば当然だろう。自由な経済活動を阻害する恐れがあるためである。だがCO2の排出量の公表というのは、新税でもなければ規制でもない。単なる情報公開にすぎない。ちょうど企業が売上高や経常利益を公表しているように、CO2についても公表すべきだというだけのことである。決して無理難題ではないはずである。

「CO2 の排出量は企業秘密だ」という反論も聞いたことがある。だがCO2 の排出量がどうして企業秘密なのだろうか。もしこれを企業秘密だというならば売上高や経常利益の方がよっぽど重要な機密ではないだろうか。さらに言えば、現に排出量を公開している企業も多いのである。それによって企業活動に悪影響があったなどという話は寡聞にして聞いたことがない。

「安易な義務化ではなく企業の自主的な取り組みに任せるべきだ」という声もある。特に産業界の人は二言目にはそういうことを言う。企業が自主的に温暖化に取り組むことは大歓迎である。ただ自主性だけに任せておくと最低限のことも実施しない会社も出てくる。現行の温暖化対策推進法が排出抑制計画の作成を求めているにもかかわらず、未作成の企業が多いのは先に見た通りである。この法律が企業に対しては“努力義務”しか課していないからである。やはり最低限の義務は必要なのである。

◆情報公開請求へ
経済産業省・産業界側はありとあらゆる反対論を展開した。だいたいは説得力に欠けるものだったが、その中で一つ興味深い意見があった。経済産業省のある人は次のように主張した。「産業界はすでに省エネ法に基づいて使用した燃料や電力の量を経済産業省に報告している。すでにそういうことをやっているのに、今度は二酸化炭素の排出量を環境省に報告しなければならないというのでは屋上屋を架すことになり、二重規制になってしまう」。

これは確かに一面の真理を衝いている。似たような報告を一方で経産省に、他方で環境省にするというのはいかにも縦割り行政で非効率である。もちろんこれを言った人は「だから企業に二酸化炭素排出量の報告や公表の義務を課すべきでない」と説いているわけである。だがこれを聞いた私はすぐに別のことを思った。「それならば現在すでに実施されている経産省への報告を公開してもらってもいいな」と考えたわけである。

そこで経済産業省に対して、この資料の公開を求めた。だが返ってくるのは否定的な答えばかりだった。曰く「企業秘密に該当します」、曰く「この資料は公開を前提としていません」という具合である。つまり普通のやり取りでは埒が明かなかったわけである。しかも一方では、地球温暖化対策推進法の改正案も大幅に後退した内容になってしまった。このままでは日本の環境行政は大きく遅れてしまう。それならばということで情報公開法第4条に基づいて、2月1日に情報公開請求を行なったのである。

請求を受けた官庁側は30日以内に開示・不開示の決定をしなければならない。 開示されれば問題はないが、不開示という決定を下すこともありえる。その場合には、請求者である私は不服申立てができる。この場合は内閣府の情報公開審査会が公開の是非について事実上、判断を下すことになる。今後、事態がどう推移するかはまだ分からない。だが事がここまでに至らないように経済産業省がすんなりと情報を開示することを希望している。情報公開と温暖化対策という大きな流れに逆らうことはもはや許されないのである。
 

謹賀新年 大予想

2002.01.15

「謹賀新年 大予想」

新年の軽い気分で2002年を大予想。どれだけ的中するかは年末までのお楽しみ。
大予想 2002年
いよいよ2002年になりました。21世紀に入って2年目の年です。年頭にあたって今年の政治・経済・国際・その他の10項目を大予想してみました。大晦日に振り返ってみて、どれだけ的中しているでしょうか。

①小泉内閣は続いているか
②衆議院の解散・総選挙はあるか
③北朝鮮との国交は正常化するか
④テロリストが核を使用することはあるか
⑤平成14年度の日本経済はプラス成長するか
⑥平成14年度の国債新規発行は30兆円以内か
⑦偵察衛星の打ち上げは成功するか
⑧京都議定書は批准されるか
⑨国内で原発事故は起きるか
⑩貴乃花は引退するか

cf. ⑤と⑥と⑦は年度での予想です。あとはすべて今年末までの予想になります。
もちろん予想・予言の常として軽い気分で書いています。当たる・当たらないについても責任は負いかねます。それでも軽い気分の中に自分なりの政治観を盛り込んだつもりですが…。

①小泉内閣は続いているか
続いていると思う。また続かせるべきだとも思う。だいたい日本の首相の在任期間は短すぎる。クリントン大統領が8年間の在任中、宮沢氏から森氏まで7人もの日本の首相とわたりあったというのはやはり異様なことである。自民党の総裁任期は2年である(3年に延ばすことがほぼ決定したが)。昨年4月に選出された小泉氏の任期はまだまだある。ルールに従って一度選んだからには、むやみやたらと足を引っ張るのではなく、きちんと支えることが大切だろう。もしどうにもならないほど資質に欠けるというなら話は別にしても(過去にそういう総理もいたし、今もそういう閣僚がいるが)、小泉首相の唱えていることは内政・外交ともに基本的にまっとうである。「改革には痛みが伴う」と断言し、国民に痛みの覚悟を呼び掛けた首相がこれまでいただろうか。甘いことを言ってばかりいるのが政治家ではない。本年はいよいよ改革も正念場である。異例の高支持率も下がってくるだろう。不人気になろうともやらなければならない政策もある。そういう時こそ我が自民党がしっかりと総裁を支える必要がある。

②衆議院の解散・総選挙はあるか
ないと思う。いつものことながら“X月解散説”みたいなものは流布されるだろうが結局は解散はないと思う。小泉総理は昨年(01年)、何回も次のような発言をしていた。「来年は参議院選もない、統一地方選もない、東京都議選もない。そして衆議院も任期満了にならない。そういう珍しい年だ。だから選挙のことを考えずに改革に全力投球できる」。総理はこういうことであまり嘘を言う人ではないと思う。だからこの発言は額面通り受け取ってよいだろう。今年は構造改革に力を傾注して解散などはやらないというのが総理の本心ではないか。 それにしても区割りの問題は早急に決着を付けてもらいたいものだ。新たに出てきた区割り案では私の選挙区は真っ二つにされている。この案でいくのか、はたまた現行の区割りでやるのか、それとも中選挙区の一部復活でいくのか早く結論を出してほしい。

③北朝鮮との国交は正常化するか
しないと思う。またしなくても構わないと思う。北朝鮮との国交交渉は91年に始まったがほとんど進展していない。その間、同国はミサイルを三陸沖に発射したり、たびたび不審船事件をおこしたり、日本側の神経を逆なですることばかりしている。拉致事件に誠意ある対応を見せないばかりか、昨年12月には同国の船(まず間違いないだろう)が海上保安庁船にロケット弾攻撃まで加えた。 とても日本から食糧支援を受けている国の態度とは思えない。こうした中で国交交渉を進める必要はどこにもない。そもそも日本側には国交を樹立しなければならない積極的な理由など最初からない。支援が欲しい北朝鮮側こそ国交交渉を求めているのだ。今はまず北朝鮮が前非を悔いて謝罪するのが先決である。 それなくして国交正常化などありえないのである。

④テロリストが核を使用することはあるか
ないと思う。ただそれはテロリストがまだ核兵器を手に入れていないからにすぎない。狂信者たちが大量破壊兵器を入手すれば、ためらわずに彼らはそれを使うだろう。それだけにテロリストの根絶が必要なのである。ビンラーディンらを野放しにしておけば核テロの可能性さえあったのだ。 もっとも核を使用する可能性があるのはテロリストだけではない。 一番危険なのはインド・パキスタンの対立だろう。この両国の対立は長年続いているが昨年末から再び緊張が高まっている。 そして両国とも核保有国である。戦後米ソがどんなに対立しても核の使用という最悪の事態に陥らなかったのは「核攻撃をすれば相手も核で反撃してくるので結局は自殺行為だ」という認識を双方が持っていたからである。ところがインドとパキスタンの場合、核攻撃を受けた方はもはや反撃する力はないだろう。こうした状況は危険である。先手必勝という雰囲気になるからである。

世界中の諸問題をすべて解決するのは難しい。それでもこうした危険な地域紛争を最大限予防することが国際社会に求められている。

⑤平成14年度の日本経済はプラス成長するか
しないと思う。ちなみに⑤⑥⑦の設問だけは「平成14年度」の予想なので来年3月末までのことである。政府の経済見通しでは実質成長率0.0%といっているが、政府見通しほどあてにならないものはない。以前も経企庁が「桜の花の咲く頃には景気回復」などと勝手な予想をしたものの秋になっても一向に回復しないということがあった。 まあ政府に限らずエコノミストの予想が外れることも日常茶飯事なのだから景気の予想はそれだけ難しいともいえる。ちなみにここでの私の予想もそれほど根拠があるわけではない。ただ個人消費の低迷や加速化するデフレ的な要素を見れば、プラス成長というのはやっぱり難しく、成長率はマイナス0%台というところではないだろうか。

⑥平成14年度の国債新規発行は30兆円以内か
30兆円以内になると思う。小泉総理は国債の新規発行を30兆円以内に抑えることを公約した。厳密にいえばこの公約は平成14年度予算からのことである。13年度の予算は森内閣が編成したのであり小泉首相の方針で作られたわけではないからだ。それでも小泉首相は13年度の補正予算の時にも30兆円の枠にこだわった。 その結果、NTT株売却益という「へそくり」を使ってまでその枠を守り通した。それを考えれば本来の公約である14年度の達成は間違いないのではないか。確かに30兆円という数字に合理的な根拠がないという批判もある。しかしJ・ブキャナンらの指摘を待つまでもなく民主国家では放漫財政になりがちである。こうした歯止めがなければ赤字が雪だるま式に増えてしまうことも忘れてはならない。現にこれまでそうだったのである。財政再建に真剣に取り組みはじめていることは評価すべきだろう。

⑦偵察衛星の打ち上げは成功するか
成功する。2002年度は日本初の「偵察衛星」の打ち上げが行なわれる予定だ。偵察衛星という言い方は穏当でないので政府は「情報収集衛星」と呼んでいるが、偵察機能を持っていることに変わりはない。この動きを促進したのは98年に北朝鮮が日本近海にテポドンミサイルを発射した事件である。近隣にこうした冒険主義的な国がある以上、日本としてはその動向を正確に把握することが必要になってくる。この打ち上げに使われるのが宇宙開発事業団が開発したHⅡAロケットである。同事業団は1975年以来29回連続してロケット打ち上げに成功してきたが、その後2回連続して失敗を繰り返した。 その名誉を挽回したのが昨年打ち上げに成功したHⅡAロケットである。これによってようやく日本のロケットも技術だけでなくコスト面でも国際競争に耐え得るものになってきた。情報収集衛星の打ち上げだけでなく、今後の民間需要にも応えられるようになることを期待したい。

⑧京都議定書は批准されるか
批准する。地球温暖化対策は21世紀の人類の抱える最大の課題の一つである。そのため97年に各国が京都に集い議定書を採択した。いま国際社会ではこれを2002年には発効させようという流れになっている。そのためにはどうしても日本の批准が必要である。 政府もその方針である。ただ気掛かりな点もないではない。 産業界を中心に京都議定書に反対する声が強いのだ。批准にあたっての留意点を述べるなどという生やさしいものではない。議定書そのものを葬り去ろうという勢いである。さらに自民党内にもそれに呼応するような声もある。だが地球環境の重要性は一部企業の都合よりもはるかに優先する。ことの軽重大小を見誤ってはならない。議定書といえども完璧なものではない。だがこれに代わりうる国際合意がないのも事実である。ここで発効させなければ世界の温暖化対策は10年は遅れてしまう。批准に向けて国会の見識が問われている。

⑨国内で原発事故は起きるか
大きなものは起きないと思う。というよりもそれを願う。このところ95年の「もんじゅ」、97年の東海再処理工場、そして99年のJCOの臨界事故と2年おきに原子力関係の大きな事故が起きている。 01年はどうだったかというと浜岡原発などに問題があったが、幸いにして惨事に至るようなものはなかった。とはいえ油断は禁物である。事故だけではなくテロの危険性もある。かつて米国で原子炉の大事故の可能性は「ヤンキースタジアムに隕石が落ちる確率よりも低い」という報告がありました。隕石にぶつかる可能性まで誰も心配しないように、原発事故を心配する必要などないという意味である。事故の可能性がそんなに低いかどうかはともかく、少なくともテロという人為的破壊も勘案すればそんなに呑気なことは言っていられない。かといって原発をジャンボジェットが突っ込んでも大丈夫な設計にすれば、莫大な費用がかかり、採算性がとれなくなる。いずれにせよ原子力政策は大きな岐路にさしかかったといえるのではないか。

⑩貴乃花は引退するか
すると思う。昨年の小泉語録の一つが「感動した!」だった。大相撲夏場所で怪我をおして出場して優勝した貴乃花に賜杯を渡す時の言葉である。だがその貴乃花もその後は怪我のための休場が続いている。再び土俵に上がっても全盛期のようにはいかないだろう。 それにしても横綱というのは大変だ。休場しても陥落しないかわり、出るからには横綱らしい成績を残さなければならない。残せないならば引退が待っている。その引き際が難しい。曙のように優勝してすぐに引退というのならば格好良いが、弱くなってもいつまでも地位にしがみつくのではみっともない。 もっともそれが最高位の人の責任ともいえる。振り返って政界を見るとどうだろうか。最高位(首相)を極めた後にいつまでも議員バッジにしがみつく人が多すぎるのではないだろうか…。

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